SNSの草分け「ミクシィ」が子ども向けプログラミング教育に取り組むわけ

SNSの草分け「ミクシィ」が子ども向けプログラミング教育に取り組むわけ

2019年6月、渋谷区教育委員会と東急株式会社、株式会社サイバーエージェント、株式会社ディー・エヌ・エー、GMOインターネット株式会社、株式会社ミクシィの6者が、「プログラミング教育事業に関する協定」を締結し、この協定締結を受けて、「Kids VALLEY(キッズ バレー)未来の学びプロジェクト」が始動した。

今回、そのうちの1社、ミクシィのプログラミング教育の取り組みに携わる、田那辺輝氏(開発本部CTO室)、町井香織氏(経営企画部広報グループ)へ取材をし、なぜミクシィは今、プログラミング教育に取り組むのか、その背景とともに、講座内容の狙いと全貌、今後の展開について伺った。

ミクシィがプログラミング教育分野へ参入した理由

まず、ミクシィがプログラミング教育分野へ参入した理由から、伺ってみた。

町井香織氏(経営企画部広報グループ)

町井:
当社ではSNS「mixi」を始めた早い段階から、子ども向けネットリテラシーの講義を行っていました。2015年からは「次世代育成の取り組み」として、中高生向けに企業訪問の受け入れを始めており、当社のスマホアプリ「モンスターストライク」に関する企画担当者やデザイナーによる講義などを実施しています。

そのような活動を行っている中、2019年に渋谷区から始動されたプロジェクト「Kids Valley」に参画し、渋谷区の小中学校向けのプログラミング教育に携わることとなりました。

当社は「Kids Valley」の中で唯一、中学生を対象に展開しています。「Kids Valley」に一緒に参画しているサイバーエージェントさんやDeNAさんではすでに小学生向けのプログラミング教育の取り組みを展開しています。一方、当社では企業訪問の受け入れを通して中学生と接する機会が多く、その経験を活かせると考えたのです。

一部の中学校ではプログラミング教育をすでに開始していますが、中学生向けプログラミング教育の本格始動は2021年を予定しています。現在はそのための準備を進めており、昨年10月から今年3月にかけては、渋谷区立鉢山中学校と連携し、全6回の予定で放課後のクラブ活動としてプログラミング講座を開催しています。

テキストプログラミングから始めるメリット

――Kids Valleyが始動する以前から、ネットリテラシー講義や企業訪問に取り組んできた経験があるとのことで、御社の教育に対する思いの強さが伝わります。プログラミング教育の取り組みにおいて、御社ならではの強みはどんなものがあるか、お聞かせください。

田那辺:
今「プログラミング教育」というと、小学生向けのビジュアルプログラミングツールや、アンプラグドプログラミング教育(デジタルデバイスを使用せずフローチャートなどでプログラミング的思考を教育する手法)で子どもたちにプログラミングを教えるスタイルが主流です。しかし、2021年度以降に中学校や高校で行う学習内容はよりレベルアップしていきます。ですので、中学生の段階でプログラミングについてしっかり理解してもらう、ということがプログラミングの活用につながり、より有意義になると考えています。

さらにその先の高校生や大学生、そして社会人のエンジニアとなった場合に、取り組むことになるだろう問題やプロジェクトにおいては、やはりテキストプログラミング(実際にソースコードを書いてプログラミング=コーディングを行うもの)の知識が不可欠です。当社のプログラミング教育に対する考え方においては「テキストプログラミングの知識を子どもたちが身に付けられること」を、とくに重要視しています。

しかし、いきなりテキストプログラミングを教えることは、子どもたちにとっては理解が難しく楽しさを感じにくいことが多いため、ハードルの高い作業といえます。そのハードルは、当社が新たに用意したテキストプログラミング体験学習用のアプリを使って越えようとしています。

当社のプログラミング教育アプリでは、「モンスターストライク」のキャラクターが登場するアクションゲーム風の課題に取り組んでから次第にジャンルや難易度を変えていくことで、子どもたちに親しみを感じてもらいながら、楽しんでテキストプログラミングや数学の知識を身に付けてもらえるよう工夫しています。

田那辺輝氏(開発本部CTO室)

アプリを使った講座の裏側とその効果

続いて、子どもが楽しみながらテキストプログラミングを学習するための工夫は、親しみやすいキャラクターだけではない。現在ミクシィが開発しているプログラミング体験アプリの特徴や、アプリを使った講座の流れや内容の詳細についても伺った。

