1月25日、渋谷区立鉢山中学校で、株式会社ミクシィが展開するプログラミング教育講座「TAKE A STEP TOWARDS PROGRAMMING」(以下、テカステ)が、参加を希望する生徒に対して行われた。
先日の記事でも紹介した、全6回を予定しているプログラミング講座の第5回目だ。
当講座の最終回となる第6回は今月3月中に実施される予定だったが、現在流行している新型コロナウイルスの感染拡大予防のため全校休校となり、残念ながら、中止となった。
筆者は、テカステの開催を支えた鉢山中学校松澤教諭にインタビューを行い、ミクシィ側からだけではなく、学校・教師の側から見たプログラミング教育講座に対するメリットや効果、課題などについて、ヒアリングを行った。
当レポートでは、テカステ第5回の模様と、松澤教諭のインタビューをお届けする。
プログラミングで動画表現を学ぶ~テカステ第5回レポート
1月25日、鉢山中学校では、テカステの第5回目が開催された。
以前の記事でも紹介したが、第1~4回までの各回テーマは、
- 第1回:論理的思考やプログラミング的思考などプログラミングの基本
- 第2回:キャラクター制御で基本的なプログラミングを学ぶ
- 第3回:キャラクター制御を深掘り、エンジニアとしての考え方
- 第4回:プログラミングで作図に挑戦する
となっており、第5回で教えられる内容は「グラフィックとアニメーションのプログラミング」であった。

第4回までに学んだプログラミングによる絵の作図方法を活かして、第5回ではさらに、絵を動かすプログラミングを実装して、グラフィックスにモーションを加える表現方法を学ぶ。
授業ははじめに、講師を務める田那辺輝氏(株式会社ミクシィ 開発本部CTO室)から、グラフィックスに動きをつける基本的な考え方として、動画制作・編集ソフトにも活用されている時間の概念とその時間を扱う単位「フレーム」に関する説明が行われた。

田那辺氏から動画表現に関する簡単なレクチャーがされた後、各々の生徒はミクシィ開発のプログラミング体験ソフトを使用しながら、グラフィックスにモーションを加えるプログラミングに挑戦した。



授業中、生徒たちは、黙々とタブレットPCに向かってプログラミングをしているわけではなく、わからない箇所があれば、講師の田那辺氏や町井香織氏(株式会社ミクシィ 経営企画部広報グループ)に積極的に質問をする。

また講師だけではなく、近くにいる生徒同士が話し合って、時にはお互いのプログラムを確認し合いながら、プログラミングに取り組んでいた。
講座の最後には、生徒たちは自身の書いたプログラムが実際に動くかどうかデモを行い、プログラムの楽しさを実感している様子であった。
講師の田那辺氏からは、今回学んだ内容は実際のゲーム開発にも応用されていることが説明され、update関数以外にもプロのITエンジニアが使用する関数やプログラム記法など実践的な応用例を紹介して、第5回は終了した。
まずはテカステ第5回の模様をお送りした。
授業中は、生徒たちが能動的にプログラミングに取り組み、わからない箇所があれば気軽に講師や周囲の生徒同士で質問できる雰囲気が醸成されていた。
第6回は、これまで学んだ内容を総ざらいしたより実践的な内容を予定していたので、中止となったことは悔やまれる。
筆者は、今回のプログラミング教育講座に関する学校側の見解を引き出したく、ミクシィにご協力いただき、松澤教諭へのインタビューを行うことができた。
学校、教師から見たプログラミング教育講座~松澤教諭インタビュー
松澤教諭へのインタビューは、3月5日、東京・渋谷にあるミクシィ本社にて行った。
松澤教諭は、学校・教師側からの視点で、プログラミング教育のメリットや効果、そして課題などについて多く語ってくれた。

