総合型選抜・学校推薦型選抜のための塾・予備校は必要か?

総合型選抜・学校推薦型選抜のための塾・予備校は必要か?

こんにちは。青木唯有(あおき ゆう)です。日本アクティブラーニング協会理事および人財教育プロデューサーを務めています。

これまで、総合型選抜・学校推薦型選抜(旧AO・推薦入試)の指導に多く携わってきた経験から、教育界の変化や課題、実社会の影響、親子のあり方など、筆者のブログにて定期的に発信しています。

保護者の方から非常に多く寄せられる相談や質問が、「総合型選抜・学校推薦型選抜のための塾・予備校は本当に必要か?」というものです。特に最近、こうした選抜の対策を謳う塾や予備校が、にわかに増えています。

  • 「一般選抜の対策と合わせて、総合型選抜・学校推薦型選抜の指導が可能!」
  • 「●●大学●●学部の総合型選抜・学校推薦型選抜の合格者数●名!」

など、多くの塾・予備校で、総合型選抜・学校推薦型選抜のためのコースや専門的な指導を設置するようになっています。

かく言う筆者自身も、前職では、ある民間の塾で長年にわたり総合型選抜・学校推薦型選抜の指導に携わってきました。その塾は、業界の中でも草分け的な存在で、当時から異端の塾と言われていました。偏差値という指標をほぼ使わずに、中高生の「やりたいこと」を中心に据えた進路指導を、いわゆる総合型選抜の前身であるAO入試が日本の大学に導入されるより前の1980年代から、独自に展開していたからです。そこでの経験が、今の人財育成事業や非認知スキルの研究活動にとても活かされているのですが、今回の記事では、筆者自身の経験も踏まえて、総合型選抜・学校推薦型選抜を受ける受験生にとっての塾・予備校の意義についてお伝えできればと思います。

さて、総合型選抜・学校推薦型選抜において、塾・予備校は本当に必要なのでしょうか?

その答えは、ご家庭の「受験観」次第です。「受験観」とは、受験の価値をどこに置くかということ。これは、ご家庭によって異なります。特に、保護者の方の価値観が大きく影響します。もちろん、価値観は多様なものであり、そこに良い悪いやこうあるべきということは原則としてありません。それは大学受験においても同様です。ですので、この記事でお伝えすることは、絶対的なものではなく、筆者が自身の経験の中で感じた1つの見方や考え方であるという前提でお読みいただければと思います。

結論からお伝えします。「受験の価値は、合格できるかどうか」の一択。こうした価値観であれば、総合型選抜・学校推薦型選抜のための塾・予備校には絶対に通わせないほうが良いです。

この入試に関心を持たれるきっかけは、多くの場合、一般入試に加えて総合型選抜・学校推薦型選抜を受ければ受験できる機会が増えそれだけ合格の可能性が高くなるという動機からです。
もちろん、志望大学に合格したいという強い思いから受験機会を増やすことは悪いことではありませんし、選抜であるからにはそこに合格・不合格が伴うのは必然であり、結果が重要だという認識はもっともです。

ですが、総合型選抜・学校推薦型選抜を「合格を勝ち取るための手段」という認識だけで対策を進めてしまう状況があるとしたら、それはとても危険だと思います。

大学受験の主流である一般選抜では、マークシートやペーパーテストで一律に得点化し、「知識が多ければ多いほど良い」という明確な「基準」に基づき、スコア順に上から並べて「ここから上は合格、ここから下は不合格」というように合否のラインが決まります。塾・予備校産業は、そうしたルールと基準を前提として、効率的な知識の獲得メソッドを確立し、長年にわたってそれらをサービスとして提供してきました。

ただし、同じ大学受験であっても、総合型選抜・学校推薦型選抜は、一般選抜のような知識量を競う選抜ではありません。知識の多さを評価するのではなく、「人物を多面的・総合的に評価する」入試なのです。その合否を分けるラインは、一体どこにあるのでしょうか?

実は、総合型選抜・学校型選抜では、「合否ライン」という考え方自体が矛盾です。慶應義塾大学SFCは、総合型選抜(AO入試)について以下のように述べています。

AO入試は一定の条件を満たしていれば自らの意思で自由に出願できる推薦者不要の公募制入試です。入試内容の特色は筆記試験や技能試験などの試験結果による一面的,画一的な能力評価ではなく,中学校卒業後から出願に至るまでの全期間にわたって獲得した学業ならびに学業以外の諸成果を筆記試験によらず書類選考と面接によって多面的,総合的に評価し入学者を選考するものです。 募集定員の限りもあり,選考という形式をとらざるを得ませんが,アドミッションズ・オフィスは入学志望者と大学が互いに望ましい「マッチング」を創り出すための出会いとコミュニケーションの場です。(募集要項より抜粋

最後の一文に、”志望者と大学が互いに望ましい「マッチング」を作り出すための出会いとコミュニケーションの場” とありますが、これは、慶應SFCのAO入試に止まらない、総合型選抜・学校推薦型選抜全般に通じる性質が象徴的に表されていると思います。
「大学が目指すもの」と「受験生本人が目指すもの」とが、相互に調和しシンクロするかどうかが、結果としての合格なのです。

