京都産業大学附属高等学校がChromebookを470台超導入したわけ――一歩先行く意識が功を奏したオンライン授業への取り組みとこれから

京都産業大学附属高等学校がChromebookを470台超導入したわけ――一歩先行く意識が功を奏したオンライン授業への取り組みとこれから

京都産業大学附属高等学校では、2020年度春より全1年生(470名超)に対し、Chrombookを利用した授業を行っている。タイミングで見ると新型コロナウィルス対策のようにも捉えられるが、もともとはICT教育の取り組みとして準備され、今回の新型コロナウィルス蔓延の状況下で、スムーズにオンライン授業へのシフトにつながった。

今回、このタイミングで準備してきた背景、そして、2020年4月の緊急事態宣言発令から解除、さらに、夏以降の授業に向けてどのように取り組んでいくのか、担当の森本岳先生に話を伺ったので、その模様をお届けする。

京都産業大学附属高等学校にて、学校のICT化を進める森本岳先生。今回、ビデオMTGにてお話を伺った

3つのフェーズで進めた、京産大附属高校のICT化

――まず、Chromebookを導入するに至った経緯について、これまでの授業の形やそこにあった課題、そして、実行に踏み切った動機と要因などについて教えてください。

森本:

2012年に旧校舎が手狭になったことと老朽化が進んでいることを理由に壬生校地へ移転したのですが、この時点では将来用に教室の至る所に配管だけ通したもののICT化については何も手付かずの状態でおいてありました。しかし近隣公立中学校や大阪府下私学などでICT化が急速に広がりつつあるのを見過ごすわけにはいかないという状況と、社会のニーズに合わせて従来型の教育を変えていかないといけないという気運の高まりからICT化を進めることになりました。

ICT化に向けては、3つのフェーズを用意しました。

  • フェーズ1:全館WI-Fi完備(サーバによる100箇所のAPを一元管理)、教室のICT化およびIoT化(2017年)
  • フェーズ2:サーバ増強&仮想化、教員PCの2in1化、G Suite/Microsoft Office 365導入(2018-2019年)
  • フェーズ3:新入生全員Chromebook購入開始、1to1環境開始(2020年)

フェーズ3の最後の取り組みとして、Chromebook導入に至ったという経緯です。

それぞれについて、少し詳しく説明します。

フェーズ1:教室のICT化

まず、フェーズ1で行った教室のICT化およびIoT化では、全教室にAndroidベースのコンピュータと電子黒板・音響機器などを導入し、それらを全てネットワークでつなぎ一体のシステムとして稼働させ、先生方によりそったデザインにまとめました。そうすることで、授業のスピードやテンポ感を崩さずに直感的にさまざまなICT機器を操作できる教室を目指しました。構築にあたっては、大阪の青井黒板製作所さん、神奈川の富士ソフトさんにご協力いただき、先生方のニーズに合わせて開発を行ってもらいました。

多くの学校で見られる黒板のホワイトボード化は行わずに元々あった黒板を活かした最大の理由は「板書へのこだわり」です。黒板のメリットは、圧倒的に視認性が高く、蛍光灯や太陽光の反射の影響が少ないこと、長時間見続けても目の疲労が少ないことが挙げられます。(先生方のこれまでの経験値などをふまえ)チョークのほうが多彩な表現がしやすいことも重要な要素でした。

その既存の黒板にスライドレールを載せて、黒板とスクリーンを併用できる環境にしました。板書は「残るもの」、スクリーンに映すものは「一時的なもの」というコンテンツに合わせた使い分けや、目線の自然な移動に合わせた配置で授業が行えるようにしています。

その他、Google検索やNHK for School・YouTubeなどにある動画教材に電子黒板にタップするだけでアクセスできたり、手元のデバイスの映像を無線で飛ばして映せるようにミラキャストやAirPlayの搭載はもちろん、教室の全機器を一元コントロールできるようになっており、各学年・各コースごとの教室に任意の音声や動画の教材を流したり、Googleカレンダーを活用した本日の連絡を流したり、学内のどこからでも映像をライブ配信できるようにもなっています。

