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視覚に障害のある方へ講習する「形式」のポイント~ICT活用の現場から⑯

前回は視覚に障害のある方へiPhoneやiPadの講習をする際、配慮しておきたい準備のポイントをいくつか取り上げた。

それを踏まえて今回は視覚に障害のある方へ実際に講習を行うにあたり、どういった形式で行うのがよいかをテーマにお伝えしたい。

形式は受講者の人数から考える

2013年 青森市でのiPad講習会の様子

ここでいう形式とは、講習をどのような形式で行うかということだ。進学塾を例にすれば、個別指導かセミナー形式かといった分類に分けるような具合である。

筆者はこれまでに視覚や聴覚に障害のある方を対象にした、iPhoneやiPadの講習を数多く重ねてきた。

受講者の人数や障害の内容によってその都度最適と思われる形式で講習を行ってきたが、形式としてまず考えるべきなのは「受講者が何人か」という点だ。

受講者の人数が多いと、上の進学塾の例で述べたように個別指導は難しい。逆に人数が少ないのにセミナー形式で講習するのは、少人数でのメリット(細かいところを直接詳しく教えてもらえる、質問がしやすいなど)が活かされないために、講習する側も受講者も勿体ないと感じるだろう。

個人的には受講者が納得いくまで十分な説明をしてあげたいので、講習会の依頼があったときは少人数による個別指導型での講習ができると良いと思っている。

しかし、遠方での講習会となるとそう頻繁に訪問することはできないし、受講者の側も「なかなかない機会だからぜひ受講したい」と大人数の方が参加を希望されることもある。こうした前向きな参加を無下にすることも気が引ける。そうした場合にはセミナー形式での講習方法を検討する必要があるだろう。

視覚に障害のある方へ個別指導が有効な理由

受講してもらうからには、受講者が十分に満足してもらえることを念頭にどういった形式で講習を行うべきかを考えるようにしている。

視覚に障害のある方は、1人でiPhoneやiPadを操作することが困難な場合が多い。画面の内容を視覚的に理解することが難しいからだ。

画面が見えなければそもそもホーム画面がどうなっているのかも理解できない。晴眼者の場合「ホーム画面にはアプリが規則正しく並んでいます」と言われれば言葉と見た目のイメージでなんとなくわかるだろう。しかし画面が見えないと「ホーム画面ってなに?ホーム画面じゃない画面もあるの?」「規則正しいってどう規則正しいの?線状?放射状?」などと思うかもしれない。言葉と視覚による組み合わせで理解できることが、人によっては難しいということも往々にしてあり得る。

そのため視覚に障害のある方に対しては操作方法を口頭で説明しながら、必要に応じて受講者の手をとって操作の説明をしてあげたり、都度画面の状態を説明するなどの必要がある。

こうしたきめ細かい対応や配慮が必要な点が、晴眼者に教えるのとは大きく異なる点でもある。

そう考えると、視覚に障害のある方へ講習を行う際にはやはり個別指導型が望ましいと考えられる。

人数が多いと個別指導では捌ききれない

2013年岩手県でのiPad講習会の様子

一方で個別指導型の難点は、上の例で述べたように複数人の参加があった場合に対応が難しいことだ。

それを強く感じたのは7年前に岩手県盛岡市で行ったiPad講習会のこと。午前と午後の2回に分けて行った講習会のうち午後の部だったと記憶している。

受講者は全盲と弱視の方々が4人。それまで筆者は障害のある方を対象にしたiPad講習は、小規模で行っていたこともありすべて個別指導型で行っていた。

このときも最初にiPadの基本的なことや基本操作を全員に口頭で説明したあと、1人につき10分程度の個別対応を4人に対して行ってみた。

4人の障害の具合(見え方)はそれぞれ微妙に異なっており、またiPadへの理解度も個人差があったので、個別対応でそれぞれのニーズに細かく対応できたことは良かったと思っている。

ただやはり1人10分程度の個別対応を行っていると、一度対応した方を次に相手にできるのはざっくり見積もっても40分後ということになる。

1回の講座時間はおおむね2時間程度の場合が多いので、人によって個別対応できる回数に差が出る場合もあったかもしれない。受講者が3人であれば個別指導の回転率も高められるが、4人からは少し難しいというのが個人的な印象だ。

受講者の中には中途で失明し、希望を失っていた中で講座のことを知り藁(わら)をもすがる気持ちで参加される方もいる。そうした切実な思いに十分な説明で応えてあげたい気持ちと、適切な講座を運営することのバランスを取ることは難しい場合もある。

次回は講習の形式についての続きを取り上げたい。

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