こんにちは。青木唯有(あおき ゆう)です。日本アクティブラーニング協会理事および人財教育プロデューサーを務めています。
これまで、総合型選抜・学校推薦型選抜(旧AO・推薦入試)の指導に多く携わってきた経験から、教育界の変化や課題、実社会の影響、親子のあり方など、筆写のブログにて定期的に発信しています。
コロナの影響により、誰も予想していなかった現状が目の当たりになっている現代社会において、これまでのインフラそのものの大きな変化が余儀なくされています。
中でも、「教師と生徒」あるいは「生徒同士」といった、ヒト対ヒトの「対面でのやり取り」が絶対的な前提として構築されてきた教育のあり方は、今回のコロナ禍によって、抜本的にその本質が問い直されています。そもそも、コロナの問題が発生する前から、急激なグローバル化やテクノロジーの発展による社会構造の変化において、日本の教育を抜本的に改革する動きがあったことは周知のことと思います。ただ、英語4技能民間テスト導入や共通テストの改革など、大学の入試制度ばかりが注目されがちです。 ところが、実際は、「高大接続システム改革」といって、高等学校教育改革、大学教育改革、さらに、それらをつなぐ大学入学者選抜改革を、三位一体で進めていくことが、改革の大きな軸となっています。そうした前提も踏まえて、今回は、「アフターコロナ時代の大学受験」をテーマに、その背景にある教育環境や実社会で必要となる資質の変化についても、視野を広げて考えていきたいと思います。
まず、コロナ前とコロナ後によって教育全般がどのように変化するのかについての私なりの整理は、以下の5つの観点になります。
- 教育スタイル
- 指導目的
- 指導方法
- 評価方法
- 指導者・学習者に求められる態度
そして、以上の5つに対する今後の変化について、次のようなキーワードで表せるのではないかと思っています。
①教育スタイル
(今まで)教室に集まる「対面指導」
↓
(これから)動画 or オンラインによる「遠隔指導」
②指導目的
(今まで)インプットとアウトプットによる「知識の体系理解」
↓
(これから)非認知能力をはじめとする「ソフトスキルの育成」
③指導方法
(今まで)一方方向による「ティーチング」
↓
(これから)双方向による「メンタリング」
④評価方法
(今まで)教科・科目ごとの「ペーパーテスト型」
↓
(これから)人物を総合的に評価する「常時観測型」
⑤指導者&学習者に求められる態度
(今まで)予定調和・クローズエンド・集団教育・アウトサイドイン
↓
(これから)インプロビゼーション・オープンエンド・自己教育・インサイドアウト
これだけでは、ちょっとわかりにくいと思いますので、より具体的にしていきましょう。
まず、アフターコロナの教育環境におけるわかりやすい予測が、①教育スタイルにあげた、教室に集合しなくてもリアルタイムな情報伝達が可能となる、動画コンテンツやオンラインミーティングシステムの活用だと思います。
各種メディアでも、子供たちのための遠隔でのオンライン指導体制づくりに向けた全国の学校や塾・予備校の先生方の一生懸命な様子が取り上げられるケースが増えていますが、こうした潮流により、これまでは教育の一分野だったオンライン指導に、多種多様な知見が入り込み、新しい可能性が開花するのではないかと思います。
ただ、そのときに、ぜひ、表裏一体で語られるべき項目が、⑤指導者&学習者に求められる態度ではないかと、私は考えています。つまり、教育のオンライン化を推進するにあたって、教育環境への「端末の導入」や指導者や学習者の「情報スキルの習得・向上」以上に、「学びに向かう態度」に対する変化を促せるかの方がずっと重要だと思うのです。
次のキーワードは、こうした学びに向かう態度や姿勢にあたる変化を、私なりに表したものです。
「予定調和」
↓
「インプロビゼーション」「クローズエンド」
↓
「オープンエンド」「集団教育」
↓
「自己教育」「アウトサイドイン」
↓
「インサイドアウト」
前々から指摘されていたこととは思いますが、今回のコロナによって、予め想定された状況に対して段取りを整え準備することの脆弱さが、改めて浮き彫りになっていると感じています。もちろん、状況を予測し丁寧に準備することは重要なことです。ただし、それだけに頼り切ってしまうこと自体が、想定外の状況が起きたときの思考停止を招きかねないことは、やはり怖いことだと思います。
とくに、教育においては、この予定調和的な世界観が根強く存在すると思います。日々決められた時間割通りに教科学習が進み、設定された試験範囲通りのインプットとアウトプットを訓練し、それにより成績や合格点が決まっていくような状況が、これまでは強くあったと思います。ですが、これからは、そうした「予定調和型」から、その瞬間をあえて即興で捉え、変化に対してすぐに実践していくような、「インプロビゼーション型」の学びにシフトしていく必要があるのではないでしょうか。
その結果、予め正解や結論が確定され途中の変更が不可能な「クローズエンド型の思考」ではなく、その時々に適した自在な発想や変化を受け入れていく「オープンエンド型の思考」に、より近づきやすくなるのではないかと思います。今、コロナウィルスの世界的な流行を、ウイルスと人間との戦いに見立てて第三次世界大戦と称する専門家もいますが、既にここ数年の間に、50年に一度や100年に一度と言われるような経済危機や自然災害は毎年のように発生しており、このような未曾有の事態は、今後もますます続くことと思います。
