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国内最大1,700教室で展開「QUREOプログラミング教室」レポート~短期間で急拡大した理由と特徴を探る

5月25日、緊急事態宣言が全国で解除されたが、今後も新型コロナウイルス感染拡大防止のために、人と人の接触はなるべく控える「新しい生活様式」が求められ、警戒を必要とする日々は続く。

教育機関、EdTech企業には、引き続き、オンライン授業やデジタル教材の普及といった、ICT教育環境の整備・推進が重要となるだろう。

今回の記事では、EdTech企業の株式会社キュレオが運営する「QUREO(キュレオ)プログラミング教室」で、5月から開始されたオンライン授業について紹介する。

株式会社キュレオは、株式会社サイバーエージェントと株式会社スプリックスとの合弁会社として2019年4月に設立され、小学生向けプログラミング教室を日本・海外あわせて1,700箇所以上(国内最大規模)で展開している。

QUREOプログラミング教室は、同社が開発したオンラインのプログラミング学習教材「QUREO」を利用して学習を進める。5月から1,700教室のうちまずは約500教室がオンライン授業を開始した。

QUREOプログラミング教室のオンライン授業の様子と、今回の取り組みに関して、株式会社サイバーエージェント真下紗枝氏と株式会社キュレオ 齋藤千秋氏にオンラインインタビューを行ったので、その模様をお伝えする。

QUREOプログラミング教室~オンライン授業の様子

「QUREOプログラミング教室」オンライン授業の様子(5月16日撮影)

筆者は、サイバーエージェント真下氏にご協力いただき、「QUREOプログラミング教室」オンライン授業に参加させてもらい、子どもたちがプログラミングを学習する様子を取材した。

授業はテレワークツールZoomを使用しながら、子どもたちがプログラミング教材QUREOのレッスンを進める様子を、講師がリアルタイムで見守りながら進められる。

教材のQUREOとしての特徴は、ゲームを進める感覚で、さまざまなガイドキャラクターにナビゲートしてもらいながら、プログラミングレッスンに取り組めることだ。

レッスンは、Scratchのようなビジュアルプログラミング言語を使いながら、対象のオブジェクトを操作して、解答を目指す。

QUREOのプログラミングレッスン。ガイドキャラクター「アルゴ君」がさまざまな問題を提示して、子どもたちがプログラミングに挑戦する
QUREOのプログラミング画面。画面左側には操作対象のオブジェクトが映し出されている。画面右側がビジュアルプログラミングの操作画面で、子どもは試行錯誤しながらプログラミングに挑戦する。わからないことがあれば、画面右下に表示されている「アルゴ君」アイコンをクリックすると…
「アルゴ君」が解答へのヒントを提示してくれる。子どもが楽しみながら、自立的に学習を進められる問題設計が施されている

QUREOは全56チャプター、300以上のレッスンから構成されており、さまざまなプログラミングレッスンに取り組める。

初心者向けではあるが、プログラミングに必要とされる概念、アルゴリズムが体験できる内容となっている。

QUREOで教えられる内容を習得すれば、関数やif文の知識も身に付けられるので、将来子どもたちが本格的にテキストプログラミングに触れるようになった際、スムーズに理解を進められる。

間違った動作(バグ)をするオブジェクトを確認してから正しく動作させるためのプログラミングを問うなど、多様な問題パターンが用意されている
レッスンをクリアするとガイドキャラクターが特別な動作をしてくれたり、チャプターをクリアすると特別なムービーが用意されていたり、子どもを飽きさせない多くの工夫が施されている

子どもがわからない箇所があって解答につまずいても、ガイドキャラクターの丁寧なナビゲーションが用意されているので、子どもは自立的に学習を進められるようになっている。

講師は、子どものプログラミングの様子をリアルタイムで観察できるので、なかなか解答が進まない場合は、適宜アドバイスができる。

今回のオンライン授業では、2人の子どもが参加していたが、それぞれが自分のペースで解答を進めていた。

黙々と授業は進んでいったが、子どもたちは集中力を保ちながら、熱心にプログラミングレッスンに努めて、1時間ほどの授業はあっという間に過ぎていった。

QUREOプログラミング教室の特徴とは

授業後、株式会社サイバーエージェント真下氏と株式会社キュレオ齋藤氏にオンラインインタビューを行い、QUREOプログラミング教室の成り立ちや講座の特徴について、ヒアリングを行った。

左:株式会社サイバーエージェント真下紗枝氏、右:株式会社キュレオ齋藤千秋氏

QUREOプログラミング教室の成り立ち

――まずQUREOプログラミング教室をスタートさせた背景や、講座の特徴をお教えください。

真下氏:
当社サイバーエージェントが展開しているプログラミング教育事業には、大別して、株式会社CA Tech Kids運営の「Tech Kids School」と、今日ご紹介した「QUREOプログラミング教室」の2ブランドがあります。
どちらも小学生向けのプログラミングスクールですが、学ぶ内容にそれぞれの特色があります。