すでに3年ほど経ちましたが、教員からの反応は非常に良いです。とくに年配の先生方にとってはそれまで慣れ親しんだ黒板での授業ができることに加えて、教員室のパソコンからサーバにプリント教材のデータをコピーしておけば、教室の黒板に簡単にプリントを写して、そこに電子ペンやチョークで直接書き込みながら授業ができるため、今までより生徒が視線を上げて授業を受けてくれるようになり、対面であることの価値が再確認できた点を評価してくださっています。

また、言葉で伝えきれなかった部分を簡単に映像で伝えたり、実演している手元を大きく見せられるなど、今までやりたかったけれどできなかった教え方ができるようになったという声も多く寄せられています。

全教室にヤマハのスタジオ用のモニタスピーカを導入したことで、英語科の先生からリスニングが非常にクリアに聞き取れるという感想をもらっています。これまではラジカセを教室まで持ち運び行っていましたが、サーバに入れた音声データを各教室で電子黒板をタップするかリモコンを押すだけで流せるので、荷物を運ぶ必要もなく準備が非常に楽にでき、今まで以上に授業がスムーズに始められるようになりました。

また、授業の進度やその場の生徒の質問などに応じて咄嗟にあらゆる教材にアクセスできる点も非常に重宝しています。起動は10秒、タップorリモコンだけでPDFやWord・PowerPoint、各種音声・動画ファイルなどのファイルは全て開けられます。この点は、授業の形そのものは変わらずとも、技術の進化が授業の質を高めた好例と言えるのではないでしょうか。

教室の機器の操作はほとんど電子黒板をタップするか教室に置いているリモコン(家庭用テレビのリモコンのようなもの)で操作できるため、先生方にとって家電を操作する感覚で利用できている点も大きいですね。

フェーズ2:教員PCの2in1化

次に、フェーズ2です。ここでは、データ量増加を見据えたの学内サーバのリプレイス(サーバ増強&仮想化)、そして、教員のPCの2in1化(複数OSの併用)を目指して取り組んでいます。

教室のICT化が進んだことで、教員は教員室で準備した授業向けコンテンツやネット上のコンテンツを気軽にデジタルで利用できるようになりました。ただ、同時に進行していた“デジタル教科書”や、各教科に特化して教科書会社が出しているツールの多くはWindowsやiPadOS対応であり、教室の機器だけで利用することはできませんでした。

たとえば、数学の授業であれば、さまざまなグラフや数式を扱いますが、それらを静止画として使うのであればPDF化すれば良いのですが、点Pを動かしながら軌道や面積をシミュレーションをしたりするとなると専用のアプリが必要です。立体の体積の問題も3D画像をグリグリ動かして見た方がイメージしやすい。

このことはすでにフェーズ1の段階で想定しており、フェーズ1では先生方が簡単に、そして素早く使えるシステムに特化する半面、多機能性を犠牲にしました。でも、色々なツールを使いこなして授業をしたい先生も一定数おり、それらの先生のために教員PCの2in1化を行いました(これまでのPCは教室に持って行くには重たくバッテリも貧弱なものでした)。また、見えない部分ではありますが、同時にサーバの強化&仮想化を行い、デジタルコンテンツの増加を見込んで容量を増やしたり、リソースをより効率的に活用できるように全面的に見直しました。

加えて、教員だけでなく中高生にG SuiteとMicrosoft Office 365を開放し、学内のADサーバと連携することでアカウントの共通化と一元管理を可能にしました。学校のアカウントがあることで、生徒たちは自宅の個人PCやタブレット、スマートフォンにも無料でアプリをインストールすることができるため、家庭内でのクラウド学習環境を整備することにつながりました。教員からの課題の配信や連絡および提出、アンケート調査、Officeツールを使ったプレゼン準備やレポート作成がシームレスに学校でも家でも行えるようになりました。

フェーズ3:新入生全員がChromebookを購入

そして、2020年に入り、京産大附属高校としてのICT化の最後の段階、フェーズ3を迎えました。新入生470名がChromebookを購入し、Chromebookを活用した、1to1でのICT授業の開始です。まだ始まったばかりですが、想定外の新型コロナウィルス蔓延の影響に対し、授業のICT化、そして、オンライン授業の準備が結果的にタイミングが重なった、という状況ですね。

