生徒の学習を止めないために~ミクシィがWebプログラミング学習用テキストの提供を開始

生徒の学習を止めないために~ミクシィがWebプログラミング学習用テキストの提供を開始

新型コロナウイルス感染拡大防止のための休校措置がとられた多くの学校で、オンライン授業やデジタル教材の活用など、ICT教育環境の導入・推進が試みられている。

以前、当メディアでも紹介した株式会社ミクシィが、そのような教育環境に置かれている生徒や学校への支援として、中学生を対象としたHTMLやJavaScriptが学べるプログラミング学習テキストの提供を始めた。

ミクシィは、渋谷区教育委員会が主導する「Kids VALLEY 未来の学びプロジェクト」の一環として、2019年10月~2020年3月の間、渋谷区立鉢山中学校にプログラミング教育講座を開催していた。

今回提供されたプログラミング学習テキストは、渋谷区立鉢山中学校の100名ほどの全校生徒に向けて配布され、課外学習のひとつとして希望者が取り組めるようになっている。

テキストはWebページの作成やプログラミングの基礎を学べる、自宅学習に特化した内容になっている。

5月1日から第1回「HTML言語基礎」のテキスト配布が開始され、第2回「CSS基礎」、第3回「JavaScript言語基礎」と、全3回を隔週で配布した。

また、テキストを進めていくために、特別なアプリのインストールやネット接続を不要にしており、パソコンの標準機能だけでテキストの実践に取り組める課題設計になっている。

筆者はミクシィが今回提供を始めたプログラミング学習テキストの意図や目的、教材の特徴、そして今後の展望について引き出すため、ミクシィのプログラミング教育の取り組みに携わる、田那辺輝氏(開発本部CTO室)、町井香織氏(経営企画部広報グループ)にオンラインインタビューを行った。

左:町井香織氏(経営企画部広報グループ)、右:田那辺輝氏(開発本部CTO室)

プログラミング学習テキスト配布を始めた理由や背景

――まず、プログラミング学習テキストの配布を始めた理由や背景をお聞かせください。

田那辺氏:
現在の新型コロナウイルス感染拡大防止のため全国の学校が休校となり、自宅学習をしている生徒の方々の状況を見ていて、すぐに実施できる、当社らしいサポートが何かないか?と考えていました。
サポートを模索している中で、さまざまな環境にある生徒にお届けすることを考えて、我々IT企業が得意なITに関する知識をテキストで学習できるものがいい、と考えが至り、今回の取り組みを始めました。

5月1日からテキスト教材の配布を開始しましたが、教材のテーマは今回の取り組みのために新たに構想したものではありませんでした。
「Kids VALLEY 未来の学びプロジェクト」の下でのプログラミング教育支援の一環として、今年度に実施することを構想していた講座がもともとあり、その中から自宅学習用の課題とできるものをピックアップして、テキスト教材として制作しました。
制作したテキスト教材を、ご縁のある鉢山中学校へ、配布を提案したところご快諾いただき、今回のテキスト教材配布を開始することができました。

テキスト教材は、自宅学習の一環としてじっくり集中できる課題を見つけてほしい、という思いで制作しました。
また、プログラミングに対して現時点では興味がない生徒にとっても、プログラミングやITに関係する仕事を考えるときイメージができるように、一度触れてみることは意味があると考えています。
当社の取り組みが、その生徒の将来の選択肢の幅を広げることにつながればよいと考えています。

第1回テキストの一部。全3回のテキストは田那辺氏が作成した

補足としまして、HTML、CSS、JavaScriptについてはすでに中学の技術科教科書の「情報」でも紹介はされています。
当社でも今年度からは「Webとプログラミング」と題した、HTML、CSS、JavaScriptに関する教育コンテンツの提供を計画していました。
教科書に掲載されている内容は、HTMLやCSSといった用語を解説することに留まっており、HTML、CSS、JavaScriptでどんなことができるのか、学習として順序立てて解説されているわけではありません。
そして、HTML、CSS、JavaScriptに関しては、Web上でコンテンツやアプリを制作・配信している当社のような民間企業だからこそ教育機関よりも詳しく教えられる部分がある、と考えていたので従来から教えたい内容ではありました。

今回の取り組みの目標とは

――今回のプログラミング学習テキストを通して、生徒にはどんな知識を身に付けさせることを目標に掲げていますか?

田那辺氏:
HTMLやCSSの存在は知っていても、学ぶときに何から始めればよいかわからない、という生徒は多いと思います。
今回のテキストは、そんな生徒にとっても始めるきっかけになるよう、最初の手引きとしてHTML、CSS、JavaScriptの動作を体感してもらう、ということを目標にしています。

テキストを実践することで、HTMLのタグやコーディングの手順など、細かい知識やスキルがどのように利用されるのか理解できることを心掛けて作成しています。
文章が中心でさまざまなHTMLタグなどを取り上げているので、扱っている内容は専門的ですが、課題の難易度が特別高いわけではありません。
実際には説明の通りに手順を進めていけば、HTMLファイルなどの成果物はちゃんと作成できる構成になっています。

また、最終的な目標としては、生徒が自発的に、継続してプログラミングを学習する素養を身に付けられること、と見据えています。
この最終的な目標を達成するために、HTML、CSS、JavaScriptの全体像をつかんでもらいたいと考えています。

今後、他校へ教材を展開させてもらうことがある場合にも、解説文はもっとわかりやすくなるように調整や改善は重ねますが、テキスト教材の大枠自体は、現状のままで進めようと考えています。

――教材制作の際は、どんなチェック体制を敷いているのでしょうか?

