今、大学が本当に求めている入試の形とは何か? 大学責任者たちが語った現在進行形で進む「これからの大学入試開発」(MINKYOオンラインセミナーレポート)

今、大学が本当に求めている入試の形とは何か? 大学責任者たちが語った現在進行形で進む「これからの大学入試開発」(MINKYOオンラインセミナーレポート)

2020年10月10日、日本アクティブラーニング協会/株式会社サマデイが主催するオンラインセミナー「これからの大学入試 開発会議」が開催された。

<MINKYOオンラインセミナー>
これからの大学入試 開発会議

https://activelearning.or.jp/20201010_minkyo_online/

本セミナーは、これまでさまざまなイベントを開催してきたMINKYO(みんなの教育改革)の一環として、コロナ禍という状況をふまえオンライン配信で行われた。

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今回のテーマはずばり「大学入試」。2020年代を迎え、学習指導要領の改訂など、教育の世界ではさまざまな改革が進む中、大学の入試は2020年度を最後に大学入試センター試験の実施が廃止、そして、新テスト「大学入学共通テスト」への移行となった。しかし、英語民間試験の利用については見送りが行われるなど、混沌としていた。そのさなかでの新型コロナウィルスの登場、さらに、従来の試験採点型ではない試験に向け期待されていたJAPAN e-Portfolioの運営許可取り消しなど、国主導の大学入試に限界が見えている。

そこで、今回は大学教育および入試改革に取り組む民間の立場からさまざまなスピーカを招いて、「大学入試のあるべき姿」を徹底討論することを目的としたプログラムで構成された。

今回は、その模様をお届けし、2021年度、さらにその先の大学入試の姿について考察してみたい。

個の力、1人の価値を高めていく仕組みづくりへ

オープニングは本会議の主催、日本アクティブラーニング協会理事長を務める相川秀希氏が登場し、「これからの大学入試 開発会議」開催の背景と狙い、これからの大学入試に関する見解を述べた。

相川理事長は、このイベントのタイトルを最初耳にしたとき、「何を開発するのか?」を自問自答したそうだ。そして、すかさず「人間の可能性を開発する」ことを考えたいと強く思ったと語った。

「ここ日本では、人生における大学入試の存在は非常に大きいと私は考えます。高校を卒業し青春期を迎える中でのこのイベント(入試)はその後の人生にも影響を与えるわけです。ですから、私は大学入試起動説というものを考えています」と、大学入試を経験する年代とその前後の人生経験の関係性から、大学入試が、大人になっていく上で非常に重要な出来事であること、と考えを述べた。

相川理事長自身、これまで、早稲田大学、慶應義塾大学、東京工業大学、AIU、MIT、スタンフォード、ドラッカースクールなどと協力しながらさまざまなプロジェクト(スーパープログラム)を行い、『日本一受けたい授業』(水曜社、2007年)を発行するなど、自身の考える入試を含めた教育のあり方について発表している。

このスーパープログラムで感じたこととして日本的な本音と建前の世界を指摘し、「スーパープログラムを通じて、本来なら多くの大学でも(そのプログラムと同じように)エッジの効いた、尖った取り組みをしたいと考えています。ただ、あまり尖りすぎてやんちゃになることはできない。この、本音と建前の部分を変えることが大事」と述べた。
その後、今回のスピーカーの1人、脇田学部長が在籍する慶應義塾大学環境情報学部が初のAO入試を始め、その後、須賀副総長の早稲田大学政治経済学部でも導入し、大学入試の新しい動きが見え始めている経緯を説明しながら、今、求められている大学入試のあり方は「学びたい人財が学べる場所へ」を具現化することと力強く述べた。

さらに、大学卒業後の話に関して、OECD(経済協力開発機構)参加国の各国の1時間あたりの労働生産性(金額換算)を例に上げ、今、日本は21位(4,744円)で、1位のアイルランド(10,369円)に対してダブルスコア以上の差を広げられていることを危惧し、これを解決するためにも、「個の能力の重要性、1人あたりの価値の向上、それを踏まえた大学教育であり、大学入試が必要です」と締めくくり、イベントの後半へ話をつなげた。

特異性を見極めること~慶應SFCが考える大学入試のあり方

続いて登壇したのは、慶應義塾大学環境情報学部学部長 脇田玲氏。日本で最も早くAO入試を導入した慶応SFC(Shonan Fujisawa Campus)の総合政策学部・環境情報学部が、なぜAO入試導入に踏み切れたのか、また、その後の30年の経緯と見えてきた課題、これからの取り組みについて発表した。