Chromebook導入の経緯

――2020年の新年度スタートのタイミングで、新入生470名に対し、Chromebook導入と1to1授業を開始したとのこと、この部分についてもう少し詳しく教えてください。まず、なぜ、通常のノートパソコンではなく、Chromebookを選定したのでしょうか。

森本:

選定をスタートしたのは、2018年ごろでした。そのときの選択肢として、Windows、iOSの2つが上がったのですが、当時はまだiOS(iPad)のアプリがそこまで拡充しておらず、生徒たちに仮説と検証を通して0から1を創るというクリエイティブな体験をさせるためには、iPadやApple Pencilでは不足という判断でした。そこで、Windowsとなったとき、アプリや世の中での普及といった周辺要因としては問題なかった一方で、OSアップデートの管理など、管理の面でいくつか課題が上がりました。

Windowsのアップデート問題は、学校管理下の端末なら構築・設定面でどうにかなるものの、今回は基本的には完全なるBYODを目指しており“生徒の自己管理”を徹底するというスタンスでした。授業で使おうと思った時にアップデートが実行されて、一部の生徒が20~30分使えなかったら授業になりません。

そこで、もう1つの選択肢として、Chrome OSが出てきたのです。すでに本校の学内にある200台近くのWindows端末ではChromeブラウザを使っていたため、クラウドコンテンツを扱う上でのWindowsとの互換の点で優位性がありました。各メーカからWindowsパソコンやChromebookのデモ機をお借りして数か月に渡って教員室で検証をしました。

また本校は探究的な取り組みに古くから取り組んでおり、生徒たちが1年生の段階から全国レベルのプレゼンコンテストにも毎年出場しているなど、Officeソフトについては練習問題で使い方を確認する程度ではなく、3年間通じてとことん使い込むという下地がありました。プレゼン資料にしてもレポートにしても、G Suiteで共有してチャットしながらチームの仲間とベースを創り上げて、ある程度仕上がったらMicrosoft Officeに変換してデザイン担当が最後の仕上げをする……というような両者の良いとこどりの活用方法がこのころ生徒たちから生み出されはじめました。

Microsoft OfficeもG Suiteも使えて、マウスやキーボードで迅速に操作ができ、手書きによる表現も可能であるという点、初めてパソコンを生徒が自己管理するのに扱いやすい点、耐久性や価格、将来性などを総合的に判断し、Chromebookの導入が決定しました。2019年には実際にChromebookを40台導入し、授業での試験運用などを繰り返し行いました。

今回、完全なBYAD(Bring Your Assigned Devide)をせずに、BYOD(Bring Your Own Device)を取った理由は、自己管理の観点からです。

当初は「各生徒が家電量販店等でそれぞれ買って持って来る」ということを検討していた時期もありました。なぜなら自分で選んで自分で購入したものには愛着がわくからです。些細なことかもしれませんが、「自分の端末として自分で責任を持って管理する」ということに拘りました。

しかし故障はつきものです。故障したときに各自で保険に入っておいてもらえれば、出費は最小限で抑えられますが、どうしても個人加入の保険より、学校を通して契約できるものの方が有利だったということと、Chromebookのメリットを最大限生かすとなると最初にGoogle Educationのライセンスを入れる必要があるということから、家電量販店ではなく学校を通して購入してもらうことが決定しました。

“学校を通して”とは言うものの、実際はベンダに専用ECサイトを用意してもらい、入学手続きの案内と一緒に保護者に渡し、各自でECサイトにアクセスして好きな端末を購入(支払いも含めて)すると自宅に届くというイメージです。保険も在学期間中にどこが壊れ方ても、学内の売店に持ち込めば、無償で修理できる万全なものになっています。

今回特別に用意したポータルサイト。

加えてメーカについては、できるだけ多くのメーカから選んで貰いたいという気持ちがありましたが、生徒たちがどのメーカのどの端末を選ぶかは事前に予測できません。公立高校の合格発表まで新入生が確定しないので、3月末に最大470台のオーダーが来ても、ゴールデンウィーク明けに納品してもらえるメーカでないと授業に支障が出ます。

