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盲学校で活用されていた学習支援アプリ~ICT活用の現場から⑤

先日、文部科学省は小中高校などでのICT(情報通信技術)利活用について、児童生徒1人につき1台、教育用のパソコンやタブレット端末が利用できる環境を2025年度までに整備することを目標として掲げた。

「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)」について

教材としてこうしたIT機器が適切に利用されることを期待しているし、一部ではすでにパソコンやタブレット端末が学習に活用されている例もある。

それを直接垣間見たのは数年前、仕事で青森県内の盲学校に行ったときのことだった。

障害によって異なる筆記用具

それは特別支援学校に通う生徒を対象とした技能訓練大会が控えており、プレゼンテーション部門に出場する予定の生徒さんたちへ向けての講習を依頼されて訪問したときのことだ。

生徒さんは2人で1人は弱視、もう1人は全盲だった。

それぞれの机の上にはメモのための筆記用具が置かれていたが、よく見るとそれぞれに違うものを用意していた。

弱視の子は普通のノートと鉛筆。全盲の子は点字用の紙と、点字を打つための器具を用意していた。

筆記用具といえばノートにしろペンにしろ、デザインなどの差こそあれ、機能的に大きな違いのあるものを使うことは少ないと思うだろう。

一方でそれぞれの障害に合わせた筆記用具を使うことにより、障害や学習しやすさを補う学習方法が特別支援学校では大切なことと言える。

全盲の子が使用していた教科書アプリ「UDブラウザ」

講習が終わったあと私から生徒さんへ、聞きたかった質問を投げかけた。

「普段勉強するときによく使うアプリとかありますか?」

すると全盲の子が持っていたiPadを取り出し、「UDブラウザ」というアプリを見せてくれた。

UDブラウザの画面

UDブラウザは主にロービジョン(弱視)者の見やすさや使いやすさを考慮して開発されたアプリで、教科書や教材などをこのアプリで閲覧できる。

生徒さんが使用していたUDブラウザは開発に協力するための特別版で、たくさんの教科書が入っていた。

教科書のページを開くと、見た目はまさに教科書といった体裁の画面が表示される。カラフルで懐かしい感じだ。

当然ながら画面を拡大表示できるし、ペン機能で教科書内に書き込みをすることもできる。重要なキーワードに赤線を引くなど、紙の教科書と同じような使い方が可能だ。

また任意のキーワードを選択すると辞書機能で意味を調べられたり、音声で読み上げることもできる。

読字障害(ディスレクシア)がある場合、文字を見て読むよりも音声で読み上げられた方が理解しやすい場合がある。ロービジョン以外の障害がある人にも便利だろう。

全盲でも操作可能で便利な機能

UDブラウザでとくに秀逸だと感じたのは、教科書をリフローレイアウト(HTMLベース。テキストをデータとして認識し、アプリによって文字のサイズや行間などを変更できるフォーマット)版にして表示できる機能が備わっていることだ。

リフローレイアウトの場合。

リフローレイアウトにすると、装飾は排除されて文章のみの画面が表示される。画面下には再生や停止ボタンが配置され、再生ボタンを押すと教科書の内容を音声で読み上げてくれる。

文章内の読み上げている箇所は随時ハイライト表示されるので、本文のどこを読み上げているのかがわかりやすい。もちろん文章の見た目も、文字の大きさや色、行間なども自由に調整して見やすく変更することも可能だ。

アプリのメニューボタンなどもiPad標準の音声読み上げ機能「VoiceOver」に対応しているため、操作に慣れれば全盲でも1人で教科書を使うことができる。

同じデジタル教科書でも、単にPDFの画面を取り込み表示する機能だけではここまでできない。PDF内の文字情報は機械側で正確に読み取りできない場合があるからだ。

ロービジョンはもちろん、全盲のユーザにも配慮されたUDブラウザは、教科書アプリとしての秀逸さが際立っていると感心させられた。

そして先に述べたように、読字障害など視覚以外の障害があっても活用できるような機能もあり、より多様な場面での活用も期待される。

ちなみにUDブラウザは一般向けにも公開されており、教科書サンプルとして数冊の教科書の一部を利用できるので、興味のある方はぜひ試してほしい。

今後はさまざまなメーカからデジタル教科書が登場してくると考えられるが、健常者だけでなく、さまざまな障害にも配慮されたデザインや機能性を持たせることで、誰もが使いやすく活用できる学習環境が広がることを期待したい。

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