前回はiOSの音声読み上げ機能「ボイスオーバー」について、こうしたアクセシビリティ機能がOSに標準搭載されていることがいかに重要なことか紹介した。
また「OS=端末」であることのわかりやすさが、障害者にとっての使いやすさにつながることについても取り上げた。
世間一般に広く利用されているスマートフォン(スマホ)やタブレットなどのデバイスは、基本的に健常者の利用を想定して開発・販売されている。
購入してくれるユーザ数が障害者のそれよりも多いと見込まれるためだが、実は障害者にとっても一般向けに販売されているデバイスを使用するメリットがある。
今回は障害者が日常生活で使用する機器の購入などで利用できる制度の紹介と、制度が利用できない機器を障害者があえて使用するメリットについてお伝えしたい。
日常生活用具給付等事業
障害者総合支援法(厚生労働省)における「日常生活用具給付等事業」は、日常生活用具を必要とする障害者(児)や難病患者が、生活をより円滑に過ごすために必要な機器の購入・貸与に対する助成を行なっている。
機器の購入・貸与にかかる障害者の金銭的な負担は各市町村によって異なるが、一割程度の負担で購入することができる場合が多い。
障害者専用に開発された機器やソフトの多くは総じて高額なものが多い。こうした制度を利用することで障害者は自身の障害をカバーする機器やサービスを利用することができ、日常生活の負担を和らげたり、生活の幅を広げたりすることができる。
助成の対象となる機器の例としては、歩行を補助する杖や電動車いす、めがねや補聴器などが挙げられるほか、介護訓練に使用する特殊なマットや入浴補助用具などさまざまだ。視覚障害者の場合は点字に関する機器や音声の収録に使用するレコーダなども対象となる。
スマホやタブレットは助成の対象外
障害者にとって多くの恩恵を得られる制度だが、残念ながらスマホやタブレットは対象外だ。
「日常生活用具給付等事業」で対象となるには下記の用件を満たす必要がある。
- 障害者等が安全かつ容易に使用できるもので、実用性が認められるもの
- 障害者等の日常生活上の困難を改善し、自立を支援し、かつ、社会参加を促進すると認められるもの
- 用具の製作、改良又は開発に当たって障害に関する専門的な知識や技術を要するもので、日常生活品として一般に普及していないもの
スマホやタブレットは3つ目の「日常生活品として一般に普及していないもの」に該当するとは言えないため、この制度で助成を受けることはできない。
一部の自治体では障害者がスマホやタブレットを購入するための助成制度もあるようだがまだ限定的であり、広く普及しているとは言えない。
そのため基本的には障害者も一般の人と同じ条件での購入が必要となる。
障害者が「障害者専用ではない」機器を使うことで得られる意外なメリット
ここで話は逆説的になるが、障害者専用機器ではないスマホやタブレットを、あえて障害者が使う理由はなんだろう。
スマホやタブレットは、基本的に健常者が利用することを想定して作られた一般向け機器だ。障害によっては当然使いにくい機能もある。
それでも障害者の中にはスマホやタブレットを購入し、日常生活に活かしている人が増えてきた。
その理由についてこれまで多くの障害者に話を聞いてきた。その中でもとくに多かった意見を3つ紹介したい。
①好奇心
1つ目は、好奇心だ。
スマホやタブレットが普及するにつれ、自分の周囲にも利用し始める人が増えたため自分も使いたくなったという、ごく一般的な心理で使い始めたという声が多かった。
②先駆者となった当事者の存在
2つ目は、先駆者的な当事者の存在がある。
障害者の中にもITに造詣が深い人がおり、他の障害者に先駆けていち早くスマホやタブレットを利用し始めた人たちによって「障害があっても利用できる」「障害をカバーしてくれるような使い方ができる」という話題が少しずつ広がった。
このことがそれまで購入をためらっていた障害者にも「自分にも使えそうなら使ってみたい」と思うようになり、徐々にスマホやタブレットを購入する人数が増えていった。
③わからないことを聞きやすい状況
最後の3つ目は、周りに使っている人が多いので使い方を聞きやすいことだ。そしてこれこそ障害者が「障害者専用ではない」機器を使う大きなポイントだと感じた。
障害者専用機器は、周囲の健常者にとって日常的に使わない機器だ。つまり健常者は「使い方を聞かれてもよくわからない」場合が多い。
しかしスマホやタブレットは健常者が日常的に使用しているため、基本的な操作方法を聞けば教えてくれるし、障害があって操作できないようなことも、健常者が代わりに操作を行うこともできる。
いつでも身近な人に操作方法を聞けたり代わってもらえたりすることは、障害者にとって大きなメリットだ。
もちろんボイスオーバーなど、より専門性の高いアクセシビリティ機能を利用するには健常者でも難しい場合はある。こんな場合でもたとえば全盲のユーザがボイスオーバーを頼りにスマホを操作していて、都度画面がどう変化しているのかを健常者が目視で確認し、様子を教えてあげるだけでも大きな助けとなる。
スマホやタブレットの相互扶助的メリットを活かしてほしい
機器の使い方がわかる人が多ければ多いほど障害者にとっては利用する敷居が低くなる。それは教育現場でも同じことが言える。
使い方が特殊過ぎてごく一部の人しか扱えない機器よりも、多くの人が使い方を理解し教えられる機器の方が、教える側もサポートがしやすい。
もちろんスマホやタブレットがすべてのニーズを満たせるものでないことは前述した通りだが、多くのユーザがいるスマホやタブレットを利用することで得られる相互扶助的なメリットはぜひ活かしてほしいと思う。