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Inspire Highが目指す、夢中になれる「学び」の形

カルチャーの力で、さまざまな社会課題の解決、人と人との出会いを創造するクリエイティブカンパニーCINRA。これまでも多数のサービスを提供してきた中、2020年1月24日、新規サービスとしてオンラインラーニングコミュニティ「Inspire High」を立ち上げた。

CINRAがなぜ教育事業へ参入したのか、CINRAが考える「教育」とは何か? 同社CEOの杉浦太一氏にお話を伺った。

Inspire High
https://www.inspirehigh.com/

教育事業へ参入した2つの背景

クリエイティブシーンで活動してきたCINRAがこのタイミングで教育事業へ参入したのはなぜか。まず、Inspire High誕生の背景について聞いてみた。

――まず、今回教育事業へ参入した目的や動機、狙いについて教えてください。

杉浦:
2つの側面からお話します。

まず、個人的側面から。私たちの会社のミッションは「人に変化を、世界に想像力を。」です。これまでは、メディアで、そして、クリエイティブの力で、人が変化するきっかけを届けてきました。

CINRAは私が学生時代に起業した会社で、その当時から、いつか教育分野にも携わりたいと考えていました。なぜなら、「変化」が最も大きくなるのは人間形成がされていくプロセス、つまり10代のころだと思うからです。Inspire Highは、まさに中学・高校生の年代をターゲットに、彼ら・彼女らに変化を届けたいという想いを込めています。

もう1つ、社会的側面からの参入背景です。昨今、さまざまなメディアで教育改革という言葉を見かけます。戦後初と言われるほどの学習指導要領の大改編が行われ、詰め込み型の教育から自ら考える主体的な教育へスイッチしていこうというとき。もちろん背景には、AI時代の到来があります。これからを生きる若者にとって、これまでのやり方ではいけないと誰もが思っている。少子高齢化の今こそ、若い世代が活躍できる社会にしなければ、この先の未来はなくなります。そうした過渡期であるからこそ、教育分野に私たちを含めた民間企業も積極的に関わっていくことが必要と考えました。

この2つの側面から誕生したのがInspire Highです。

Inspire Hignに込められた想い

――この「Inspire High」という名称はどのように決められたのでしょうか。

杉浦:
先ほどもお伝えした、私たちの企業ミッションの英文は「Inspire people to fill the world with imagination.」です。ここから取りました。ちなみに、日本では、インスピレーションという単語は「ひらめき」「直感」のような意味で使われる場合が多いと思います。しかし、昨今の心理学の研究では、インスピレーションは自分に超越した何かを体験し、その上でさらに自ら行動をしはじめる一連の事象のことを指すようになってきました。

たとえば、素晴らしい映画を観て、自分も映画監督になりたいと思い、スマホで自主映画を作ってYouTubeにアップしてみる、といった一連のアクションです。まさに義務や強制での学びではなく、自ら主体的に動き出すこと、それこそがインスピレーションであり、これから必要な力だと考えています。

そして、後半の「High」は、アメリカで使われているハイスクールの略称として使われる「High」を持ってきています。また、High(高い)という意味で、視座を高くするという意味も込めたく、この2つの単語を合わせたInspire Highという名前を付けました。

株式会社CINRA CEO 杉浦太一氏。

オンラインの価値、リアルとの掛け合わせ

誕生の背景やサービス名の誕生背景から、Inspire Highが目指す教育の形が伝わってくる。では、具体的にはどのような形の教育になるのか、オンラインであることの意義に迫る。

――Inspire Highは「オンライン教育コミュニティ」と表現されています。今回、リアルではなく、オンラインからのアプローチを取っている理由はなぜですか?

杉浦:
教育に限らず、オンラインであることに3つの価値があると考えています。

1つ目は、距離感。オンラインで配信すると、配信者と視聴者の距離感が(コミュニケーション的に)近くなります。配信する側はカメラの向こう側の視聴者に均等に表現でき、視聴する側は自身の端末(パソコンやスマートフォン)に没入することで配信者に集中できます。

教育に置き換えると、教室では前の席と後ろの席とで物理的に距離が違ったり、先生も教室全員の生徒に均等に話すのが難しいですが、オンラインであればその部分を解決できます。

2つ目は、地域格差の是正です。昨年末、国会での入試に関してのやり取りがニュースになったように、今、日本では教育分野における地域格差の解消が求められています。オンライン教育では、その部分をインターネットと端末の力で解決できます。

Inspire Highは東京の学生はもちろん、島根の隠岐島や山口、愛知など日本全国から、さらにはインドやカナダといった海外に在住の中高生も参加してくれています。彼らが同じ瞬間にまったく同じ体験をできるということは、オフラインではどうしても起こりえないことです。

3つ目は安心感と安全性です。インターネットというと、匿名性による危険性、また、匿名利用から生まれた事故などのニュースを耳にすることがあります。たしかに、SNSのような場でのコミュニケーションにおいて、匿名性が問題視されることがあります。

しかし、Inspire Highの場合、顔を見せない、顔を出さないということで、周りの目を気にせずに、自分自身のアウトプットや他の学生に対してのフィードバックがしやすくなります。心理的障壁をなくす効果があります。もちろん、有料サービスであるため、私たち運営側はユーザ情報を認識していますので、先に上げたようなSNSで起こりやすいトラブルをあらかじめ抑えることができます。