その条件で掛け合った結果、DELLとヒューレットパッカード(HP)の2社になりました。この2社の協力もあり、2019年度の学校説明会や入学直前の説明会時にデモ機を展示し、比較検討した上で購入してもらいました。

DELL Chromebook 3100 2-in-1(左)、HP Chromebook x360 12b(右)。

ですが、ご存知のように、2月末に政府が小中高校の臨時休校を要請したことを受け、多くの学校が休校に入りました。当然、本校も3~5月の間は生徒が登校できず、教職員ともども自宅で時間を過ごすことになりました。

想定外の新型コロナウィルス蔓延と2020年度新学期の開始

――お話を伺うと、新型コロナウィルスの蔓延とはまったく関係なく、段階的、そして、計画的に学校全体のICT化に取り組まれてきたことが理解できました。その中での、2020年の新型コロナウィルス騒動。実際、新学期に向けてどのような影響が、どのぐらいありましたか?

森本:

正直、想定外でしたし、“どうしよう”というのが最初の本音でしたね。本校は3月からの休校を決め、上旬に予定していた学年末考査も取りやめました。

先生方はMicrosoft Officeをずっと仕事で使ってこられたので、最初はG Suiteも“似たようなもの”という感じでしか見ておられなかったのですが、生徒たちはどちらもとことん使い込んでいるので、その違いや特性がわかっている。去年1年間でも、生徒の側から「先生それすんやったらG Suiteの方がやりやすいで」という声が上がったり、生徒たちが自らG Suiteでチーム内共有をかけてまとめ始めたりということがポツポツと起こっていました。そんな中、両者の違いやG Suiteがコラボレーションに長けている点などを私たち教員も少しずつ学んできていました。

その流れもあって、自然と教職員みんなの注目が集まりました。お互い登校はできなくなりますが、G Suiteを活用することで教員間、そして教員と生徒もつながりあえる。そして学びを持続できると。

上記のような下地があったので、当時1年生(現2年生)の学年は、即座にGoogle Classroomを活用した連絡体制および、主要科目の授業のオンライン化に取り掛かりました。生徒たちは自宅のパソコンやタブレット・スマホなどで3月から自宅学習に取り組みました。本校でのオンライン授業のスタートです。

この経験の蓄積があったので、新学期はこれを新1年生も含めた全学年に広げました。Chromebookは受注生産でしたのでもともと入荷するまでの1~2ヵ月の間は、従来どおりご家庭の機器を使う想定をしていました。4月には新入生の全家庭にレターパックでアカウントや活用ガイドなどを送り、各家庭でG Suiteの設定をしてもらい、まずは英語科・数学科・情報科の授業から毎日課題配信を行いオンライン授業を始めました。

情報科の課題は、取り組むことで情報モラルを学びつつもClassroomやG Suiteの操作について学べるように設計しており、これらの18個の課題を進めていくことで、生徒たちは自分で試行錯誤やトラブル回避ができるようになり、どんなパターンの課題でも対応できるようになりました。

本校では、単にHow toを教え込むというより、自律的適応能力、つまり自ら時代の流れに乗る術を身につけることに重点をおいているので、元来から課題解決能力を身につけさせる一環で、自分のスキルの強化に取り組ませています。「まずは自分でとことん調べよ」これが合言葉です。各課題は、説明動画とそれを踏まえた上で取り組める課題とをセットで配信しています。自分たちでネットを活用して色々調べて、課題を仕上げて提出できれば、その生徒は該当のスキルをマスターしたということがわかります。

とは言うものの、新入生は府内外のあらゆる中学校から来ています。中学時代にしっかりとした自律性を意識した教育や、ICT環境下での教育を受けてきた生徒は少なく、“オンライン”という対面でなく、各自の自主性に任される状態で、ひとつひとつのスキルをマスターさせていくのは結構大変な作業でした。教員に気軽にコメントでのやり取りができる半面、最初のころはすぐに調べたら見つかるようなことまでいちいちコメントで質問してきたりしましたが、そういう生徒たちを自分で調べるように徐々に誘導していくカタチで返信していきました。