誰も正解を持たない時代の到来においては、従来型の延長線上にある改善・改良だけでは、とても太刀打ちできません。だからこそ、正解にたどり着くための方法論を教え込んだり、与えられたりするような、効率重視ん一方的な集団教育による「アウトサイドイン」ではなく、自身の内側に内在するものを出発点にしながら、自己教育力を高めていけるような「インサイドアウト」の学びのあり方が主流になるべきだと思います。
結果として、教えたり学んだりするための「やり方」ではなく、「あり方」の方が強く問われる時代になるのではないでしょうか。また、アフターコロナの時代の教育は、「指導する側」と「学習する側」の境界が非常に曖昧でボーダーレスになっていくと考えられます。言い換えると、教える・教えられるという「タテ軸の関係」ではなく、相互に学び合う「ヨコ軸の関係」です。
このような指導者、学習者双方の「あり方の変化」が、結果としてその他の「指導目的」、「指導方法」、「評価方法」の変化につながり、「教育のオンライン化」ひいては、大学受験の新しい枠組みが見えてくるのではないかと思います。
前述にて、これからの教育は、指導目的においては、知識の体系理解から「ソフトスキルの育成」に、指導方法においては、ティーチングから「メンタリング」に、評価方法においては、ペーパーテスト一発型から「常時観測型」に変化するだろうと述べましたが、私は、この3点がそのまま今後の新しい大学受験のシステムとして進化するのではないかと考えます。既に総合型選抜では、正解にたどり着くための方法論ではなく「ソフトスキルの育成」を重視する選抜が行われています。
この「ソフトスキル」とは何であるかについてですが、私が理事を務める日本アクティブラーニング協会では、国内外の研究者と協力し、これらを独自に特定し25種類に体系化しています。ここでそのすべてをご紹介することはできませんが、主なソフトスキルに次の5つがあります。
- Insightfulness(洞察力)
- Perspective(多角的な視点)
- Social Intelligence(社会的な知)
- Humor(ユーモア)
- Sound Judgement(判断力)
こうしたソフトスキルのことを、一般的な言葉で言えば「非認知能力」といった目には見えないが人間的な資質や個性を示すものになりますが、実は日本アクティブラーニング協会では、個人の中に潜在するこれらの要素を可視化するための診断システムも開発しています。
実は、この診断システムを使って、総合型選抜の出願者を対象に分析を試みたことがあります。出願者の活動実績や偏差値、英語資格などの領域をそれぞれ点数化しつつ、同時に、一人ひとりの25のソフトスキルスコアも計測し、総合型選抜に合格者と不合格者では、どの領域でどのくらい差が出るのかを解析しました。つまり、合格者と不合格者の差が大きい領域ほど、その合格に貢献している領域であることがわかるはずです。
結果は、いかに……?!
圧倒的な差になったのは、やはり、ソフトスキルの領域でした。総合型選抜の合格を決定づける要因は、活動実績や偏差値ではなく、「非認知能力」の方が圧倒的だったのです。
ちなみに、海外の研究では、「非認知能力」が高い人の方が、実社会において経済的にも精神的にも豊かであるという報告が存在します。つまり、ソフトスキルにおけるスコアの高さは、現段階のパフォーマンス力以上に、将来的な人財としての伸び率の高さを示す指標であり、総合型選抜において重視されている資質もこの点にあるのでしょう。
実際に、旧帝国大学の一つである東北大学では、AO入試で入学した学生が、総長賞を受賞するなど、入学後の成績が上位に入ることが確認されています。早稲田大学は、本当の意味で「伸びる人財」の採用に向けて、総合型選抜などの特別入試による入学者を全体の60%にまで高めることを宣言しています。
では、こうしたソフトスキル、いわゆる「非認知能力」を、各大学はどのように見極めようとしているのでしょうか?その象徴的な手法が、「メンタリング」と「常時観測型」による採用システムです。 実は、「メンタリング」は、指導法であると同時に人の本質に迫るコミュニケーション方法でもあるため、人物を総合的・多面的に見極めたいときに、非常に理にかなった手法です。
総合型選抜における面接やディスカッション、口頭試問などは、まさに、教授と受験生、あるいは受験生同士による、「メンタリング」そのものです。また、例えば、企業の人材採用活動では、採用担当者の多くが、就活中の学生のtwitterやInstagramなどをチェックしていると言いますが、これは、とはいえ面接だけでは分からない、応募学生の人柄や性格、リアルな行動様式についての日常を確認し裏をとるためです。これに該当するものが、大学受験では出願者の活動や経験を蓄積する「ポートフォリオ」になるでしょう。つまり、「常時観測型」の手法が、大学受験についても発展していくのではないかと思います。
以上のようなことを総合すると、私は、総合型選抜は、一部の受験生の特殊な入試ではなく、アフターコロナ時代の大学受験における選抜の根幹となる可能性が十分にあると思います。 今回の記事が、「教育のオンライン化」という表面的な状況変化では見えてこないこれからの時代の教育の本質について、さまざまな方に考えていただく機会となれば幸いです。
次回は、「一生使える!志望理由書に必須のリサーチ力を鍛える!」をテーマにお伝えします。お楽しみに。