この3つのメリットから、オンラインラーニングコミュニティの形態で運営しています。

――完全にオンラインではなく、リアルな場での交流もあると聞きました。

杉浦:
はい、前提はオンラインで進めていますが、配信内容の一環であったり、コミュニケーションの活性化を狙って、リアルな場も用意しています。これは、クリエイティビティを生み出すために、オフラインだけではない体験を提供したいという狙い、そして、私たちCINRAが多くのアーティストとのつながりがあり、さらに今、渋谷パルコの9Fのスペースを拠点として持つことができたという状況があります。

Inspire Highにはさまざまな学校・学年の学生が参加しているため、リアルイベントに参加してもらった学生同士がその場でつながることで、学外・世代の壁を越えたつながり、若者たちの新しいコミュニティが生まれる可能性が高まります。

万が一学内でうまが合う友達が少なかったとしても、ここで知り合った学生同士が友人になる、といった副次的効果もあると考えています。

Inspire Highの講義のスタイル。ガイドのトークを聞き、学生それぞれがアウトプットを行い、フィードバックしていく。

夢中になれる「学び」の追求

ここまでの話から、スタートしたばかりのInspire Highで、すでに新しいコミュニティが生まれ、目指している新しい教育の土壌が整備されているように感じた。最後に、これからの展開とInspire Highが実現したいことについて伺ってみた。

――始まってまだ1ヵ月ですが、すでに多くの地域、世代の学生が参加し、また、CINRAに関わりのあるアーティストやクリエイターたちが、貴重な知見や刺激を提供しているようですね。最後に、これから予定していることやすでに取り組んでいること、Inspire Highが目指す“実際の”姿を教えてください。

杉浦:
おっしゃるとおり、ようやくスタート地点に立つことができました。もしかしたらスタート地点にはまだ立っていなく、準備運動が終わったぐらいかもしれません。

その中で私たちがInspire Highで目指しているのは「主体的な学び」と「継続的な学び」を提供できる場です。

これまでは、

というように、学校内でも家庭内でも、学ぶと遊ぶが切り離されていました。そして、今、自分がこの年齢になって、改めて学ぶことを考えると、それは学びでもあるし、遊びでもある。学ぶことが楽しいんです。でも、自分が若いときは、学ぶことに対するモチベーションを持てなかった、あるいは持てる環境がなかったのではと考えました。

ですから、Inspire Highでは、「学ぶモチベーション」を少しでも多く提供すること、私たちが学生のときに遊ぶときに感じていた「夢中になる気持ち」を、学びの場でも提供したいです。夢中になれる学びを提供すること、それこそがInspire Highが目指す形です。

Inspire Highは個人向けのサービスですが、学校との連携も進めています。たとえば、長野県立軽井沢高校さんや島根の隠岐島前高校さん、明治学院東村山高校さんなどと連携して、キャリアを考える授業や総合的な探究の時間に、Inspire Highの動画を活用して様々な人生や働きかたを知る体験をつくらせていただいています。こういった、学校の方たちとの取り組みは、私自身非常に楽しみです。

というのも、現時点でInspire Highを楽しんでくださっている10代は、ある意味ではすでに主体的に動いている人たちです。彼ら、彼女らにももちろん体験してほしいですが、私たちがInspire Highを本当に届けたいのは、まだ未来をぼんやりとしか考えいなかったり、自分に何が向いているかもわからないでいる、もやもやしている人たちです。

そういう人たちにこそ、Inspire Highでさまざまな形で人生を楽しんでいる大人たちの姿に触れ合ってもらいたい。そして、「人生悪くないかもな」「こうなれるならがんばろっかな」というような気づきを届けることができたらうれしく思っています。

従来の学校の教育とはまた違った形で、さまざまなアーティストや企業とつながってきた民間企業だからこそ届けられる「学ぶ動機」や「インスピレーション」があるはずです。そうして、1人でも多くの若者が輝き、またお互いに出会うことでセレンディピティを生み出せるのではないか、と期待しています。

まだ始まったばかりですので、これからの展開にぜひご期待ください。また、今回記事をお読みいただいてご興味を持った学校関係者の方がいらっしゃいましたらぜひご連絡ください。

――ありがとうございました。

教育関係者と民間企業のコラボレーションで「学び」のモチベーションを探求する

以上、Inspire Highについて、代表の杉浦氏に誕生から狙い、今後の展望について伺った。とくに筆者が印象的だったのが「夢中になれる学びの提供」と「もやもやしている学生との対話」という考え方だ。

筆者自身、学生時代はいわゆる標準的な学び方を体験し、受験をし大学へ入学した。その当時としては一般的であり、自分自身にとっても財産となる時間であったが、今のインターネット時代、その一般的な学び方だけでは、若者たちの教育としては不足することがあるだろう。とくにインターネットを通じた情報量はこの20年で指数関数的に増え、先生よりも生徒のほうが知識を持っている、ということもありうる。

そのような中、Inspire Highが掲げる「夢中になる学び方」が実現できれば、まさに今、教育業界が目指す、教育改革のきっかけになると筆者は感じた。

今後もInspire Highと学校の取り組みなど、継続して注目し、改めて紹介していきたい。


追記:2020年3月9日
この動画は2020年3月6日に行った、谷川俊太郎さんのInspire Highライブ配信セッションの様子。Inspire Highが考える「学び」について体感できる映像となっているので、ぜひご覧いただきたい。

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