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ウィズコロナを前提にしたICT教育環境構築の必要性~「schoolTakt」代表 後藤正樹氏インタビュー

5月25日、緊急事態宣言が全国で解除され、6月以降、多くの学校で授業が再開されている。

だが、分散登校や短縮授業として再開を始めている地域や学校が多く、全国の学校が緊急事態宣言発令前の通常授業の体制に戻れているわけではない。

そして今後も起こりうる新型コロナウイルス感染拡大の第2波、第3波に備えるためにも、教育現場には引き続き警戒と対応が必要とされ、オンラインでの遠隔授業体制を模索・検討する日々は続く。

今回の記事では、オンラインで使用できる協働学習ツール・授業支援システムとして全国500校以上での導入実績があり、総務省「先導的教育システム実証事業」や文部科学省「次世代学校支援モデル構築事業」にも採択され、現在もシェアを拡大している「schoolTakt」について紹介する。

schoolTaktは、インターネット環境とWebブラウザがあれば、特別な環境やアプリがなくても使用できる授業支援システム。

schoolTakt上で教材を作成・配布・管理できる機能を備えるので、生徒が遠隔地にいても一瞬で教材を配布、生徒の回答状況を集計して確認、といった授業進行・展開をオンラインでできる。

従来の対面・紙ベースの授業が展開できない多くの学校現場にとっては、オンラインでの教師・生徒のやり取りが可能な協働学習ツール・授業支援システムを活用する必要性や重要性も上がっているのではないだろうか。

schoolTaktを開発する株式会社コードタクト 代表取締役 CEOの後藤正樹氏にオンラインインタビューを行い、schoolTaktの特徴や授業支援システムの必要性についてヒアリングしたので、その模様をお伝えしたい。

株式会社コードタクト 代表取締役 CEO後藤正樹氏

授業支援システム「schoolTakt」の特徴とは

――まずschoolTaktの特徴や、主な使用シーンをお教えください。

後藤氏:
schoolTaktは、インターネット環境とWebブラウザさえあれば、iPad、タブレット、ノートPC、Chromebookなど特定の機種や環境に依存せずに使用できる授業支援システムです。
Microsoft PowerPointを操作する感覚で教材やワークシートを作成、インターネットを通じて生徒へ教材を配布、そしてその教材に対する生徒の回答状況を把握、などすべての操作をWebブラウザ上でできます。
また先生側のschoolTaktの操作画面も、生徒側のWebブラウザから確認できるので、双方の状況が可視化されます。

教材やワークシートのスムーズな展開に加えて、生徒の学習進捗や、生徒同士のコミュニケーションの様子など、さまざまな学習ログを記録して、それらを分析する機能も充実しています。
例えば、教材の課題に対して生徒が書いた感想の中から使われた単語をキーワード抽出し頻出度に応じて可視化する「ワードクラウド」機能や、生徒同士の回答閲覧や、いいね!、コメントを用いたやり取りを散布図として可視化する「発言マップ」機能などがあり、効率的な授業展開をサポートします。

生徒の感想でどんな単語が多かったのかを把握するには、以前は40人の生徒すべての感想を逐一確認する必要がありました。
「ワードクラウド」機能は、感想内の単語を一覧として瞬時に表示してくれるので、生徒たちの感想の傾向をすぐに把握してその後の議論の方向性をスムーズに決めることができます。
「発言マップ」機能では生徒の回答状況、コミュニケーションの様子から、生徒同士の関係性を可視化してくれます。

1回の授業だけだと、学習ログの分析による効果は大したことがないように映りますが、数か月分にもおよぶ授業の学習ログをこれらの機能で分析して可視化していくと、生徒の特徴や、クラス内の人間関係を精度高く把握できます。
クラス内の人間関係から、特定の生徒に疎外感が向けられている状況を読み取ることもでき、(いじめの可能性など)危険な状況の察知に役立ちます。

いろんな学校に導入していただき学習ログの分析機能は使用してもらっていますが、生徒同士の人間関係の可視化による効果・反響が大きいです。

schoolTaktにある機能は、機械学習のBert分析など、さまざまな手法を活用しながら、当社で内製したり、オープンソースの機械学習ツールなどを応用したりして、開発しています。

ちなみに、schoolTakt上でやり取りする教材やワークシートは、基本的には先生がschoolTakt上で作成したオリジナルが大半です。
もともと先生が持っていたPDFやPowerPointの資料を教材として利用したり、教科書の一部を撮影した写真をワークシートに貼って展開したりするケースも一部見受けられます。

schoolTaktを使いこなすために必要な学習コスト

――schoolTaktを使いこなすために覚えないといけないことはあるのでしょうか?つまり導入のためのトレーニングや学習コストはかかるのでしょうか?

