Eラーニング市場が活況である。
受講生がそれぞれの自宅でスマートフォンやタブレットを使い学習できるサービスが増えており、小学生向けから社会人の学び直し(リカレント教育)まで、幅広い世代の学習に対応している。
昨今では本や雑誌などの文章を人間が読み、録音した音声コンテンツを提供するオーディオブックのサービスも増えている。
私の趣味は読書であり、普段は(一見すると当然といえば当然だが)紙の本や電子書籍を目で見て読むことが多い。
一方でオーディオブックも日常的に利用している。移動時間や家事の時など主に手がふさがってしまう時には、スマートフォンにダウンロードしたオーディオブックを聴きながら諸事をこなすこともある。
「音声で情報を得られる」メリットはたくさんあるが、とくに視覚障害者にとって音声の恩恵は計り知れない。
そして単に音声を聞くだけでなく「音を頼りにスマートフォンやタブレットを操作する」ことまでできれば、さらに活用の幅が広がることは間違いない。
iOSの音声読み上げ機能「ボイスオーバー」
iPhoneやiPadの基本ソフト「iOS」には、機器の操作を音声読み上げで補助する「ボイスオーバー」という機能が標準で搭載されている。
ボイスオーバーを使うことで、画面を視認することが難しい視覚障害者でも、音声を頼りにiPhoneやiPadを操作することが可能になるのだ。

これは何も全盲の人に限ったことではなく、視力が低い弱視の人にも活用できる。
弱視の場合「アプリが並んでいるなど、画面に何かが表示されている」ことはぼんやりとわかる場合がある。しかしアプリのアイコンに併記されているアプリの名前は小さなフォントサイズの場合が多く、そこまでは目で読み取れないことも多い。
ボイスオーバーを使うと、たとえばアプリをタップするとすぐアプリの名前を音声で教えてくれ、かつアプリの開き方も教えてくれる。ぼんやりとした視力で触ったアプリの名前が何か目で読み取れなくても、音声を聞くことで理解することができる。
「OSに標準搭載」という重要性
ボイスオーバーの優秀なポイントはたくさんあるが、基本的なこととして「OSに標準搭載」という点が秀逸だ。
今でこそWindowsやAndroidといったOSでも音声読み上げ機能の実装・実用レベルは向上してきたが、ひと昔前は実用性に疑問のある時期もあった。たとえば以下のようなものだ。
- 音声読み上げ機能はOSに標準搭載されているものの、使い勝手が悪くて使いにくいので、サードパーティ製の機能を有償で購入する必要がある
- OSは共通だが端末は多くのメーカーがそれぞれ開発しているため、端末によって音声読み上げ機能の実装度合いが異なる
音声読み上げ機能がOSに標準搭載されていない場合、端末購入費用とは別に、音声読み上げ機能を追加するための費用が別途かかることになる。こうしたいわゆる「専用機能ソフト」は高額なものも多く、利用者には金銭的な負担が重くのしかかる場合がある。
OSは共通でも端末がメーカごとに異なる場合、端末によっては「音声読み上げ機能用アプリを追加でインストールする」といったひと手間がかかることもある。とはいえ「たかがひと手間」と侮るなかれ。
OS=端末というわかりやすさ
ただでさえ視覚障害者はスマートフォンやタブレットを一人で操作することが難しいのに、音声読み上げ機能のインストール作業を一人で行うことがどれほど困難かは想像に難くないだろう。
iOSのようにOS=端末であればこのような差異が発生することはない(前述のようにそもそもiOS端末には標準で音声読み上げ機能が搭載済み)。
しかし某OSのように、OSは共通でも端末がメーカごとに異なる場合、ひと括りの説明ではこと足りず、それぞれの端末に合わせた解決方法を探し出し対処する必要が出てくる。設定だけでなく、設定を行う以前の情報収集も大きな負担となってくるのだ。
「OSに標準搭載」のメリットは他にもたくさんあるが、それはまた別の機会に紹介していきたい。
OSレベルでの機能実装によって、コスト的にもユーザビリティ的にも恩恵を受けられるユーザは少なくない。学習や学び直しにおける敷居の引き下げに貢献する点は多いだろう。