AO・推薦で合格する親子に共通する、あるコト。

AO・推薦で合格する親子に共通する、あるコト。

はじめまして。
日本アクティブラーニング協会の青木唯有(あおき ゆう)です。

実は、私は、約20年にわたり30,000名の受験生のAO・推薦指導に携わってきました。
これまでの、たくさんの受験生と保護者の方との出会いから、子供たちのポテンシャルを引き出す大きな要因が、実は「親子軸(おやこじく)」にあることを、確信しています。
この連載では、私がそう考えるようになった理由や、そもそも「親子軸(おやこじく)」とは何かについて、綴っていきたいと思います。

※本連載は、筆者がnoteで発信している情報をEducationTomorrow向けに加筆・修正して掲載しているものです。

【AO・推薦に対する厄介な認識】

まず、AO・推薦入試についてよくあるのが、、、

「AO・推薦入試は、学力不問なんですよね?」
「プレゼンテーションが上手で自己表現に長けた人に有利な入試ですよね?」
「大会やコンテストなどの華々しい活動実績がある人のための特別な入試でしょう?」

などなどのご意見。
AO・推薦入試について、とてもよくある認識だと思うのですが、これらは、はっきり言って全くの的外れです。

ただ、表面的には合っているとも言えるので、実は非常に厄介な認識でもあります。

確かに、AO・推薦入試は、ペーパーテストで測ることのできる知識量が問われる選抜ではありません。
面接やディスカッションなど、自分自身についてアピールしたりプレゼンしたりすることが求められる形式です。
受験生の経験や活動の履歴をポートフォリオとしてまとめ、提出できる大学が増えていますが、その際に賞状や修了証などの証明書を添付した方が、説得力が増すことは否定できません。

このようにAO・推薦入試の選抜形式としての性質だけを見れば、前述のような認識を生んでしまうのも、無理のないことかもしれません。

でも、敢えてもう一度強調します。だからといって、AO・推薦入試が「自己表現に長けた人」や「活動実績のある人」にとって有利な「学力不問」の選抜だという認識は、全くもって見当違いです。

では、AO・推薦入試の本質は、一体どこにあるのでしょうか?
その答えが、今回の記事のテーマ、「合格者の親に共通すること」につながります。

【急激に拡大するAO・推薦について思うこと】

日本でAO入試を初めて導入したのは、慶應義塾大学総合政策学部・環境情報学部です。通称、慶應SFCと呼ばれる両学部は、1990年の創設から、文理を超えた多様な研究分野を、学生自身が選択できる先駆的な学内環境を実現させています。もちろん、AO入試の導入も創設と同時です。

1990年といえば、日本はバブルの末期。まだまだ国内全体が浮かれていた時代です。大学受験においては、「偏差値の高い大学に入り、大きな企業に就職することができれば、終身雇用で一生安泰」という概念が当たり前。
オールマークシートによるセンター試験が始まったのも、この年です。

そうした時代に、偏差値も使わず、ペーパーテストも実施せず、書類審査と面接のみによるAO入試を導入した慶應SFCは、現在では「AO入試のパイオニア」と呼ばれています。

今でこそ、先の読めない社会情勢の中で、「大企業なら安心・安泰」という概念は薄れ、「偏差値が高ければ優秀な人材」という認識もかなり異なってきています。そのような社会の変化を受けて、慶應SFCが初めて導入したAO入試は、偏差値だけではわからない、人物を多面的・総合的に評価できる有効な採用制度として、その後、他の大学も続々と追随し、今では大学入学者の50%以上がAO・推薦入試で占められるようになりました。東京大学をはじめ国公立大学も、AO・推薦枠を拡大しようとしています。

それにしても、これだけの急激な広がりには、一体どのような背景があるのでしょうか?

慶應SFCによる先見性の高い試みは、優れた研究者や専門家たちの知見があってのことでしょう。そもそも、選抜制度や教育環境の改革は、国策レベルで議論され続けている案件でもあります。
グローバル化やテクノロジーの発達による社会の変化から、必要とされる人物像の変化もあるでしょう。

ただ、私は、これまでの自身の経験から、もう一つの目には見えないダイナミズムが、AO・推薦入試の推進に関わっているのではないかと感じています。

ここからの見解は、あくまでも私の経験による個人的なものですが、
記事の冒頭にお伝えしたAO・推薦入試に対する表面的な認識は、実は、そのほとんどが受験生本人のものではありません。

本人の周囲に存在する、大人による意見なのです。
特に、中高生にとって一番身近な大人は、まず保護者です。
親の認識は、自ずと子供に伝わります。
AO・推薦入試についての正しい情報が、世の中にはまだまだ少ないからこそ、親による認識が驚くほど子供に浸透しその可能性を左右するのです。

