人財育成講座で教えている障害者・シニアへのICT講習におけるポイント1~ICT活用の現場から⑫

人財育成講座で教えている障害者・シニアへのICT講習におけるポイント1~ICT活用の現場から⑫

筆者は2013年から、青森県内で障害のある方やシニアの方にiPadの使い方を教えられる人材を育成するための活動を、青森県や関係各所の協力を得て行っている。

「障害者・シニアの方にiPadを教える人財育成講座」の様子

令和元年度の現在も「障害者・シニアの方にiPadを教える人財育成講座」と題して、青森県内3地域で全10回にわたる講座を実施中だ。これまでの受講者数は200人に迫る。

この人財育成講座は、名前の通りただiPadの使い方を学ぶためのものではなく、「使い方や活用の仕方を他者に教える」ための知識や方法を学び経験を積むためのカリキュラムで展開している。

iPhoneやiPadを日常的に使っている人は多いと思うが、目の見えない人がこうした機器を使えるようにする機能があることを知っている人は多くない。

聴覚障害についてもただ「耳が聞こえない」だけだと思っている人も多いが、聴覚障害における特性や事情は、場合によっては視覚障害より複雑なものもある。

シニアはどうか。年齢を重ねていない人にとって、シニアと呼ばれる年代の身体的変化や衰えを直接経験できる人はいない。疑似的に身体障害を体験できる機器などはあるが、シニアの身体そのものになってみない限り、どういった変化や不都合が起こるのかを理解することは難しい。

人財育成講座では多くの人にとって「未知」とも言えるこうした事柄を、iPadなどの機器利用や活用方法を通して少しでも理解してもらい、(健常者も障害者・シニアも含む)身近な人へ伝えてもらう役割を期待して行ってきた。

人財育成講座で扱っている内容は、本サイトをご覧になっている教育関係者の方々にも役に立ててもらえるポイントが多いと思う。今回はその一部を紹介したい。

一見同じように見えても細かいところが違うiPad

人財育成講座の初回では、iPadにおける基本的な知識や操作方法を学ぶ。

iPadは毎年新しい機種が登場するが、可能な範囲で実機を用意し直接手で持ったり画面を触ってもらったりなどする。

昔は「手に持ってみてどうですか?」と尋ねると「重い!」という声が多かったが、ここ最近は講座で使用するiPadも比較的新しい機種を用意できていることもあり、重さが気になるという方はずいぶんと少なくなったように思う。

見た目は同じように見えても、画面サイズや側面のボタンの数、コネクタ部分の違いなど、細かく見ていくとiPadごとに微妙な違いがある。

最新のiPad Proにいたってはホームボタンやイヤホンジャックがないなど、従来機種と大きく異なる部分もあり、受講者には「こっちのiPadにはあってそっちのiPadにないものはなんでしょう?」と、間違い探しゲーム感覚で違いを探してもらったりもする。

ただ説明するのではなく、受講者に興味をもって学んでもらえるよう、講座では随所に受講者へ質問を投げかけることが多い。

全盲の人が選ぶのはiPhone? iPad?


 
講座の初回で受講者に投げかける質問の中に「全盲(目が見えない)の人に選ばれることが多いのはiPhoneとiPadのどちらだと思いますか?」というものがある。受講者からはiPhone派とiPad派の両方に意見が分かれることが多い。

結論からいうとこの質問に絶対的な正解はない(全盲の人の中にはiPhoneとiPadそれぞれユーザがいるし、両方を併用している場合も多いからだ)。

しかしここでは「強いて言えば」という前置きをした上で、正解は「iPhone」と答えるようにしている。

ポイントは「全盲の人は画面を見て使うわけではないので、画面の大きさ(≒見やすさ)は必要ない」という点だ。

受講者の中には「全盲」という前提を聞いていても「視覚に障害のある人は画面の大きい方(iPad)が見やすくて使いやすいのでは」と思ってしまうことがある。

目が見える自分の立場から、目が見えない人の状況をよくよくイメージして答えたつもりでも、事実との剥離が起こる場合は多い。

同じWebサイトでも異なる表示内容と画面サイズ

またiPadと答えた他の理由として「iPadの方が画面が広いので、目が見えない人でもボタンなどを押しやすいのは」というものもあった。

たしかに、iPhoneよりも画面サイズの大きなiPadでは、同じボタンでもサイズは大きくなり押しやすくなる場合がある。ただ一方で、画面が大きいということはそれだけ「押せる要素や内容が広範囲に散らばっている」ということでもある。

例としてYahoo! JAPAN(ヤフー)のトップページを挙げてみよう。iPadで見たときはPC版、iPhoneで見た時はスマホ版のレイアウトがそれぞれ表示される。

iPhoneで表示したヤフーのトップページは、PC版と比べてボタンなどが少なく厳選されている。またiPhoneを両手で持てば画面内のほぼどこにでも簡単に指が届く。

この「要素の少なさとタップする移動距離の小ささ」というメリットは、デバイスをiPhoneからiPadに置き換えるとそっくり逆になる。

PC版のヤフーのトップページはメニューやテキストなど非常に多くの要素で構成されている。また画面が大きいぶん、目的の要素を手探りで探す場合の難易度が上がってしまうのだ。

晴眼者からは便利に思える「画面の大きさや見やすさ」が、視覚に障害のある人にとっては必ずしも同じとは限らない。むしろ逆の意味になってしまうこともある。

人財育成講座ではこうした「自分の現状からはイメージしにくいこと」をたくさん掘り起こして、他者の立場や視点に立ったモノの考え方や知識をたくさん学べるようにカリキュラムを組んでいる。

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