鉢山中学校がプログラミング教育に取り組んでいる理由
――まず、鉢山中学校がプログラミング教育に取り組まれている理由をお聞かせください。
松澤:
理由としては2つあります。
まず1つは、当校は、理数教育重点校に指定されており、外部からも評価される理数教育の柱となるような取り組み作りを模索しています。
さまざまな取り組みを模索する中、昨年2019年8月に、渋谷区が実施する「Kids VALLEY(キッズバレー)未来の学びプロジェクト」の取り組みで、ミクシィ様が中学生向けのプログラミングワークショップのイベントを開催しており、その様子を見学していた当校の副校長が、当校でもぜひミクシィ様にご協力いただきたいと判断したのが、今回のテカステを始めるきっかけでした。
そしてもう1つは、当校の生徒から「プログラミングが学べる場所がほしい」という要望が以前から強くあり、当校にプログラミング教育の環境を整備する必要性を感じていたため、実現に至りました。
当校だけでプログラミング教育を実施する具体的なノウハウを整備することは難しかったので、ミクシィ様のサポートは非常に心強かったです。
――「プログラミング教育を強化したい」と考えていても、どうやって教育環境を整備すればよいか悩んでいる中学校は全国に多いと思います。渋谷区のようにICT教育推進に熱心な自治体、そしてプログラミング教育支援に取り組んでいるミクシィのような民間企業という、外部からのサポートを積極的に取り入れることが重要、ということですね。
プログラミング教育講座を通して、起きた変化とは
――今回のテカステを通して、講座の受講前と後で、生徒側、そして教師側に、プログラミングに対する意識にはどのような変化がありましたか?
松澤:
以前は「プログラミング」と聞くと教師側も生徒側もプログラミングに触れた経験が少ないので、“正体不明のものに取り組む”といった過度な不安を抱いていました。
私は技術科の教員であることが理由で、テカステを担当することになったのですが、学生時代に専門的にプログラミングを学んだ経験はなく、教員になって以降、プログラミングに取り組み始めました。
しかし、テカステが、テキストプログラミングをわかりやすく、そして理解を深めてくれる良質な講座内容であったため、生徒側のプログラミングに対する不安感を解消してくれました。
また教師同士の情報共有の場で、毎回のテカステの講座内容の詳細と、それを学ぶ生徒たちの生き生きとした反応を報告していました。
その報告を重ねるにつれて、当校の教師たち全体にもプログラミングに対する意識が自然と変化していったように思えます。
以前のような、プログラミングに対する過度な不安はなくなり、しっかりと学ぶ体制を整備すれば、今の生徒には取り掛かりやすい便利なものである、といった認識へと変化していきました。
デジタルデバイス導入のメリットはもちろん、課題は?
――昨今、GIGAスクール構想が推進されていますが、鉢山中学校や渋谷区ではそのような動きに先駆けてデジタルデバイスの教育現場導入が行われています。学生1人1人へデジタルデバイスを導入することのメリットはメディアでもよく報じられますが、実際導入してみて感じられた課題や改善点などはありましたか?
松澤:
まず、メリットは、授業中はもちろんですが、配信した宿題など、生徒が家庭でどれだけ学習してきたか、当人の学習進捗を確認できることです。
従来の紙ベースでは、生徒から宿題や課題を提出されないと当人の学習進捗を把握することは難しかったですが、学習コンテンツがデジタルベースになっていると、各生徒の進捗が可視化できます。
宿題が捗っていない生徒には、個別に指導する際に親身にヒアリングできるので、生徒の学習進捗の把握に役立っています。
課題は、教師側も生徒側もはじめての経験だったので、対応に戸惑ったり困惑したりすることが多かったことが挙げられます。
また、セキュリティ管理が大変であり、セキュリティへの課題意識が重要になると思います。
渋谷区から貸与されたタブレット端末には、Webブラウザが標準でインストールされていますが、生徒によっては授業とは無関係な事柄を検索する子もいます。
気軽にWebにアクセスできることは、わからないことをすぐに検索できて便利である半面、使い方を誤ると重大な事件にもつながりかねないので、生徒側のタブレット端末には一定のアクセス制限がかけられています。
Web検索が可能で、利便性が高い分、SNS対応など、生徒への情報モラル教育に取り組む必要性や重要性が高まっていると感じています。
継続的な支援だからこそ実現できた細やかなサポート
――ミクシィと協力して、テカステに取り組んでみて得られたメリットとはなんでしょうか?
民間企業のプログラミング教育講座といっても、1回きりの講座を開いて終わり、といった形式の講座が多い中、ミクシィ様のように複数回にわたって継続的にプログラミング教育講座を行ってくれる企業は珍しいです。
講座の内容を、私たち学校側の意見も交えつつ、ミクシィ様が講座内容を作り上げてくれたことにも非常に満足しています。
また授業中、生徒もわからないことがあれば、講師の田那辺氏や町井氏に気軽に質問ができていて、生徒と講師の方との信頼関係の構築ができていたように思えます。
私たち教師は生徒の身近にいるため、生徒との関係構築ができていますが、ミクシィ様のように学校外部の講師の方が、生徒側と信頼関係を構築することは、簡単なことではありません。
複数回にわたって継続的に生徒とコミュニケーションを取ってくれたことが、生徒に対する細やかなサポート実現につながったと感じています。
教育現場のリモート活用状況
――現在の社会状況も鑑みた質問になりますが、リモートを活用した検討中の取り組みがあればお聞かせください。
3月から、渋谷区から生徒に貸与されたタブレット上で「コラボノート」という協働学習ソフトを使用して、生徒との連絡を行おうとしています。
「コラボノート」は学校には馴染み深い模造紙のようなUIが特徴で、新聞、寄せ書き、思考ツール、白地図など、全教科の授業で使える豊富なテンプレートを備えています。
コメントを書き込んだ「付箋」をはる機能もあるので、教師側のフィードバックを生徒へ届けることができます。
渋谷区から貸与されるタブレット端末には、各生徒個別のアカウントがすでに作成された状態で「コラボノート」が用意されています。
当校でも学校内では「コラボノート」を積極的に使用していましたが、休校中である現在は、家庭学習においても、生徒との連絡のために使用することを試みています。
試行錯誤しながら、協働学習ソフトを活用して、生徒と円滑にコミュニケーションを図りたいです。
――本日は貴重なお話をいただき、誠にありがとうございました。

民間と学校双方の入念な準備があったからこそ実現できたプログラミング教育
以上、「TAKE A STEP TOWARDS PROGRAMMING」第5回の模様と渋谷区立鉢山中学校 松澤教諭へのインタビューをお送りした。
テカステでは、ITエンジニアが実務でも使用するプログラミング手法を、生徒たちが楽しみながら学んでいる姿が印象的であった。
授業も、ミクシィと学校が綿密な事前準備をしていたので、滞りがなく計画通り進行していた。
それだけに新型コロナウイルスの感染拡大予防の対策によって、講座が中止になってしまったことは、やはり悔やまれる。
今回お送りした鉢山中学校でのテカステは、ICT教育推進に熱心な渋谷区、プログラミング教育支援に取り組むミクシィからのサポートがあったからこそ実現した先進的な事例だ。
当レポートで関係者たちから引き出せたプログラミング教育の現場導入におけるメリットや課題が、今後プログラミング教育の環境整備に取り組もうとしている教育機関、そしてEdTech企業にとって参考になれば幸いである。
昨今の新型コロナウイルスによる騒動が早く終息することを願いつつ、試行錯誤を続けながらプログラミング教育の環境整備に取り組む教育機関、そしてEdTech企業の挑戦を今後も当メディアでは報じたい。