ニューノーマルな社会が学びの形を変えていく――独学でのプログラミングスキル習得最新動向

ニューノーマルな社会が学びの形を変えていく――独学でのプログラミングスキル習得最新動向

新型コロナウィルスの影響で加速化した日本社会のオンライン化

2020年は新型コロナウィルスが、世界情勢を一気に変えた。その流れについてはここ日本も同様で、読者の皆さんもご存知のとおりだ。

目に見える変化の1つとして、日常生活の「オンライン化」が挙げられるだろう。たとえば、2020年4月に発令された緊急事態宣言下では、買い物や飲食などは、ECやインターネットを通じたデリバリー、お取り寄せなどの利用が増えた。MMD研究所が行った「2020年5月新型コロナウイルスにおけるEC利用動向調査」によれば、2020年3月以前と2020年5月のEC利用率を比較したところ、EC利用率は30.6%増加、ネットスーパーの利用に限定すると37.6%増加、一方、実店舗利用回数は43.1%減という結果となった。

また、官公庁主導での公共機関における資料のデジタル化、オンライン化については、今まさに進んでいる最中だ。2020年9月に誕生した菅新政権では、日本のDX化の核と言われるデジタル庁に注目が集まる。

立ち止まれない教育において、オンライン化はどのように進んでいるのか?

この状況は教育分野でも一気に加速して変化をしている。その1つがオンライン授業だろう。今回の記事では詳しくは取り上げないが、たとえば、先日紹介した京都産業大附属高等学校の中期的学校のICT化は、その好例の1つと言える。

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2020年度から新しくなった学習指導量要領の鍵は「プログラミング教育」

奇しくも2020年は学習指導要領改訂のタイミングとも重なり、中学・高校よりさらに低学年となる、小学校でのプログラミング教育への注目も集まり、さまざまな取り組みが動き出している。

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このような取り組みと合わせて、場に集って学習する形とともに、プログラミング学習の環境が整備され、独習による基礎学習への意識が高まってきた。今回紹介する『スクラッチプログラミング事例大全集』は、まさにこの時代に合わせて刊行された書籍である。

今回、この書籍の執筆者である松下孝太郎教授(東京情報大学)、山本光教授(横浜国立大学)両名にお話を伺った。

まねて、つくって、身につけるプログラミング的思考

今回の書籍を企画した狙い

松下:
私たちはこれまで多数の本を執筆してきました。Scratch(スクラッチ)関連の本としては、プログラムの作成手順をステップバイステップで解説した『今すぐ使えるかんたん Scratch』、小学校におけるプログラミング必須化にも対応し、プログラム作成にとどまらず、教育的内容や教材開発をも解説した『親子でかんたん スクラッチプログラミングの図鑑【Scratch 3.0対応版】』が刊行されています。

今回は、近年スクラッチプログラミング経験者も増えてきたことも鑑み、プログラミングレシピ的な本書『スクラッチプログラミング事例大全集』を企画し、出版する運びとなりました。

山本:
プログラミングを学ぶステップは、「まねる」「かえる」「つくる」「みせる」があります。まねるとは、プログラミングではいわゆる写経と呼ばれている段階です。良質な例題をまねることで、武道で言うところの「型(かた)」のようなものを身に着けます。次に、例題を自分なりにかえることで、仕組みを理解します。

さらに自分発想の作品をつくること、そして友だちに自分の作品を見せる(魅せる)ことで、感想を聞いたりアイディアをもらったり共有することができます。

本書は、「まねる」を意識した良質な例題が100個も用意された書籍になっています。

低学年からのプログラミング教育に求めれること

松下:
プログラミング技術を中心に考えると、アルゴリズムの理解や基本的なプログラミングスキルになります。しかし、初学者、とくに子どもの場合は、興味の喚起が重要です。興味が有る無しで勉強へ取り組む学習意欲も変わります。学習意欲があるほうが理解度も理解速度も上がります。

小学校の低学年であれば、まだ物事に対する先入観をあまり持つことなく取り組むことが可能です。この時点からプログラミング教育を行うことにより、プログラミングへの興味を喚起し、子どもたちの将来の可能性を広げることができます。

山本:
小学校のプログラミング教育では「プログラミング的思考」を育むことが狙いです。プログラミング的思考とは文部科学省で定義された概念ですが、簡単に言うと、問題解決の場面において、論理的に手順を考え、条件や構造をうまく利用して、解決の手立てを考えることです。小学校の低学年でも朝起きてから学校へ行くまでの手順を考えてみたり、給食の準備を手順に表してお昼休みの時間を増やしたりといった活動がプログラミング的思考のはじまりとして学校では実践されています。

『スクラッチプログラミング事例大全集』活用術

松下:
本書は、初歩的なものから実践的なものまで100例に及ぶサンプルプログラムを掲載しています。また、ゲーム、教材、外部デバイスの利用など、多くの分野を網羅しております。そのままお使い頂いても、掲載されているサンプルプログラムを参考にオリジナルの作品をお作り頂いても良いと思います。

プログラムや素材はサポートサイトからダウンロードできるようになっており、動作の確認やプログラムのアレンジも容易にできます。

小さいお子さんの場合は、保護者の方と一緒にプログラムを作成をしていただくと良いと思います。また、総ルビ(ふりがな付)ですので、ある程度の年齢以上のお子さんは一人で学習することも可能です。教材を扱った章などは、長期休暇の自由研究の参考にもなるでしょう。