脇田学部長はまずSFCが持つ意味についてもともとの由来である「Shonan Fujisawa Campus」でけではなく、「Sustainable Future Collaboration」「Synergetic Frontier Cultivation」「Smart Fun Creative」「Speculation, Fabrication, Communication」「Super Fusion Center」など、持続するコラボレーションや未開拓の領域の開拓、楽しさの重要性、思索と製作、超融合など、慶應義塾大学SFCのミッションとビジョンと関係付けて紹介した。

これからのキーワードを実現できる大学を目指し、SFCの入試ではさまざまな形(5つの入試形態)を用意している。この点について「人の能力は多様、人の数だけ特徴があります。ですから(入試に際しても)可能な限りきめ細やかに見て判断したいと考えて試験の準備を心がけています」(脇田学部長)と、5つの入試形態を用意している理由をコメントした。

また、SFCの特徴として、きめ細やかな入試の先にある、入学後のスタイルが紹介された。SFCでは、入学直後の大学1年生から160を超える細分化された研究会(特定のテーマを研究するグループ)へ参加できる。さらに、1年経って合わなければまた別の研究会へ移ることも可能だそうだ。

「入学した人財が何を学びたいのか。何に取り組みたいのか。SFCは、それを自分自身で選べる環境を用意しています。160を超える研究会を用意することで、学生自身がノマド的に過ごしながら、ユニークなテーマを選んだり、研究テーマを学生自身がつくっていけることもSFCならではの特徴です」。

このあと、脇田学部長は、Howard Gardnerが提唱するMI理論(Theory of Multiple Intelligence)による知能の定義を引用し、(入試という選抜においては)8つの能力を積極的に問うことが大切と、入試においてはさまざまな観点からの試験・評価が必要とコメントした。

そして、現状のGPA(Grade Point Average)による評価に対し疑問を呈するとともに、生命の進化を例に挙げ、「生命の進化とは良い方向へ向かうことではなく、さまざまな環境に適応すること。そのためには、環境の変化を受け入れるとともに違い(特異性)を許容できるかどうかが大切」と、社会生活のあり方という大きな観点から、多様性の重要性について触れた。

「(変化が大きな時代だからこそ)特異性を認めることこそが大切。今の試験では特異性より普遍性に偏りがちなため、人が持つ特異性と普遍性によるグラデーションをどう見極めるか、SFCの入試ではとくにその部分を意識して開発を進めています」と、単純化した評価ではない、個人個人の能力をきちんと見極めるための入試を準備していることを改めて強調し、それこそがSFCの発想そのものであると、セッションを締めくくった。

「主体性」「多様性」「協働性」を判定するために~早稲田大学が入試改革を実行する理由

続いて、早稲田大学副総長 須賀晃一氏が「早稲田大学が入試改革を実行する理由」と題し、現在進行系で進んでいる早稲田大学の入試改革の現状とこれからを発表した。

須賀副総長は、政治経済学部の学部長を務めているときから、学部改革、入試改革に取り組んでおり、副総長の立場となった今、大学全体に広げて考え、改革を進めている最中だ。

「現行入試の問題点は、偏差値による一元的評価、獲得点数以外で判断すべき事項の見落とし」と、前に話した2人の説明を、より強く明確に、現状の問題点を指摘し、発表を開始した。

たとえば筆記試験の点数で差をつけようとすると、難問・奇問を出題せざるを得なくなる。また、点数制の試験の場合、志望理由や過去の経験が見えなくなること、さらに、「主体性」「多様性」「協働性」という、大学入学後に必要な素養を測定できない、というのが、現行入試の課題であり、また、その課題のために、入試を突破することだけが目的になるという弊害にもつながると須賀副総長は述べた。

これらの課題に対し、早稲田大学の入試では、同大学の建学の精神である三大教旨(研究・教育・貢献)と、2つの教育の柱である「たくましい知性」「しなやかな感性」、これらの価値観の共有を最重要視しているそうだ。

すなわち、早稲田大学が目標として掲げる「入学してきた人財全員をグローバルリーダーとして養成する」ことを実現するための最初の入口として入試があると、須賀副総長はコメントした。早稲田大学で言うグローバルリーダーとは、ただ全員を引っ張っていく(リーダーシップが強い)人財だけを指すのではなく、状況に応じて人をサポートしたり協力できるなど、適材適所を自分で考えて実現できる人財を指している。

この目的を実現するためにはどうするべきか、まず、高大接続改革(一体的改革)への取り組み、そして、思考力・判断力・表現力などを評価する制度、そのための3ポリシーの明確化(ディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシー、アドミッション・ポリシー)などを具体的に取り上げた。