後藤氏:
生徒側の操作は、先生からの教材を受信、それに回答して送信・共有するくらいなので、覚える必要のある機能は少ないです。
これまでschoolTaktを運営していて、生徒側が操作で困った、といったことはほとんど聞きません。

先生側には、教材やワークシートを作成するほか、タイマーやアンケートなどさまざまな機能が用意されているので、使いこなすまでにある程度の慣れは必要です。

また、schoolTaktは2週間から1ヶ月ごとに機能改善を頻繁に行っています。
したがって、当社では学校側へのフォロー・サポートとして、年に1回、schoolTakt導入校に直接レクチャーへ伺ったり、月に2回オンラインでの説明会を実施したりしています。
他には、新機能があれば説明用動画を制作・配信したり、オンラインでのFacebookコミュニティや体験会イベントを開いたりして、定期的に現場の先生方とやり取りしています。

――現場の先生がschoolTaktを使いこなすのに、とくにつまずきやすいポイントや問題などはありますか?

後藤氏:
強いて挙げれば、2点あります。

1つは、先生がITに不慣れな場合です。

当社が学校へ訪問する際、日頃ガラケーを使用されていてスマートフォンに触れた経験がないという先生方をお見かけすることがあります。
「このボタンを触れると開きたい画面が表示されそうだ」といった、スマートフォンでWebサイトを閲覧したりアプリを使っていると自然と養われる勘所の有無は、schoolTaktの操作に慣れるスピードにも影響します。

もう1つは、先生の教育に対する考え方です。
この点が、schoolTaktをうまく使いこなしていただけるかどうかに大きく影響します。

「授業の知識を先生から生徒へ一方的に教える」といった概念が強い先生だと、「schoolTaktをどう利用すればよいのかわからない」と、現場での活用につながらないことがあります。

一方で、授業で教える内容を「生徒が理解しているか?」「知識を応用させることができているか?」といった、学習者主体の視点を持とうとされている先生の場合、「ついに今まで実現したかった授業ができる!」と、schoolTaktを積極的に取り入れてくださることが多いです。

学習者主体の視点について補足します。言い換えると、「先生に生徒自身に目標設定や判断を委ねようとするマインドセットがあるかどうか」ともいえると思います。
文科省が提唱している「生きる力にも、通ずる話かもしれません。
生徒が自身で目標設定ができるか、周囲のいろんな人を巻き込んでプロジェクトを作れるか、といった主体的な動きをできるかどうかが、これからの時代に教育テーマとして求められています。

そのような行動は「主体&協働」などとも呼ばれ文科省も重視していますが、schoolTaktは生徒の主体的な行動を育みやすいツールであるといえます。

コロナショックによる影響

――昨今のコロナショックにより、schoolTaktの導入数は増加しましたか?

後藤氏:
schoolTaktの導入実績として「500校50,000ユーザー」と学校での導入端末数をベースに公表していますが、現状はもっと増えています。

ただ、コロナショックにより生徒の方々は自宅のパソコンやスマホでも導入して使用するようになったので、ユーザー数の管理・把握方法が以前とは変わってきています。
当社としましても公表する実績数の算出手法の変更を検討しているフェーズです。

――schoolTaktを利用する学校側には、何か意識の変化などはありましたか?

後藤氏:
一時期よりはコロナショックが落ち着き、学校も再開していますが、今後も感染拡大の第2波が発生する可能性はあるので、「保険として、オンライン遠隔授業の体制は常に用意しておきましょう」という議論や認識が以前より活発化しています。

しかし、6月以降から、都市部では分散登校といったスタイルが中心ですが、全国の学校で、従来の対面・集合、紙ベースのリアル授業体制に戻る学校が多いでしょう。
オンライン遠隔授業で活用できるschoolTaktのような授業支援システムを導入したのに、以前の体制に戻ってまた使用しなくなってしまう、といった学校も少なくないと思います。
緊急事態宣言下のオンライン遠隔授業の際にしかschoolTaktが使われなくなれば、ITに不慣れな現場の先生の方々にとっては、スムーズなオンライン遠隔授業への切り替えに苦戦してしまいます。

「先生の授業動画をYouTubeにアップする」という方法もありますが、機材の準備から動画アップロードに至るまで、現場の先生方に想像以上に高い負荷がかかってしまうのが現実です。

理想をいえば、リアル授業の際にも、オンライン遠隔授業の際にも、普段からschoolTaktなどの授業支援システムを利用しておいて、緊急事態宣言発令などによりオンライン遠隔授業だけしか実施できなくなってしまった際に、現場の先生が滑らかに切り替え・対応ができるようにしなければならないと考えています。

そういった視点を持って現在の社会状況に対応しようと考えている学校や教育委員会はまだまだ少数派であると思います。
文科省はGIGAスクール構想を早め、教育現場への端末導入を推進していますが、現場の学校・先生が文科省の動きとリンクしなければ「現場に端末だけ導入されて、リアル授業のときは一向に使われない」といった事態になりかねません。

Zoomと併用した遠隔授業支援、動画配信型授業の課題

――御社ではschoolTaktとZoomを組み合わせた遠隔授業支援を展開されていました。Zoomなどのテレワークツールと併用して気付いた、schoolTaktだからこそできるメリットや課題などはありますか?