470超の生徒を相手にということで、寄せられるコメントの量に呆然としたこともありましたが、そういう私たちの状況も含めて生徒たちは理解してくれていることと、検索スキルの向上から、今では「できるだけ自分で解決しよう」という意気込みで取り組んでくれています。

それを受けて、5月からは全教科のオンライン授業を開始しました。何が何でもテレビ会議方式というのではなく、それぞれの単元の目的に合わせて、より適切な方法で課題を出す(オンライン試験・ドキュメントやスライドの作成・G Suiteでの協働学習・プレゼンの録画・英語の音読の録音・タイムラプス動画の作成・オンラインクイズ大会など)スタンスで進め、一定の教育効果をあげることができました。必要に応じてGoogle Meetで個別面談や授業も行いました。

ただ、どこの学校でも起こりうることではありますが、自主的に学習に向き合えない一部の生徒たちにとってオンライン授業という強制力を持たせられない学習方法にはなかなかキビシイハードルがあることは否めません。この問題については今後引き続き対処法を考えていく必要があると強く感じています。

このように、学校としてのICT化を進めていたことで、生徒に対してのデジタル授業、オンライン授業の準備ができていたとは言え、まったく登校できない中でどのように進めていくかは、手探り状態だったと記憶しています。

コロナ禍ではありましたが、メーカの努力によって少し予定遅れの5月下旬にChromebookが納品されました。もともとは生徒の自宅に送付する予定になっていましたが、さまざまな混乱を避けるために、6月初旬にクラスごとに時差登校させて端末およびアクセサリの引き渡しを行い、情報モラルの講習会とChromebookの初期設定&基本操作説明会を受けてから持ち帰らせました。同時に4月から家庭のWi-Fi環境の構築もお願いしていましたので、6月以降は1年生全員がChromebook+家庭Wi-Fiという同じ環境で課題に取り組むことができるようになりました。今までスマートフォンで取り組んでいた生徒にとっては、劇的に取り組みやすくなりました。

6月15日からは午前/午後分散登校とオンラインとの併用、6月31日からは完全な学校再開となりましたが、これまでのオンラインでの蓄積が功を奏して、非常にスムーズにスタートすることができたと実感しています。学校再開後の教室での授業や文化祭に向けた取り組みなどでも活用が進んでいます。

私が担任しているクラスでは、生徒たちが自主的にGoogleドキュメントを共有して期末テストの範囲や重要ポイントをみんなでまとめ始めたり、夏休みに入ってからも夏休みの宿題一覧を作ったり、文化祭に向けてのクラスタオルのデザインの検討もオンラインで進めてくれています。ちょうどクラスメイトと仲良くなりかけたタイミングでの夏休みでしたが、変わらずやりとりをしている姿を見て、このタイミングでChromebook導入に向けて準備を進めていて良かった、と改めて実感しました。

Chromebookを導入して見えてきたこと(3ヵ月の振り返り)

――実際、大変な状況の中、この3ヵ月間はどのような授業となりましたか? 具体的なこと、あるいは、これまでの授業と比較しての感想などを教えてください。

森本:

前述のように、6月まで新入生に直接会えなかったということは今までに経験したことのない状況でした。不測の状況下において、常にさまざまなケースを考え、都度教員チームでお互いに学びながらベストな方法を検証しながら対応するという意識で進めています。

Chromebookへの導入、オンライン授業という観点で言うと、新型コロナウィルスによって何かが大きく変わったとは感じていません。繰り返しになりますが、段階的に進めてきたことが功を奏し、たとえば、私が担当している情報の授業では、すでに生徒には積極的にG SuiteやOffice365(関連アプリケーション)の活用を推奨してきたため、先生たちが不慣れであっても、高2、高3生であれば、生徒同士ですでに各サービスを活用し、主体的に協働作業を行うことができる状況でした。