「AO・推薦入試は、学力不問なんですよね?」
と捉える親の子供は、学ぶ姿勢や自分で考える努力そのものを放棄するようになります。

「プレゼンテーションが上手で自己表現に長けた人に有利な入試ですよね?」
と捉える親の子供は、その場をうまく繕えば他者の目をごまかせると考え、対人関係が安易になります。

「大会やコンテストなどの華々しい活動実績がある人のための特別な入試でしょう?」
と捉える親の子供は、書類の履歴に書くためだけのボランティアや活動づくりという空虚な時間を過ごすことになります。

当然のことながら、このような受験生の合格可能性は非常に低いのです。

私は、自身の経験から、保護者の方々の深層心理にある、AO・推薦入試への先入観を解きほぐすことが、この入試に臨む際に、一番はじめに必要なことだと確信しています。

逆に言えば、正しく実のある認識が保護者の方に伴っていけば、圧倒的に子供の可能性が広がり合格率も高まります。

では、親が持つべき、AO・推薦入試の真の姿とは、一体どのようなものなのでしょう?

 

【親が当事者になるAO・推薦の真の価値】

その答えは、「AO・推薦入試の一番の当事者は親である」というスタンスに立つことです。

「えっ?さすがにそれは違うでしょう?受験をするのは子供であって、親ではないでしょう?」
という声が聞こえてきそうですが、ここは誤解を恐れずに、言い切らせていただきます。

AO・推薦入試こそ、親が当事者になるべき入試です。

それは、なぜか?

ある有名私立大学の自己推薦入試を受験する高校生の指導を担当した際、お母様から、こんな言葉を頂いたことがあります。

「青木さん、我が子にAO・推薦入試を受けさせたいと思ったのは、私自身が母親としての子育ての集大成にチャレンジしたかったからなんですよ。AO・推薦入試なら、幼少から今までの子育ての中で娘に託した母親としての想いを、本人に共有することができると思ったんです。成人して社会に出てしまったら、そんな機会は二度と来ないでしょうから。」

私は、このメッセージにものすごくハッとさせられました。
それまで、漠然と抱いていたAO・推薦入試に対する概念が、一気に明確になったことを、今でも強烈に覚えています。

どんな時代でも、子供の将来の幸せと自立を一番に願っている存在は、やはり親であるはずです。

右肩上がりに経済が成長し、敷かれたレールの行き先が明確な時代であれば、物差しも単純でわかりやすく、大量に処理できるもので良かったのかもしれません。それが、受験で言えば「偏差値」であり「ペーパーテスト」だったのでしょう。

ですが、今は「一寸先は闇」という表現がしっくりくるほど、先が見通せない時代。そんな時代だからこそ、自分がいなくなった時に、子供に何を残せるのか、あるいは何を残すべきなのか、保護者の方は様々に想いを馳せていらっしゃることと思います。

実は、AO・推薦入試のプロセスは、親が子供に託すべき無形の資産が何であるかを明確にし、継承するための絶好の機会なのです。

であるが故に、親が当事者になるべき入試だと言えるのです。(これは、けっして子供の入試に親が手取り足取り、という意味ではありません。詳しくは、これから継続的に本連載で発信していきます。)

そして、このようなAO・推薦入試の本質について、何となく感づかれている保護者の方が、今、徐々にではありますが、確実に増えているように感じます。
これは、完全に私の肌感覚ですが、そうした親の子供に対する未来の期待や願いが、今のAO・推薦入試の潮流を影で生み出している真因なのではないかと思うのです。

一方で、これだけSNSやインターネットが発展する現代社会において驚くべきことですが、現段階では、AO・推薦入試に対する正しい知見について、全くと言っていいほど発信されていません。むしろ誤った情報や偏った情報にまみれていて、AO・推薦入試情報をネット検索や巷の書籍などで得ようとすればするほど、おかしな方向に誘導されてしまうリスクすら感じます。

本来、AO・推薦入試は、「親子」という「軸」を外して語ることはできませんし、その準備や指導は、まさに「親子軸」を定める行為そのものです。

この入試にまともに向き合っている人間ならば、「親と子」の関係について今一度見つめ直すことは必然なのです。

一方で、各大学がAO・推薦入試枠を拡大し、メディアで取り上げられることが増えてきたのにも関わらず、「親子軸」という視点に立った考え方が全く出回っていないことに、AO・推薦入試に対する今以上の誤解や偏見が、さらに蔓延してしまうではないかという危機感を覚えています。

実は、そうした状況が、インターネットでの発信を始めた大きなきっかけでもあります。

これまでの私自身の経験から見えてきたことを、本連載の中で定期的にお伝えすることで、AO・推薦入試に関心のあるご家庭のお役に少しでも立てれば、とても嬉しく思います。

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