開発中のプログラミング教育アプリの画面

開発しているプログラミング体験アプリや講座の特徴

――現在取り組んでいる御社のプログラミング教育プロジェクトでは、オリジナルのアプリを開発し、使用していると伺いました。特徴について教えてもらえますか。

田那辺:
今回の取り組みにあたり、小学校のプログラミング学習で得た下地を高校のプログラミングの履修内容に結びつけていけるよう、中学生の早い段階からプログラミングに必要な知識を階段状に難易度を徐々に上げて学習してもらう必要があると考えていました。

そこでテキストプログラミングを楽しみながらわかりやすく学べるようにしよう、という発想をスタートにこのアプリを開発しました。ちなみに学習に使用する言語はLuaです。

一般的にプログラミング学習と聞くと「自習」をイメージされるかもしれませんが、このアプリでは授業や講座として使うことをメインに想定して開発しています。そのため先生側で授業の管理と進行ができる機能を標準で備えています。

また、「テキストプログラミングは実は簡単である」ことを生徒側に理解してもらえるように、小学生からでも学習できるほどの直感的でわかりやすさを意識したUI設計を施しています。

問題に込められたプログラミングや数学の知識をきちんと理解しようとすれば、大人でも難しく感じるレベルの知識も、しっかり学べます。

プログラミング体験アプリ表示画面。キャラクターを動かすために、テキストでプログラミングする
プログラミングで作図をする問題。線を描画するためには座標や関数の知識が必要になり、これらの知識を学習できる
PCやタブレットを使用して、アプリ上の問題を解くことができる。先生側と生徒側のデバイスはインターネットを経由して連携する

プログラミングの知識“だけ”を教えるのが目的ではない

田那辺:
今回開発しているプログラミング体験アプリではScratchなどのビジュアルプログラミングツールとは違い、プログラミングはすべてテキストを入力してコーディングを行うことができます。一方、タイピングにまだ慣れていない生徒でもプログラミングに専念できるよう、コード入力を支援する機能も用意されています。

また、問題に解答するには座標や関数など数学の知識が必要な問題も収録されているので、テキストプログラミングの知識だけではなく、数学の知識も学習できるのが特徴です。
最近のリッチなプログラミングツールでは、ユーザが数式や関数の知識を知らなくても操作できるように設定されています。プログラミングに集中するという意味では良いかもしれませんが、教育の枠で考えると足りない面も出てきます。

私たちが開発するアプリは、教育の枠を大きく捉えているため、コーディングの際に数学の知識が必要となります。教育現場を意識した思想で開発しています。

もちろん、学ぶ生徒側だけのために作ってはいません。先生側の画面にも工夫を凝らしています。

具体的には、先生の画面では、生徒の参加状況が一覧できる、いわば管理画面の機能が用意されています。管理画面を通じて、生徒がきちんと接続して問題に取り組んでいるか、解答状況はどうなっているか、生徒の学習進捗をいつでも確認できるのが特徴です。

問題はあらかじめ収録されていますが、生徒の学習進捗に応じた難易度の問題をインターネットから新たにダウンロードもでき、生徒個別に柔軟な対応ができるよう配慮された設計となっています。

実践の舞台裏~渋谷区立鉢山中学校でのプログラミング講座

座学とハンズオンを組み合わせた講義を全6回で

ミクシィは今、「Kids VALLEY 未来の学びプロジェクト」の一環として、渋谷区立鉢山中学校でプログラミング講座を実施している最中だ。まず、最初にその概要を紹介しよう。

講義は全6回で、渋谷区の鉢山中学校では、すでに第4回まで講義を行った。

これまでの概要は、

  • 第1回:論理的思考やプログラミング的思考などプログラミングの基本
  • 第2回:キャラクター制御で基本的なプログラミングを学ぶ
  • 第3回:キャラクター制御を深掘り、エンジニアとしての考え方
  • 第4回:プログラミングで作図に挑戦する

といった内容。第5回はグラフィック、第6回はこれまで使用した数学知識のおさらいを予定している。

講義の時間構成は、基本的に資料などを使用した座学が30分で、アプリを使用した実践形式のハンズオンが30分、の計1時間。

座学で使用する資料には、論理的思考などプログラミングに関係する概念や用語を解説しているが、生徒が難解に感じてプログラミングへの興味を失わせないことに配慮した簡潔な解説とアンプラグドの実践課題が含まれ、そのあとアプリを使ったプログラミングの実践にスムーズに移れることを重視した内容作りがされている。

講義を行い見えてきたこと――これからのプログラミング教育

――ここまで行ってきた実際の講義を通して、学校のプログラミング教育にはどんな課題や改善すべき点があると感じましたか?

