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コミュニケーション障害をサポートするアプリ~ICT活用の現場から⑦

「言葉で問いかければ言葉で返ってくる」

あたりまえに思われるこうしたことが、人によっては難しい場合がある。

社会で生きていく上で他者とのコミュニケーションは欠かせないのと同様に、教育の現場でも教師と生徒とのコミュニケーションは、生徒の学習力向上にとって重要なポイントだ。教師は生徒との会話や授業での反応など、コミュニケーションを通して生徒に適した学習方法を模索したり、改善を促したりする。生徒も教師に対し、授業に対する質問や相談などを通して何が課題なのか、なぜ躓いているのかを伝え、問題を解決しようと努める。

しかし、さまざまな事情でコミュニケーションを取ることが難しい場合、多くの問題が起こり得ることは想像に難くないだろう。

今回は言葉によるコミュニケーションに難のある生徒が、学校生活で実際に使っていたアプリの活用例を紹介したい。

言葉を発さない女子生徒

数年前、青森県内の特別支援学校を訪問したときの様子はこの連載の初回でも取り上げた。そのときはいくつかの授業を見学させてもらったのだが、授業以外の場面で心に残っていることがある。

それは授業が一段落した休み時間のことだった。

そのとき私は学校を案内してくれた先生と休憩がてら話をしていたのだが、そこへ一人の女子生徒がゆっくりと歩み寄ってきた。

彼女は私たちの目の前に来たものの、何かを話し出すわけでもなく、その場にただ立っているだけのように見えた。彼女の方から歩み寄ってきたところを見ると目は見えているし、こちらの声もなんとなくだが聞こえているように思えた。つまりは目も見えるし耳も聞こえているようだった。

ふと彼女がスマートフォンらしき端末を手に持っていることに気づいた。そして画面には何かの画像が表示されていた。どんな画像だったかは記憶が薄れてしまったのだが、それを見た瞬間すぐに「あ~これのことか!」と自分の中で勝手に合点がいった。それは、以前障害者のICT利活用事例を調べていたときに目にした、とある事例だった。

自分の意思を絵で表示するアプリの事例

その事例は、先天的な障害のため他者に自分の意思を言葉で伝えることが難しい子供が、言葉の代わりにスマートフォンやタブレットのアプリを使うというものだった。

アプリの中にはたくさんの画像が用意されていて、子供は自分が伝えたいイメージに近い画像を複数並べて相手に見せることで、コミュニケーションをとることができる。

事例では、それまで他者とほとんどコミュニケーションをとることができなかった子供が、アプリの補助によって楽しみながらコミュニケーションの機会を増やし、生活や勉学などに積極性を増していった様子が紹介されていた。アプリ利活用の好例ではあったものの、事例でしか知らなかった自分にとって、実際に学校生活で活用されている場面を目の当たりにできたことに驚いた。

と同時に自分がそれまで縁のなかった障害に対して活用の余地があるアプリと、それが実際に役立てられている様子をその場で目にできたことに深く感動したことを覚えている。

絵を並べてコミュニケーションするアプリ「えこみゅ」

自分の感情や伝えたいことを絵で表すアプリは多々あるが、「えこみゅ」はiOS・Androidで使用でき、現時点では無料で200種類のカードが用意されている。

絵を並べてコミュニケーションするアプリ「えこみゅ」

カードは「ほしい」「からだ」「じかん」などのカテゴリーに分類されているため、目的別に探しやすい。自分が伝えたいカードを一度に最大3枚まで表示することができる。カードは画面を相手に見せて伝えたり、音声で伝えることも可能だ。

また好きなカードに音声をつけて保存しておくこともできる。カードにはアプリで撮影した写真も使えるので、自分で好みのカードを音声付きで作ることができる。

言語も日本語だけでなく、10の言語に切り替えて使うことができる。語学学習にも活用できそうだ。

ちなみにここまでの説明から「コミュニケーションが困難な障害に対してなら便利そう」と思うかもしれないが、使いようによっては小さな子供が言葉を覚えるための教育玩具など、幅広い活用方法があると思われる。

生活や学習において重要な「コミュニケーション」をICTの技術で補える可能性は、今後も多くの開発者によって広げられるだろうし、こうした情報がより多くの当事者に届くことを願ってやまない。

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