アダプティブラーニング最前線~教育データの可視化で向上させる学習体験

アダプティブラーニング最前線~教育データの可視化で向上させる学習体験

1月23日、eラーニング事業を展開する株式会社デジタル・ナレッジ主催の「デジタル・ナレッジ カンファレンス2020新春」が東京都千代田区の秋葉原UDXシアターで開催された。

当日のカンファレンステーマを「オープンバッジ」「VR」「アダプティブラーニング」と掲げ、デジタル・ナレッジが業務提携した企業と今後取り組んでいく、さまざまなeラーニングソリューションが発表された。

オープンバッジ

「オープンバッジ」とは、個人が取得した資格やスキル、学位や研修の修了など、あらゆる「クレデンシャル情報」をデジタル上で証明ができる、国際標準化団体「IMS Global」認定の標準規格。

デジタル・ナレッジは、このオープンバッジにブロックチェーン技術を取り入れたデジタルクレデンシャル分野のデファクトスタンダード「Blockcerts」を推進するLearning Machine社との提携を発表した。

※Blockcertsは昨年経済産業省が発表した上記報告書にも「学位・履修履歴証明テーマ」における注目技術として、詳細が解説されている。

VR

会場内展示ブースにて、株式会社松屋フーズホールディングスが採用している、接客トレーニングVRの体験デモが紹介された。接客トレーニングにVRを取り入れるのは飲食店としては国内初。

ヘッドマウントディスプレイを装着するだけで、あいさつや声掛けといった発声、トレーを運ぶ動作など、実際の接客に必要なスキルをVRで学習できる。定められた基準に達した動作ができない場合、次の課題に進めないように設定されている。VRの導入で店舗によるOJTの質を均一化できるという。

アダプティブラーニング

そして当記事では、デジタル・ナレッジと業務提携したワイリー・パブリッシング・ジャパン株式会社(以下、Knewton社、またはKnewton)の「アダプティブラーニング」に関する取り組みの詳細を報告する。

アダプティブラーニングとは、学習内容を、学習者個人にあった問題形式や難易度へ最適化させる方法を指す。

Knewton社は、学習者本人の学習履歴、他の学習者の学習行動データ、人間の学習のしくみに関する研究から蓄積された教育ビッグデータを基に、アダプティブラーニングプラットフォームサービス・プラットフォームエンジン(Knewtonエンジン)の開発を行う企業。

Knewtonが定義するアダプティブラーニングの考え方や提供を始めているサービス、そしてデジタル・ナレッジとの協業で、英会話教室を運営する株式会社イーオンへ提供したアダプティブラーニングサービスの事例も紹介された。

Knewtonが定義するアダプティブラーニングとは

Knewton社 日本担当ディレクター 本間 達朗氏が登壇し、まずKnewton社が定義するアダプティブラーニングの考え方や、提供を始めているサービスについて解説された。

Knewton社 日本担当ディレクター 本間 達朗氏

本間氏はKnewton社が定義するアダプティブラーニングに関係する「アダプティブ・モデル」の種類を紹介して、それぞれのモデルが辿る学習過程のルートや学習コンテンツ作成の特徴を説明した。

「問題別ルール型」と「リアルタイム解析型(アルゴリズム型)」2つのアダプティブ・モデル

「問題別ルール型」は、問題ごとに固定された「正誤の場合分け」といったルールが設定されており、情報が体系的にまとめられた教材にはよく見受けられるモデル。

学習内容を精緻できめ細かに設定できる長所はあるが、学習コンテンツに変更が生じた際、改定するためのコストが高くなる短所もある。

また学習者は、必ずしも問題別ルール型で定められたルート通りに理解を深めながら学習を進めていくわけではない。問題別ルール型を基に作成された教材を使用しながら学習を進めても、本人の理解度は可視化しづらい難点がある。

そのためKnewtonでは、アダプティブラーニングに適した学習のモデルは「リアルタイム解析型(アルゴリズム型)」であると定義する。

リアルタイム解析型では、学習単元単位で、それぞれがどのような学習ルートを辿ってどんな関係性があるのか明示されるので、学習者の理解度や、学習者がどの単元でつまずいたか、などの情報を動的に収集しやすい。

そして、次に進めるべき学習内容をリアルタイムで導き出すことができる。

どのようにリアルタイムに学習者の理解度を解析しているのか?というと、Knewtonが開発した「Knewtonエンジン」とKnewtonと業務提携した多くのパートナー企業から提供される実測データ(問題の正解率や解答の際に要した時間など)を基に解析している。