Tech Kids Schoolは、SwiftやC#などプロのITエンジニアも使用しているプログラミング言語を用いながら、ゲームやアプリを開発できる知識を学ぶハイレベルな内容です。
Tech Kids Schoolは、基本のカリキュラムが3年構成になっていて、1年目はScratchや教材としてのQUREOを使用してビジュアルプログラミングを学び、2年目以降からSwiftやC#など本格的なテキストプログラミングを学びます。
プログラミング以外にも、デザインツールやプレゼンテーションスキルを学ぶ講座が用意されています。

2013年5月から事業を開始、現在では全国5拠点で展開していますが、Tech Kids Schoolで学んだ子どもたちは、大人も驚くようなクリエイティビティを発揮してくれています。

本人のクリエイティビティを引き出してくれる、プログラミング本来の魅力の普及を目指し、「テクノロジーを武器として、自らのアイデアを実現し、社会に能動的に働きかける人材」の育成・輩出をビジョンに掲げたプログラミングスクールです。

一方、QUREOプログラミング教室は、初心者でもプログラミングを楽しみながらプログラミングの概念、アルゴリズムをしっかり学習できる内容になっています。
とくに地方では顕著ですが、「現実的にプログラミングを教えられる先生がいない」「まだプログラミング用教材も持っていない」といった悩みを今でも抱えている学校や塾事業者は少なくありません。
そうした課題に向けて、地方でも都市部でも、皆が等しく質の高いプログラミング学習ができることを目的に掲げて、塾や習い事を運営する事業者様へ教材としてQUREOの提供を行っています。

QUREOプログラミング教室は、2019年4月からスタートしたばかりですが、1年間で日本・海外を含めて1,700教室以上で採用されました。

また、塾事業者だけでなく、自治体や学校教育で採用されている実績もあります。
離島である鹿児島県大島郡徳之島町では、自治体としてQUREOを採択しており、放課後のプログラミングクラブなどでQUREOが活用されています。
他にも佐賀県伊万里市でQUREOを活用したプログラミング特待生の採択や、奈良県では、3,4年生全員にQUREOをプログラミング教育に活用してもらっている私立小学校もあります。

短期間で採用教室数が普及した理由

真下氏:
QUREOプログラミング教室が短期間で多くの学校、塾などに採用された理由には、大きく3つあると考えています。

1つ目は、カリキュラム設計が充実しており、本格的なプログラミングの概念、アルゴリズムを学べること。

QUREOプログラミング教室のカリキュラムを履修した子は、その後テキストプログラミング言語に触れても、理解・習得を早められます。

2つ目は、講師向けの成績管理機能を備えていること。

成績表には、学習進捗度と学習理解度の2つの観点があり、プログラミングの概念ごとに、それぞれS~Dの5段階で評価され一覧で表示されます。
チャプターの進みが早いけど学習理解度Dが多い子、チャプターの進みが遅いけど理解度はどれもA以上の子など、子ども一人ひとりの進捗や苦手分野が可視化され、子どもの学習状況把握をサポートします。
プログラミング学習の成果を成績として可視化することは非常に難しく、プログラミング教育が抱える課題の1つです。
QUREOではプログラミング概念を60項目に分け、その概念ごとの進捗度と理解度の2軸を、生徒が取り組んでいるリアルタイムで可視化できます。

QUREOの成績表

3つ目は、子どもが自立的に学習を進められる設計であること。

実はQUREOは、元々、家庭学習用に開発されたオンライン学習教材で、リリース当初は「子どもが自宅で1人でもプログラミング学習を進められる」ことを目指してサービスを始めました。
しかし、やはり未経験の子ども1人だけでプログラミング学習を進め、かつ自宅で継続することは難しいようで、大人からのサポートの必要性を感じ、塾事業者向けのプログラミング教材としても提供を開始した、という背景があります。

元々が子ども1人で学習に取り組めるようなサービス設計にしていたので、講師から逐一、子どもたちにプログラミングの方法を教える必要はありません。

子ども自身が、次に何をしたら問題を進められるかわかるように、ガイドキャラクターが細やかなナビゲーションを提示してくれます。
また、カリキュラムには一貫したゲームのストーリーもあり、子どもたちは意欲的に次へ次へとプログラミングの学習を進められるのです。

プログラミングそのものの知識の教示は教材内で進めてくれるので、講師の方々は、生徒のコーチングに集中できます。プログラミングを教える大部分を教材に任せられるという点が、大きなメリットとして受け入れられています。

またQUREOは300レッスンあり、すべて終えるまで約1-2年かかるボリュームがあります。そしてしっかりとプログラミングの基礎概念を身につけていれば、その後テキストプログラミングへのステップアップもスムーズなので、長期的なプログラミング教育を考える塾事業者からすれば、導入しやすいと考えています。

ゲーミフィケーションの活用

――QUREOに登場するキャラクターはこの教材オリジナルですか?