田那辺:
学校で展開されるプログラミング教育は時間的制約もあって、プログラミングの知識を深掘りするまでは難しいのではないかという懸念があります。子どもも、プログラミングに触れられはしますが、理解はできないまま授業が進むことが多く発生してしまうかもしれません。学校の短い教育時間だけでは対応できないこのような課題を、当社のような企業や学外のサークルなど時間外の活動でフォローできないか、と考えています。

また、小学校で定義されているプログラミングの知識、中学校・高校で定義されている知識には、それぞれカテゴリ間の難易度に大きな差があると感じています。

たとえば、高校になれば、データベースやセキュリティなど、子どもには聞きなれない用語が授業に出てきます。中学までにこのような用語を聞いたことがない子どもにとっては、突然これらの用語を聞くととても難解に感じられ「なんでこんな知識が必要なの?」と疑問に思って学習意欲が下がってしまうかもしれません。

子どもにも、小中高それぞれで学ぶ知識がどのようにつながるのかが理解できるようになるには、当社のような企業こそ、難易度が徐々に上がって学習につまずきにくいコンテンツを提供することが必要に感じます。学校側と企業や地域が積極的に連携していけるとよいのではないかと思います。

町井:
鉢山中学校の生徒とともに4回のプログラミング講座に取り組んでみて、他の科目が苦手でも、プログラミングには夢中になって、問題を解くことできる子がいるのは印象的でした。

授業でプログラミング教育を取り入れて子ども全員に学習を届けることも大事ですが、プログラミングを積極的にやりたい子には、今回のような課外のクラブ活動などで、思う存分プログラミング能力を伸ばせる環境を整備する必要性を感じました。

これからのミクシィの取り組みとエンジニアの資質を伸ばすには

最後に、町井氏には今後ミクシィが取り組むプログラミング教育の将来像を、田那辺氏には子どもにエンジニアの資質を伸ばすにはどうすればよいかを、伺った。

町井:
今回のプログラミング講座は渋谷区の鉢山中学校で行いましたが、当社としては、同じ渋谷区の他の中学校など、講座ができる場をより広げたいと考えています。

また、2021年度からの中学校におけるプログラミング教育の拡充に向けて、中学校の授業支援を強めることを検討しています。渋谷区や学校、先生方とのより深い連携ができればと考えています。

田那辺:
ものづくりに好奇心があったり、何でもよいので何かに没頭する集中力があったりする子はエンジニアに向いていると思いますし、活躍できると思います。

エンジニアは、子ども本人が小中学生のころにプログラミングに関心がなくても、興味を感じた時点でいつでも目指せる職業ですので、敷居の高い特別な職業ではありません。

個人的には、PC-9800やBASICで小さいころ遊んでいた経験がエンジニアになったことに大きく影響していると感じます。

高度なプログラミングスキルや理論をしっかり学習するのは大学生や社会人になってからでも十分です。しかし、テキストプログラミングそのものに小中学生のころから触れ、プログラミングに対する「抵抗感」をなくす経験をすることは重要だと考えます。

そのような経験を早い段階でしていれば、小中学生のときはプログラミングに関心がなくても、成長してからエンジニアに関心が湧いたとき、プログラミングを学び直してエンジニアを目指すことが容易になります。

そのためにプログラミングにいつでも簡単に触れられる環境を整備することが大切です。当社の取り組みが、将来、エンジニアになりたい、そしてなれる子どもが少しでも増えることにつながれば幸いです。

企業が教育産業へ積極参入している今、教育界として考えられること

以上、ミクシィのプログラミング教育への取り組みを紹介した。

田那辺氏から指摘されたように、学校が確保できるプログラミング教育の時間・体制だけでは、子どもにプログラミングについて深く理解してもらうのは難しい実状がある。

サッカー、テニス、水泳などのスポーツ、吹奏楽や将棋などの活動は、部活動でも取り組めるが、教育機関以外の場でもその競技や活動に積極的に取り組める環境が整備されている。

プログラミング教育も同様に、教育業界の周辺からの支援によって、子どもが教育機関以外でもプログラミング教育を受けられる環境の整備が重要になってくるかもしれない。

またミクシィのように、子どもが慣れ親しんでいるサービスやゲームを開発してきた企業だからこそできる教育へのアプローチ、たとえば、学習ツールにそのノウハウを取り込むことで、子どもの学習意欲を高める取り組みは、企業だからこそ実現できる強みだ。

プログラミング教育への注力を強める民間企業は、ミクシィ以外にも数多く、今後より増えることが予想される。

今回のインタビューを通して、教育機関には教育業界内のつながりに加えて、企業からのアプローチに柔軟に対応できる窓口の増強や、連携の強化がより一層必要になってくると強く感じた。

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