山本:
プログラミング的思考は、一朝一夕に身につくものではなく、自宅での生活や学校での学びの中で少しずつ身につくものです。また実際にプログラミングを行う段階では、先ほどのように「まねる」活動をあらかじめ行っておくことが重要です。とくにさまざまなプログラミングの型に触れていることがとても大切です。

本書をお読みになれば、子どもたちは「こんなこともできるのか」「こうしたかったことはこれだったのか」という気付きが得られると思います。多様な良質の例題を100個も経験したお子さんには自然とプログラミング的思考も育まれているでしょう。

学習指導要領の改訂、そして、ニューノーマルな時代に向けてのプログラミング的思考の意味

松下:
これまでの我が国における受験では、その学年までに習った方法により、唯一の設定された答えに辿り着く能力や、単なる暗記方法とも思われる能力が求められてきました。しかし、IT社会においてこれらの能力を使う仕事は、コンピュータや機械が代わりに行ってくれる可能性が高くなりました。今後は、IT社会にも対応でき、より付加価値の高い仕事を行うことが重要となります。

したがって、今後の社会で活躍するためには、目標を設定し、それに到達するための論理的思考力や問題解決能力が必要となります。これらの能力を養う1つの方法としてプログラミング的思考が役に立つと考えられます。

山本:
プログラミング的思考は、これからの高度情報社会を生きる人にとって欠かせない考え方です。国際化での人と人のコミュニケーションも大切ですが、人とモノ、人とシステムとのコミュニケーションにおいては、社会を動かすものすべてにプログラミングが利用されていることに気づき、誰かが手順や仕組みを考えて作られていることを意識したやりとりが必要となります。

小学校の低学年からプログラミング的思考を育むことは、人だけではなく複雑な社会システムともコミュニケーションができるために必要なことなのです。

――ありがとうございました。

プログラミング的思考を身につけた子どもたちが拓く未来

今回は、新刊書籍を軸に、小学生のプログラミング教育について取り上げた。2020年の今、小学校でのプログラミング教育が必修となり、また、ニューノーマルな時代において、デジタル・オンラインネイティブとなりやすい環境が整った。

これから、今の小学生たち、たとえば、小学校4年生を例にすると、3年後には中学校、6年後には高等学校へ進学する。10年後には多くの子どもたちが大学へ進学することが想定される。つまり、これからは、今の大人たちとはまったく違う基礎知識、間隔、体験を踏まえた子どもたちが社会に入る土壌が整うのである。

育に目を向け、一人ひとりにプログラミング的思考を身につけてもらうことは、10年後の日本、そして、世界が、今まで以上に豊かで優れたデジタル社会になると考えられる。

関連書籍

スクラッチプログラミング事例大全集
松下孝太郎、山本光 著(技術評論社)
本書は、プログラミング入門として人気のスクラッチのサンプルプログラムがたくさんつまった事例大全集です。かんたんなサンプルから、教科別サンプル、ゲームなど、さまざまな事例がテーマ別に100例収録されています。本書が一冊あれば、あらゆる場面で活躍します。自習したい個人や教材として利用したい先生に最適です。総ルビなので、お子さんにもご使用いただけます。2020年から必修化された小学校のプログラミング教育にも、しっかりこたえることができる内容です。 ご購入はこちら(amazonへ)

親子でかんたん スクラッチプログラミングの図鑑【Scratch 3.0対応版】
松下孝太郎、山本光 著(技術評論社)
小学生からのプログラミング教育が本格化しているなか、はじめての言語として人気なのがスクラッチ。子供にプログラミングを学ばせたい親や、教材として使用したい先生に注目されています。本書は「まなびのずかん」シリーズとして、スクラッチによるゼロからのプログラミングをビジュアルふんだんの図鑑形式で解説。小学生でも始められる基礎的なところから、大人もうなる本格的なプログラミングまで扱っています。また、算数、国語、社会、理科、図工、音楽といった教科をテーマにした章も設けており、先生や親がプログラミング教育を見据えた教材として使用することもできます。総ルビとなっており、本書1冊で永くご使用いただけます。 ご購入はこちら(amazonへ)

今すぐ使えるかんたん Scratch
松下孝太郎、山本光 著(技術評論社)
本書は「今すぐ使えるかんたん」シリーズとして、スクラッチによるプログラミングを一手順ごとに丁寧に解説しています。また、ゲーム的な要素を多めに取り入れ、子供が取り組みやすい内容にしてあります。 本書は総ルビ(全かな入り)となっておりますので、小学生が一人でも読み進められるように編集されています。さらに、家庭や学校での学習だけでなく、ビジネスマンが時間の合間に楽しく読める教養書としてもご利用頂けます。 ご購入はこちら(amazonへ)

インタビュイー略歴
松下 孝太郎
(まつした こうたろう)
神奈川県横浜市生。
横浜国立大学大学院工学研究科人工環境システム学専攻博士後期課程修了 博士(工学)
現在、(学)東京農業大学 東京情報大学 総合情報学部 教授
画像処理、コンピュータグラフィックス、教育工学等の研究に従事。教育面では、子どもやシニアを対象とした情報教育にも注力しており、サイエンスライターとしても執筆活動および講演活動を行っている。
山本 光
(やまもと こう)
神奈川県横須賀市生。
横浜国立大学大学院環境情報学府情報メディア環境学専攻博士後期課程満期退学
現在、横浜国立大学教育学部 教授
数学教育学、離散数学、教育工学等の研究に従事。教育面では、教員養成や著作権教育にも注力しており、サイエンスライターとしても執筆活動および講演活動を行っている。
松下孝太郎教授&山本光教授の社会活動のサイト
http://kkproject.info/
スクラッチプログラミング
http://kkproject.info/scratch_index.html
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