Googleスライドでの協働作業。誰がいつ何を作業したのかを色分けして表示したり、過去の状態に戻すことも簡単。

この経験があったため、2020年度の新入生に対しても、G Suiteを活用した授業設計を行い、また、生徒たちには自主的に使ってもらえるよう、環境の整備やサポートに注力していました。言葉で言うなら、私たち教員は“ツール”と“学ぶ機会やきっかけ”を提供するだけ、あとは生徒たちが考えて、どのように活用するか、それが私が考えている学校のICT化、オンライン授業の姿だと思っています。

他にも、コンピュータを用いた協働学習を行う場合、G Suiteではチャット機能が実装されているため、離れた場所でも自在にコミュニケーションがしやすい点が良いですね。今の子どもたちはLINEなどでのメッセージのやり取りにはすでに慣れているので、こういう方法でのコミュニケーションは、むしろ自然に受け入れてくれています。

また、協働学習を行う上で、生徒同士で何をやっているかが教員から見えないというのはよくないですが、G Suiteであれば、リアルタイムに進捗状況、コメントのやり取りを把握できたり各生徒の作業量や作業時間を確認することができるため、教員にとっては、教室内の授業よりも実は管理しやすかったりします。

そして、実際に登校が始まってからは、学内の至るところでChromebookを使ってもらっています。「自分で管理する」ということが原則ですので、不具合対応やバッテリ管理も含めて基本的には自分で対処するようにしています。とりわけ充電に関しては、学校のコンセントの数には限りがありますので、全員に対して充電できる機会を提供することはできないので「家庭で充電してくる」ということを原則にしています。

その他、この3ヵ月で感じたのは、学校からの“配布物”ではなく、生徒自身にECサイトで好きな機種を選んで購入してもらったことで、“自分の所有物であるという意識”を強く持ってもらえていることです。みんなステッカーなどで思い思いにデコレーションして学校に持ってきています。

今は多くの学校で情報教室を完備し、1人1台のパソコンが使える環境をよく見かけます。1人1台という点では、今回のChromebookと同じ状況ですが、情報教室ではどうしても生徒の意識のどこかに「学校が用意してくれたもの」という気持ちが生まれ、OSやアプリケーションのアップデートなど、すべて学校側で管理するため、無意識のうちに、他人任せの環境を使ってしまうことになります。

今回の私たちの取り組みは、充電やアプリのインストール、休み時間の活用方法も含めて生徒個人個人に任せています。ですから、新しいOSが出たり、アプリケーションのアップデートが発生すると、自分自身で行わなければなりません。これをしておかないと、次の授業が受けられなくなる、という可能性もあるわけです。

つまり、これまで家で宿題を行うのと同じように、自分のパソコンのメンテナンスをすることが宿題の1つということにもなります。情報教育の一環としては非常に価値があるものと私は考えています。

3ヵ月だけでは判断できませんが、ここまでの総括としては、新しい取り組みに加えて、想定外の出来事が発生したことを踏まえても、概ね問題なく授業を進められたと自負しています。生徒も“自分で調べて問題を解決する”ということを結構やってくれていて、多くの問題は自己解決してくれています。

ウィズコロナで考える、これからの学校教育

――この3ヵ月、京都産業大学附属高校としてのICT化は順調に進んでいるように感じました。最後に、改めて学校のICT化、そして、ウィズコロナ、アフターコロナでの学校教育について、ご意見をいただけますか。

森本:

あくまで私の考えという前提でお話させてください。

まず、新型コロナウィルスはしばらくは落ち着くかどうかまったく先行きが見えない状況です。すぐにまた緊急事態宣言が出るとは限らなくても、学校側あるいは自治体の判断で、昨年まで普通に行えていたような学校教育がどこかでできなくなるかもしれません。

1学期のほとんどがオンライン授業になったように、夏休み明け、2学期、3学期でもまたオンライン授業になる可能性があることを見越して、私たち学校・教員として考えなければいけないでしょう。

当校としては、ベースの環境は整備できたと実感しましたので、今後は、学校での授業、オンライン授業どちらでも、同じ価値・意味の“教育”を提供していかなければならないと考えています。