志望理由書や活動報告書などにより人物データを把握し、面接による凝縮した対人コミュニケーションによる「お見合い」のようなプロセスで双方の親和性の度合いをはかる入試が総合型選抜・学校推薦型選抜です。つまり、これらの入試制度は、大学と受験生とが Win – Win の関係となる選抜なのです。これは、合否ラインをバチッと設定し、勝者(Winner)と敗者(loser)の線引きを明確にする一般選抜のような従来の受験観とは大きく異なります。

誤解を恐れずに言えば、総合型選抜・学校推薦型選抜でたとえ不合格だったとしても、「自分に合わない環境を前もって避けられた」ということになりますから、その不合格は決して残念なことではなく、本人とってプラスの結果だと言えます。総合型選抜・学校推薦型選抜では、合格してもWin、一方、不合格だとしてもWin なのです。

現実として、日本の大学入学者の10人に1人が中途退学しているというデータがあります。

その理由の多くが、「この大学(学部)が合わなかったから」、「入学したら、イメージしていた大学(学部)と違ったから」というもの。いわゆるミスマッチ問題ですが、この状況は、想像以上に不幸です。

以前、就職活動中のある学生から、こんな話を聞いたことがあります。

「私は、大学受験の際、志望していた国立大学に落ちてしまい、現在第三志望だった大学に通っています。これまで誰にも言えなかったのですが、大学入学以来、4年間ずっと『自分は敗者だ』という思いを抱えたまま、学生生活を送ってきました……」

この言葉を聞いたとき、教育業界に身を置く存在として胸が詰まされました。もちろん、人生は常に不条理なものですし理不尽な経験が成長を促すこともたくさんあると思います。ただ、筆者がこの学生の言葉から感じたのは、受験システムと受験業界自体が生み出してしまう、数字には決して現れることのない闇です。

前回の記事で取り上げたように、10人に1人の大学中途退学者は、数字として健在化しています。もちろん、個々にさまざまな事情があると思いますので一概に言うことはできませんが、たとえ中退という形であったとしても、「自分には合わない」と感じた環境から離れる選択ができれば、自分が望む世界に出会える可能性に繋がります。ですが、退学という具体的な行動を起こせずに、ミスマッチという矛盾を抱え、今の自分を肯定できないまま大学に残り続ける学生がどのくらい存在するのでしょうか?当落ラインが設定される受験システムからは、2割の合格と8割の不合格が毎年生み出されることになります。そうした受験システムによって、自分のやりたいことも不明確のまま、ただただ「現状は不本意である」という感覚を持つ入学者が、大学の8割を占めているのだとすれば……?

「総合型選抜・学校推薦型選抜のための塾・予備校は必要か?」という本題に戻りましょう。これらの選抜を合格のための手段としてだけの意味で捉え、効率的な対策を求めて塾・予備校に通わせるのは危険であると前述しました。とにかく受かりたい、勝ちたいという合格史上主義のみで臨むと、「総合型選抜・学校推薦型選抜はマッチング」という本質を見失い、ショートカットでの合格を手にする方法論のみを欲するようになるでしょう。塾・予備校に通うのは、合格のためのテクニックやノウハウを教えてもらうためということだけでは、先の事例のような負の連鎖に自分から飛び込んでしまうことになりかねません。

総合型選抜・学校推薦型選抜の本来の価値を、忘れてはいけません。総合型選抜を早くから導入している東北大学は、その意義について「“やる気”のある学生の採用」と述べています。この目的を果たすために、試験の目的や大学が目指している方向などについて、受験生をバックアップし大学に送り出す側である高校の先生方と、丁寧な対話を繰り返しているそうです。

手間はかかるかもしれませんが、このように「試験に送り出す側(高校や塾・予備校)」と「採用を行う側(大学・学部)」の丹念なすり合わせ、つまりマッチングを重視している大学は必ず伸びると思います。実際に、東北大学は、2020年のタイムズ・ハイヤー・エデュケーション世界大学ラインキングにおいて、国内総合1位となっています。

筆者は、同大学が総合型選抜に力を入れていることが、こうした国際評価の向上に繋がっているのではないかと思っています。総合型選抜・学校推薦型選抜の本当の目的は、受験生と大学とのマッチングプロセスであり、出会いの場そのものが選抜の価値です。それは、自分を知る方法を獲得し、大学や社会を健全に見つめる目を肥やし、その中での自身の役割を認識し、自らで行動する力を育むための選抜であるとうことです。

この考えに至ったときに、総合型選抜・学校推薦型選抜のための塾・予備校の必要性や選択基準も自ずと定まるのではないでしょうか。

たとえば、、、

  • その塾・予備校は、その強みを合格実績のみに依存していないか?
  • その塾・予備校のカリキュラムは、受験生の個性や意欲、願いを引き出すものか?
  • その塾・予備校は、大学・学部の価値を偏差値だけで捉えていないか?
  • その塾・予備校は、親と子を繋ぐような、世代の違いを超えて共有できる人財育成観を持ち、実践しようとしているか?

総合型選抜・学校推薦型選抜のための塾・予備校を検討する際の参考にしていただければ幸いです。

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