後藤氏:
当社ではコロナショックが起きる以前から、リモートワーク勤務体制を導入しており、30人ほどの当社社員全員がリモートワークでずっと働いていました。
社内会議の際にも、schoolTaktとZoomを併用したオンラインミーティングを開いており、元々リモートワークに関するナレッジがあったので、当社のノウハウを提供するつもりで、schoolTaktとZoomを組み合わせた遠隔授業支援を展開しました。

当社としても常々認識していたZoomやGoogle Meet、Teamsなどテレワークツールの授業使用の欠点は「生徒一人ひとりの考えを双方向に確認することができない」ということです。

YouTubeなどのオンライン授業でも同じ欠点を指摘できますが、動画を使った授業はどうしても従来と同じ一斉授業的な進行になってしまいます。
「先生→生徒」といった一方向の授業スタイルになりがちで、当社としてはあまり理想としている授業観ではありません。

動画による授業のこの欠点を、schoolTaktを使うことで、生徒一人ひとりの回答を双方向に確認し合い、協働で学べる効果を補うことができます。
学習者主体の双方向の学びが実現できる点が、Zoomなどのテレワークツールにはない、schoolTaktならではのメリットと考えています。

こう説明しますと「GoogleドキュメントやGoogleスライドを使用すれば教材の共有はできるのでは?」といった質問をよく受けることがあります。
しかし、GoogleドキュメントやGoogleスライドでは、1つの文書やスライドを全員で書き込む、という使われ方になってしまうので、どうしても生徒一人ひとりの意見を取り入れることは難しく、クラス内に強いリーダー的な人がいてその人が文書やスライドの内容をまとめる、といった流れになりやすいです。
生徒一人ひとり皆がお互いフラットな関係でやり取りができる、といった意味合いでは、当社のschoolTaktのようなUIの方が優れていると考えています。

そして、これまで展開したZoomと併用した遠隔授業支援の経験も活かして、6月下旬からは、schoolTaktのみで音声チャットができる機能をリリースします。

NTTコミュニケーションズ様が提供するビデオ・音声通話サービス「SkyWay」を用いて、音声通話が可能になりました。
一部の学校において、β版の実証を6月1日より開始しています。

GIGAスクール構想と連携したサポートプラン

後藤氏:
それから、GIGAスクール構想では、文科省から生徒1人あたり4.5万円までは無償で情報端末の購入補助金がでる「公立学校情報機器整備費補助金」(購入後返金)があります。
この制度に対応して、NTTコミュニケーションズ様と協業で「GIGAスクールパック」というパッケージを用意しています。
NTTコミュニケーションズ様が「まなびポケット」というサービスプランを展開しており、そのプランを購入していただいた自治体の教育委員会向けに、一部機能制限版ですがschoolTaktを3年間無償提供しています。

急激な変化が予想される授業支援システム業界

――schoolTaktを含めた、協働学習ツールや授業支援システム全体について、業界の概況もお伺いできますか?業界はやはり成長しているのでしょうか?

後藤氏:
当社schoolTaktのような授業支援システム業界全体に関して、正確で正式なデータが集計されたりレポートが公開されたりしているわけではなく、まだまだ市場自体が流動的に変化する段階であるため、業界概況を把握することは正直難しいです。
参考として、文科省が公開した資料には、教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数は「5.4」とあり、児童・生徒の情報端末は「5.4人に1台」普及しています。

また「GIGAスクール構想」では、2020年度からの4年間で、児童・生徒1人に1台の情報端末を導入していく計画でしたが、昨今のコロナショックにより、これを今年3月からの1年間で一気に導入させよう、と計画が変わりました。
元から進められていたGIGAスクール構想と昨今のコロナショックによって、学校教育において、情報端末が十分に普及していない現状から、児童・生徒1人に1台に普及する、といった状況へと一気に変わるので、授業支援システム含めて教育機関におけるICT環境は今後、激変するでしょう。

現在のような環境の変化を受けて、3月26日には内閣府が開催した「新型コロナウイルス感染症の実体経済への影響に関する集中ヒアリング」に当社がEdTech企業枠として招致され、私も安倍首相に対して今後の公教育におけるICTの必要性について提言しました。

――本日はありがとうございました。

変化が避けられないICT教育環境、継続的な授業支援システム導入検討の重要性

以上、schoolTaktの特徴や授業支援システム導入の必要性に関して、コードタクト後藤氏のインタビューをお届けした。

現在、緊急事態宣言が解除され、学習進捗の遅れを取り戻すためにも、全国の多くの学校が対面・集合をともなう従来の授業スタイルに戻そうとしながら、対応に奔走している。

しかし、インタビュー中、後藤氏も指摘していたが、「保険として、オンライン遠隔授業の体制は常に用意しておく」といった意識を持っておくことは重要だろう。

GIGAスクール構想と昨今のコロナショックによるICT教育環境の変化・拡大は今後も避けられず、学校現場の混乱を最小限に抑えるためにも、リアル授業とオンライン遠隔授業の併用ができる体制構築への準備は緩めてはならない。

当メディアでも多くの教育現場にとって有用な教育支援ツールを今後も紹介したい。

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