町井氏:
田那辺が作成したテキスト教材を、社内で回覧しながらチェックしています。
例として提示されたコードはすべて、他の環境でもちゃんと動作するかの検証を行っています。

また、Webに公開されているHTMLやJavaScript、ブラウザに関する開発者向け公式ドキュメントの他に、教育的な知見も参照にしながら制作しています。

――生徒たちには課題解答の他に「振り返りシート」の提出を課しています。この「振り返りシート」以外に、生徒が課題に取り組んだ際に作成されたテキストファイルやHTMLファイルなど、成果物の提出はさせないのでしょうか?

町井氏:
今回の課題は、生徒によって解答結果に差が生じる内容ではないので、生徒が自分でできたと判断すれば良しとしており、成果物の提出は課してはいません。
また、成績には影響しないチャレンジ課題として配布しているという理由もあります。

課題解答のために、ネット接続や特別なアプリを不要にした理由

――今回の課題を解く際には、ネット接続や特別なアプリを不要にするといった環境への配慮がされています。家庭のネット接続環境が十分でない学生にも配慮した制度設計と思いますが、その理由をお聞きせください。

田那辺氏:
はい、もちろん各生徒によってご家庭の状況は異なるので、その面を配慮した制度設計ではあります。

しかし、そういった理由以外にも、プログラミング学習は、オフラインのローカル環境で、メモ帳アプリ1つでも十分できると考えていることもありました。

昨今のオンラインプログラミング学習講座を受けようと思ったとき、あまりにも多種多様な講座があるためどれから選べばよいか、最初の選択や環境の設定から迷ったりつまずいたりしてしまう学生は少なくないと思います。
今回のテキスト教材は、どのパソコンにも標準でインストールされているテキストエディターで実践できる内容にしており、プログラミング学習を始めるためのハードルを下げて、誰でもプログラミングに取り掛かりやすくすることを重要視しています。

またテキストエディターは、そのツールの使い方自体を学習する必要もとくにありません。
多くのWebブラウザには開発者向けのツールが備わっており、コードのデバックなどもできます。

ツールを使えば、問題解決に役立つことがありますが、そのツール自体の操作説明を先にすると難易度が上がってしまう心配がありました。
HTMLやJavaScriptの記法や構造など、今回のテキスト教材で本来学習すべき内容に生徒たちを集中させるため、標準のテキストエディターで実践する方法を採用しています。

テキストを実践してみた生徒の反応は

――第1回(5/1)と第2回(5/12)を開催してみて、生徒側の反応についてお聞かせください。課題の解答状況や振り返りシートの内容などについてお伺いできますか?

田那辺氏:
すでに一部の生徒から振り返りシートの返却が始まっており、途中での集計結果ではありますが、第1回の課題実施率は全校生徒の四分の一程度です(編集注:5/14時点)。
課題提出の強制力はなく、中学3年生は受験勉強も控えている中、当社の予想より積極的に取り組んでもらえたと考えています。

生徒からの反応は、6-7割は「プログラミングの動作する段階についてよく理解できた」「難しかったけど達成感もあった」「タグにもいろいろな種類があることに驚き面白い」といった好意的な反応でした。
反対に1-2割は「文字がズラーっとならんでおり難しそう」「専門用語があって理解が止まってしまった」という反応もありました。

具体的に生徒がつまずいてしまったポイントとしては、第1回「HTML言語基礎」の問題内に記載していた「拡張子の変更」が挙げられます。
単に拡張子の表示・非表示の設定がわからずつまずいてしまっただけではなく、「拡張子」という用語の意味自体がわからず時間がかかってしまった生徒が多かったようです。

なるべく専門用語は避けて生徒にとってわかりやすくなるように問題作成は行っていましたが、実施してみて気付いた改善点も多くあるので、今後も解説文の調整は行っていきます。

生徒から返却された振り返りシート

今後のテキスト教材の展望は

――今回の取り組みを活かして、今後展望されるプロジェクトなどがあればお聞きせください。

田那辺氏:
今回実施したテキスト教材を、渋谷区の鉢山中学校以外の学校にも配布したり、今後休校期間が終わり対面授業も解禁されたら当社が実施する課外学習講座に教材として利用したり、多方面に展開したいと考えています。

それからオンラインでの自宅学習にも活用できるように、映像やビデオ通話ツールなどのオンライン講座としても、今回のテキスト教材をはじめとしたコンテンツを提供したいと思っています。

町井氏:
今回実施したプログラミング教育以外にも、当社はSNSに関する知見もありますので、情報モラルの啓蒙やSNS対応について教える教材の提供も検討しています。

――本日はありがとうございました。

子どもたちの学びを止めない、さまざまなICT教育支援のアプローチ

5月25日、全国で緊急事態宣言は解除されたが、今後も「新しい生活様式」が求められ、新型コロナウイルス感染拡大を防止する日々は続く。

教育機関、EdTech企業も、これまでと同様に、多くの生徒たちの学習を止めさせない、さまざまなICT教育環境整備の支援を推進する必要があるだろう。

その一方、公立校と私立校とのオンライン教育インフラの格差が叫ばれたり、オンライン遠隔授業を開始したことにより多くの大学でサーバーダウンが相次いだりなど、教育機関側のICT環境の整備や強化が現実的になかなか追いついていないことが、問題としてたびたび指摘される。

今回紹介したミクシィのプログラミング学習テキストは、成績には影響しないチャレンジ課題ではあるが、オフラインのローカル環境でも取り掛かることができる問題設計がなされている。

パソコンの標準機能で学習を進められる教材提供、というアプローチも、ハードウェア面で現実的な対応に迫られる多くの教育機関には、有用な選択肢といえるかもしれない。

今後も、さまざまな形式の教育支援事業を続けるEdTech企業の取り組みを報告したい。

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