解析結果から、学習者へレコメンドとして次に進める単元や問題を提案して、学習につまずかないような学習体験を提供する。

Knewtonエンジンから開発されたアダプティブラーニングプラットフォームサービスは、学習者向けの「レコメンデーション」、学習者と指導者向けの「ラーニング・アナリティクス」、そして出版社などの教材作成者向けの「コンテンツ・インサイト」の3つに大別される。

それぞれKnewtonエンジンによるリアルタイム解析によって、次の学習ステップの提案、学習状況分析、そして蓄積された学習データを活かした教材内容の分析など、サービス利用者に応じたアダプティブラーニングサービスを実現する。

Knewtonのアプローチ

Knewtonエンジン活用事例 ~イーオンで導入予定「AI Study Design Grammar」

Knewtonエンジンとパートナー企業から提供される実測データから開発したアダプティブラーニングサービスの具体例として紹介されたのは、英会話教室を運営する株式会社イーオンへ提供した「AI Study Design Grammar」だ。

株式会社イーオン 経営戦略本部 事業開発課 課長 箱田勝良氏。AI Study Design Grammarがもたらしたメリットを解説した。

AI Study Design Grammarは、学習者の英文法の得意・不得意項目を峻別し、学習者ごとの苦手項目を集中して学べるアダプティブラーニングサービス。イーオンでは試験導入を経て、2020 年 4 月 1 日より正式に導入予定だ。

イーオンがこのサービスを導入したのは、学習者個人による英文法知識レベルのバラつきが、英会話教育にも大きく影響している、と考えていたことが理由にあった。

イーオンは英会話のレッスンを中心に提供しているので、限られたレッスン数では、英文法の教育にまでなかなか時間が割けられない。

そもそも学習分野が多岐に渡り網羅的に教育を届けることが難しい英文法の教育は、学習者それぞれの自学に頼る部分が大きい。

しかし英語への理解を深めるには英文法教育も重点的に行う必要がある、と考えていたイーオンとしては強い課題感を覚える学習分野であった。

この状況がAI Study Design Grammarを導入したことによって大きく改善された。

AI Study Design Grammarは、学習者の学習履歴に基づき、学習者それぞれに最適化された文法項目に絞った学習コンテンツを提供する。

Knewtonエンジンの解析を活用して、仮定法や過去形などの文法項目は 180 に分類され、合計で 6,000 題を作問。問題解答の過程で180 分類の中から、学習者にとって不得意な項目を判断し、自動で「あなたは仮定法が不得意です」「過去形の理解に課題があります」など、学習者に応じた結果を提供するしくみとなっている。

これにより、学習者は自身の苦手な文法知識をピンポイントで学習できるので、短時間かつ効率のよい学習が可能となる。

また、学習履歴が蓄積されることは、講師側にも確かなメリットがあったという。

これまでは初めて指導する受講者に対しては、何回かヒアリングを重ねないと、その受講者の苦手分野を把握することが難しかったが、AI Study Design Grammarの学習履歴を活用することにより、以前より早く受講者の知識レベルを把握できるようになった。

受講者の知識レベルを早く把握することにより、よりきめ細かな学習アドバイスをしやすくなったと箱田氏は語った。

教育データの蓄積がeラーニングソリューション普及をさらに促進させる

以上、デジタル・ナレッジとKnewtonによるアダプティブラーニングの取り組みに関してお伝えした。

今回紹介したアダプティブラーニングソリューションなどは、先進的な事例であり、「教材のデジタル化」を検討していても、多くの企業や教育機関は導入を決定するかどうかは、まだ模索している段階だろう。

しかし当カンファレンスのプレゼンでも紹介されたが、学習者の学習履歴や得意・不得意分野の把握の自動化など、さまざまな「教育データ」が可視化されたことによる学習内容改善のメリットは大きい。

そしてKnewtonエンジンのようなアダプティブラーニングプラットフォームは、教育データが蓄積されることにより、さらなる解析結果の精度向上が見込まれる。

eラーニングソリューションを導入する企業や教育機関が増え、利活用される教育データのデータサイズが増加すれば増加するほど、eラーニングソリューションの発展に寄与するだろう。

今後もその発展に貢献できるよう、より多くのeラーニングソリューションの事例を報告したい。

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