また、試験や判断基準の内容以外に、須賀副総長が感じている現行の大学および大学入試の課題として、早稲田大学生の関東圏率の高さ(70%)に対する懸念、特定の日時でしか行われない入試によるさまざまなリスク(天候や交通状況)を挙げ、これらを改善することも、理想の入試につながっていくと説明した。

そして、最後に、まさに今、早稲田大学が実際に進めている新しい入試制度を紹介した。早稲田大学の2021年度入試では、最低限の基礎学力の評価とミスマッチを避けるための選抜方式を意識している。具体的には、大学入学共通テスト(旧センター試験)による知識測定および学部独自試験を採用するそうだ。

「これまでは採点式の試験を重視する傾向が強かったのですが、それでは、先ほども述べたような個人の能力の評価ができず、また、本人と大学のミスマッチを招きかねません。そこで、早稲田大学は2021年度から、大学入学共通テストで、外国語、国語、数学I・A、選択科目の4つを25点ずつとした評価、そして、学部独自試験として志望理由を書くための小論文、さらに学習履歴の提出から、評価・採点を行います。その結果、主体性・多様性・協働性を可能な限り判定でき、変化の大きな時代において、早稲田大学に適した人財獲得にもつながると私は考えています」と、単純に点数で選ぶだけではなく、大学・生徒双方にとって最適な形で判定できるような入試方式を、まさに今、整備している最中であることが伺える内容だった。

三者三様、これからの入試のあり方とは?

最後に、これまで登壇した3名によるパネルディスカッションが行われた。パネルディスカッションはMCから出題されたテーマに回答する形式で進行した。

まず、ズバリ直球なテーマとして「理想の入試とは?」が出題された。3名それぞれは次のように回答した。

  • 入試をしない(脇田)
  • 基礎学力の測定、特異な能力の選定、ポートフォリオ(須賀)
  • 川下の石よりも川上の石を評価する(相川)

脇田学部長の「入試をしない」という回答は非常にインパクトが大きかったが、この意図としては、入試は目的ではなく、入学後の育成と学習が大学の目的であること、そのために入学後から評価、判定、選抜できる流れにしたいという思いが込められていた。

須賀副総長は、プレゼンでも述べていたように、既存の入試方式ではフォローしきれない部分を、改めて大学側で課題として顕在化し、人財獲得の目的に沿った入試形式を準備すべきと補足した。

相川理事長の回答は、先の2名にも通ずるもので、「今の時代は正解の過剰評価時代」と見解を述べ、全員が正解を求めすぎる結果、選抜試験で残る人財の個性が少なくなっていることの危険性、だからこそ、原石を選抜できる仕組みとしての、制度設計が必要なのでは、と投げかけたものだった。

他にも、ユニークな質問と回答がある中、やはり3名とも共通していたのが「個性」をどう評価し、判断するか。今の大学に求められる入試の本質はそこにあることが伺えた。

最後に3名から大学入試に関わる学生や教員、学校関係者に向けたメッセージが述べられ、イベントが締めくくられたので、その内容を紹介する。

須賀副総長
「早く受験から開放される世界が来ることを願います。そして、これから受験を迎える高校生の皆さんにはまず自分のやりたいことをやってもらいたい。私たちは、学びたいことを学べる状況、みんなで協力して取り組める環境を用意します」

脇田学部長
「今日は大学入試がテーマでしたが、大学入試と同様に大学院入試もあたりまえになってほしいですね。そのためにもまず、複雑な試験システムを変えたいです。また、学びは(入試など)一時期のハードルではなく、一生続けるもの。誰もが学び続けられる、良い環境の整備、演出をしていきたいです」

相川理事長
「まず早慶がこういう並びで登壇してもらえたことに感動しています。この2つの大学の取り組みからもわかるように、これからの教育は、国主導だけではなく、私学の動きも重要です。今日を起点に、私たち民間の動きも合わせながら改革していく流れを広げていきたいです」

以上、本イベントでは、大きな変化を迎える2021年度の大学入試において、コロナ禍という別の要因が発生する中、「これからの大学入試はどうあるべきか」を、3名のキーマンによって語られ、議論された。

イベントのタイトルにもあるように、これからの大学入試は、今まさに現在進行系で開発されている。主催の日本アクティブラーニング協会では、世界標準の入試プラットフォームTAOやSNS型eポートフォリオFeelnoteの開発・提供で取り組んでおり、今回の会議の内容も順次反映していくとのこと。

EducationTomorrowでは、今回登壇した2つの大学の今後の動向はもちろん、さまざまな取り組みとともに、これから、誰もが適した場所で学べる環境づくりの様子についてお届けしていく。

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