真下氏:
QUREOに登場する「アルゴ君」などのキャラクターはもちろん、背景まですべてのイラストは、同じサイバーエージェントグループのスマートフォンゲーム制作会社がオリジナルで製作したものです。

またキャラクター、背景などのイラスト制作だけではなく、UI・UX設計からゲームデザインまで、スマートフォンゲームで培ったゲーミフィケーションが活用されたプログラミング教材といえます。

チャプターのクリアごとに獲得できるバッジが用意されていたり、レベルアップしたときの効果音やエフェクトも子どもが楽しめるクオリティを備えていたり、子どもが教材に没頭できるようなゲームデザインが施されています。

将来的には大学入試にも役立つカリキュラム設定

――プログラミングの問題やカリキュラムを制作する際に、参考としていた特定の指標やガイダンスなどはあったんでしょうか?例えば文科省が公開している学習指導要領などは参考にされましたか?

齋藤氏:
当社は、昨今のプログラミング必修化の動きより先駆けてプログラミング教育事業に取り組んでいたので、QUREOを開発している時点では文科省の学習指導要領も具体的に固まっていない状況でした。

テキストプログラミングにも対応できる概念やアルゴリズムをスムーズに習得できることをコンセプトに掲げていたので、QUREOのレッスンはTech Kids Schoolのカリキュラムを参考に制作しました。

QUREOのカリキュラム設計後に文科省の学習指導要領が公開されたので、内容を付け合わせてみたのですが、QUREOで学習できる内容は小学校にとどまらず、中学の数学や高校の「情報1」までリンクしていました。

2024年から大学入試共通テストでは、「情報」科目としてプログラミングが取り入れられる予定のため、小学生の早い段階からQUREOでプログラミングの概念を学習しても、決して無駄にはならず将来的には大学入試にも役立つと考えています。

またカリキュラムの構成は、関数、if文、等号、不等号など、チャプターごとに学習内容を変えています。
各チャプターには10~20レッスンがあり、各レッスン内容にも工夫があります。
例えば関数のチャプター内のレッスンでは、オブジェクトに特定の動きをさせるために、ガイドキャラクターが同じブロック作成手順の関数プログラミングを何回も子どもに案内することで、関数の概念を反復して覚えさせることを考慮しています。

QUREO チャプター別 学習概念(カリキュラム)の一覧

QUREOプログラミング教室とTech Kids School、各スクールの連携は?

――QUREOプログラミング教室とTech Kids Schoolのカリキュラムは連携しているのでしょうか?

齋藤氏:
Tech Kids Schoolとのカリキュラム連携はあります。
QUREOの全チャプターの履修がTech Kids Schoolの1年目の知識レベルに該当するので、Tech Kids Schoolの1年目をスキップして、2年目から編入することが可能です。

QUREOプログラミング教室からTech Kids Schoolへと編入されたお子さんもいます。
ただ、Tech Kids Schoolにはプログラミング以外にもデザインスキル、プレゼンスキルなどの表現力を上げるための講座があり、その内容についてはQUREOプログラミング教室とは連携していません。

オンライン授業で対応できる最大児童数は?

――Zoomを活用したオンライン授業スタイルだと、最大で何人の子どもを同時に教えられるのでしょうか?

齋藤氏:
各教室によって方針が異なりますが、オンライン授業の場合は3人ほどが適切、多くて5人までだと考えています。
この人数は、講師と子ども同士の双方向性、コミュニケーションを維持するための上限数です。

リアル授業の場合には、小5-6の高学年であれば、1人の講師につき最大12人の子どもの受講に対応している教室もあります。低学年であれば、1人の講師につき子どもは最大でも6人の受講に対応しているので、対面・集合をともなうリアル授業よりは、対応できる子どもの人数は少なくなっています。

今日紹介した授業スタイルを導入してもらった教室の講師の方々にとくに満足いただいているのは、生徒の学習進捗をリアルタイムで確認できる点です。

――本日はありがとうございました。

知識不足に悩む教育現場に役立つプログラミング教材

以上、QUREOプログラミング教室のオンライン授業の様子と、講座に関するインタビューをお伝えした。

インタビュー中、真下氏も指摘していたが、小学校では2020年度からプログラミングが必修化されても、現状まだまだプログラミング教育に不安を抱えている現場の教師・塾講師は多いのが実状だ。

オンライン授業を取材して実感したが、QUREOプログラミング教室では、講師は子どもたちの自習の様子を見守りながらコーチングに徹底できる点が特長だ。

プログラミングそのものの知識の教示を教材内で進めてくれるQUREOは、まだまだプログラミング教育に不慣れな段階にいる現場の人々にとっては、大きなメリットがあると思われる。

QUREOプログラミング教室が事業を開始して1年足らずで、国内最大数の1,700教室以上に採用されたのも納得であった。

株式会社キュレオが、教育現場が抱える課題改善に寄与するプログラミング教材を提供できたのも、民間のEdTech企業ならではの高い柔軟性と即応性、そして同じサイバーエージェントグループのTech Kids Schoolで長らく培ってきたプログラミング教育の経験があったからであろう。

今後も当メディアでは、プログラミング教育の環境改善に努めるEdTech企業の取り組みを報告していきたい。

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