Chromebook、そして、G Suite/Office365により、生徒たちはいつでもどこでも学ぶ環境は整備できました。また、インターネットがあれば、生徒同士でつながることができます。ですから、生徒たちには、自分たちが学んだこと、あるいは、気になったことをつねにChromebookを活用してまとめ、アウトプットしてもらい、ときに、G Suiteを通じて仲間とコラボレーションすることで、主体的に0から1を生み出すような学びを実践してもらえたらと考えています。そして、私たちがそれをしっかりとサポートしていくことが、これからの教育の鍵になっていくと考えます。

Society 5.0は創造社会と言われています。デジタル革新と多様な人々の想像・創造力で新しい価値創造をする、つまりイノベーションを起こすことでさまざまな課題を解決する必要があります。それだけ複雑化した答えのない課題が多く目の前には存在します。そんな社会で力強く生きていける生徒たちになって欲しいという願いを私たちは根底に持っています。

だから実社会とのつながりを大事にして、身の回りにあるさまざまな課題に対して仮説と検証をして、創造的に解決していくクリエイティブな実践を繰り返し経験することで、いつでもアイデアを出して、アウトプットできるような癖、慣習を身に付けてもらえたら嬉しいですね。その上で、情報を集め、データを分析でき、表現できるツールがいつでも手元にあるということは、とても大きいことだと感じています。

ここまでは、デジタル・オンラインツールがあればできる部分の教育です。

今回、私たちはもう1つ考えなければいけないことが出たと感じています。それは、改めて学校という場、教室に集まる意味・価値です。

昨年までは、学校での授業≒登校(教室に集まる)が成立していました。しかし、学びの場という観点では、オンラインでもできることが多々あることが、教員・生徒ともに(新型コロナウィルスの存在で)強制的に認識できたわけです。

じゃあ、なんで学校に行くのか、教室に集まるのか、を再度考えなければいけないわけですね。

私は、学校に集まって対面で話し合うこと、それは、自分たちが学んだこと考えたこと、見つけた課題、それらを同期的に共有することと認識しています。学校という場に集まり、限られた空間、限られた時間の中で、自分が吸収した知識・知見について、他者の意見や考えと比較(メタ認知・共感的理解)したり結合(知的ネットワークの形成・集合知)したりする中で、新たな考え方やものの見方を見つけたりする、そのために学校があるのではと考えます。

日常的にインプットを行える環境を整え、学校という場でアウトプットをする、その繰り返しがこれからの教育になっていくのではないでしょうか。学校はメタ認知と内省、仲間とのコラボレーションとイノベーションの場です。

授業で作成した企画書サンプル。アナログ・デジタルそれぞれのメリットの相乗効果を狙って教材を作成している。

そして、環境の部分、ICTについてはハードウェア・ソフトウェアともに想像以上のスピードで進化・変化していきますので、私たち教員がそこの進化・変化に適用しながら、生徒たちに最適な場を提供していきたいですね。

今回の新型コロナウィルスは、今までのあたりまえを破壊したと言っても過言ではありません。もちろん、学校という場で、これまでの5教科(英語・数学・国語・理科・社会)といった学問は普遍ですが、その教え方・学び方、そして学ぶ目的について、改めて再考することが突きつけられたわけです。

一般的な話として、学校側、教員側には変わりたくないという考えを持っている方がまだまだたくさんいることは事実ですが、変わらざるを得ない状況になりました。ですから、良い授業、良い教育をするためにも、私たちが変化していくことが、今、重要なことの1つと言えます。
平成以降、教育改革という言葉は、教育分野内外で取り沙汰されていますが、ウィズコロナで実現できた教育が、その改革の実践につながっていくと私は考えています。

また、先ほど挙げた5教科と異なり、ICT分野はまだまだ未来にどう変わるかがわかりません。いわば、教科書のない分野です。ですから、その部分については、教員が生徒に教えるという構図だけではなく、生徒同士で教え合う、ときには教員が生徒から教えてもらう、ということもまた、学校という場で必要になっていくるのではないでしょうか。

最後になりますが、今回のChromebook470台導入はゴールではなく、スタートです。これから、2020年の夏、秋、冬と時間が経過していく中で、どのような授業を提供できるか、私自身も他の教員や生徒から学びながら、つねに“京都産業大学附属高校”のICT教育をアップデートしていきたいですね。

――ありがとうございました。

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