前回は視覚障害(弱視)の方にオンラインでiPhoneの講習を行った冒頭の様子を紹介し、ラストにはちょっとした問いかけをして終わった。今回はその答え合わせから始めたい。
見えやすいはずの大きな文字が弊害になるケース
弱視の方にオンラインで使い方を説明していたアプリは「Seeing AI」。マイクロソフト社が開発した物体認識アプリで、スマートフォンのカメラにかざした様々なものを読み取り、音声にして教えてくれる。
このアプリを使うには最初に表示される利用規約を読み、規約に同意する必要がある。
上の画像は、Seeing AIの規約画面を通常の文字サイズで表示した時のものだ。弱視の方にとっては視認しにくい文字サイズだ。
上の画像は同じ利用規約の画面だが、iPhoneの文字サイズ変更機能を使い、文字を大きくした時のもの。全体的に文字が大きくなり、弱視の方でも読みやすいサイズにした。
この「文字サイズ変更によって起こる問題は何か」というのが前回の終わりに問いかけたものだ。問題はいくつかある。
文字がかぶっている
1つ目は上の画像を見てわかるように、規約の文章の途中に「利用規約に同意する」チェックボックスが表示されていることだ。文字サイズを大きく変更したことによってレイアウトの乱れが生じ、規約の全文を見られなくなっている。
見た目にはわかりにくいかもしれないが、規約の文章と「利用規約に同意する」チェックボックスのエリアが上下にかぶっている状態だ。このかぶっている状態が二つ目の問題につながる。
文字のかぶりによって音声読み上げに支障をきたす
2つ目は文章がかぶっていることで音声読み上げに支障をきたすことだ。
iPhoneの音声読み上げ機能「VoiceOver(ボイスオーバー)」は、タップした箇所に何があるか音で教えてくれる。しかし今回のように文章が上下にかぶっていると規約の文章を読んでいる途中で「利用規約に同意する」チェックボックスが反応することがあり、順序立てた操作が難しくなってしまう。
対処方法例
今回のケースのような対処法としては、まず設定アプリで文字サイズを標準の大きさに戻しておく。対象(今回はSeeing AI)のアプリも再起動して開き直すと、利用規約は通常の大きさに表示され、利用規約の下には「利用規約に同意する」チェックボックスが表示される。これでチェックボックスを選択しやすくなるはずだ。
VoiceOverに習熟したユーザであれば文字サイズを戻さずとも、音声読み上げだけで利用規約を読み、規約同意のチェックボックスを押して進むことは可能だ。しかしVoiceOverに慣れていなかったり、画面を視認して操作使用するユーザにとっては、上の対処法を行っていただくのがよいと思う。
「あちらを立てればこちらが立たず」ということも
今回の相談者は弱視の方だが、画面が視認しにくい場合が多いため、VoiceOverを使って大半の操作を行っている。
「文字を大きく表示してみやすくすること」と「音声読み上げを使うこと」。どちらも視覚障害のある方にとっては便利な機能だが、今回のように「あちらを立てればこちらが立たず」という悩ましい状況に遭遇する場合もある。
iPhoneやiPadではアクセシビリティ機能を複数同時に使用することが可能だ。たとえばVoiceOverで音声読み上げを使いながら「ズーム機能」を使って画面を拡大表示するといった使い方もできる。
しかしVoiceOverとズーム機能の併用は、VoiceOverの操作が一部変わったりなど難易度も上がる。使用にはかなりの慣れが必要になるかもしれない。
今回紹介した「文字サイズ変更機能」と「VoiceOver」も、どちらも便利な一方、同時に使うことで思わぬ不便を生じることがあることも知っておくとよいだろう。
「ちょっとしたことの手間」の大きさ
「利用規約を読み、規約に同意する」という、人によってはごく簡単な操作に思えるかもしれない場面について、問題点を挙げて対処法を書くのにかなりの時数を使った。「いつになったらアプリの操作説明に話が入るんだ」と思われるかもしれない。
しかしまさにこうした「ちょっとしたことの手間」の大きさこそが、視覚障害のある方々が日々遭遇している問題と言える。ふだんは気付きにくいところにこそ大きな問題が隠れているかもしれない。それが少しでも伝わればと思いながら次回に続く。