志望理由書のための本当の「リサーチ力」とは?

志望理由書のための本当の「リサーチ力」とは?

こんにちは。青木唯有(あおき ゆう)です。日本アクティブラーニング協会理事および人財教育プロデューサーを務めています。

これまで、総合型選抜・学校推薦型選抜(旧AO・推薦入試)の指導に多く携わってきた経験から、教育界の変化や課題、実社会の影響、親子のあり方など、筆写のブログにて定期的に発信しています。

総合型選抜・学校推薦型選抜の準備において、「リサーチ力」は必須だと言われています。「志望理由書の質は、リサーチ力でほぼ8割がた決まってしまう!」と断言する指導者もいらっしゃるようです。

リサーチとは、調べ、調査する行為ですが、今は昔と違って誰もが簡単に情報にアクセスできます。スマートフォン一つあれば、大学情報も、特定分野の研究論文も、世界各地の時事も、新しい知見について誰もがどこからでもいつでも探すことが可能です。

リサーチにおいて、圧倒的に便利な時代なのです。

ところが、総合型選抜・学校推薦型選抜の準備を進めていけばいくほど、そう簡単にはコトが進まないことを実感することになります。PCやスマートフォンがありwi-fi環境が整っていても、本当の意味での「リサーチ力」が有る人と無い人とでは、埋められないほどの大きな差が生まれてしまうのです。

では、「リサーチ力」が有る人と無い人の差は、一体どこで生まれてしまうのでしょうか?

ここからは、私なりの考えをお伝えしたいと思います。

総合型選抜・学校推薦型選抜で合否の判断に大きなウェイトを占める「志望理由書」は、その大学・学部を「志望」する「理由」を明確に記述するものですから、その内容は、「研究テーマ」と「研究計画」という要素が必須になります。「日本の政治をもっとより良くできるのでは?」とか、「人間の脳や意識ってどんな仕組みなのだろう?」など、漠然とした自分の関心や興味を「研究テーマ」として明確にし、そうした研究テーマに対して大学4年間でどのようにアプローチしていくのかを、具体的に「研究計画」に落とし込む必要があります。

そのために、必然的にネットや本、論文などで徹底的に情報収集することになります。もちろん、集めた情報をコピー&ペーストしても意味がありません。調べる対象を明確にし、現状の課題や取組みを自分なりに分析し、さらには「こんなアプローチも考えられるのでは?」という新たな可能性を提示しつつ、その立証や実現に向けたプランを構築する必要があります。

例えば、政治分野に関心があるのであれば、その対象が、自治体なのか?国なのか?国家間における連携なのか?

さらに、解決したい課題の解決に向けて、将来、自分自身がどんな立場でどんな取り組みを実践したいのか?外交官として、国家間の安全保障の新しい枠組みを作りたいのか?政治家として、ある地域のブランディングを高めたいのか?研究者として、行政の業務を効率化するためのシステム構築を研究したいのか?などと具体化した上で、その実現のために大学で学ぶべき内容を明確にしていきます。

もちろん、知りたいことや解決したい目的・テーマによって、大学で学ぶべき内容は変わります。国際政治や国際経済、国際開発などの全体像を学びたいのか?地域政策とメディアとの相互の関係を学びたいのか?行政・自治体の意思決定のしくみに応用できるAIなどの情報技術について学びたいのか?

このように具体化して初めて、ようやく志望理由書に書くべき「研究テーマ」や「研究計画」の要素が見えてくるのです。つまり、「リサーチ力」の本義は、やみくもにひたすら情報を集めることではなく、調べた情報を基に新たな仮説を立てて、自分なりの結論に向けた道筋を構築する「仮説思考」そのものです。

この思考を待たないまま、ネットなどをフル活用し、あれもこれもと情報収集することばかりに時間と労力をかけてしまうと、「調べたいことが全然見つからない!まだまだ情報収集が足りないのかも……?」という、リサーチの無限地獄に陥ることになります。

そして、こうした状況は決して特別なことではなく、私の経験上、総合型選抜・学校推薦型選抜の受験生のほとんどが、必ずと言っていいほど陥ります。もっとも、「仮説思考」の開発や養成については、受験生に限った話ではなく、実社会で活動する大人でも課題を感じていらっしゃる方が多いと思います。

私は、日本の教育システムの構造そのものが、こうした思考の開発を阻んでいるのではないかと感じています。知られていることですが、小学校・中学校・高等学校では、国による「学習指導要領」が定める各教科の目標や学習内容に基づいて教科書の内容が決まり、各学校が時間割を作成しています。「学習テーマ」も「学習設計」も、予め誰かの設計のもとで学んでいるという状況です。

仮説というのは、不確かな状況に対して、自分自身で仮の答えを設定することです。自分の学習プランやペースについて、「その枠組みは、誰かがどこかで作ってくれている」という暗黙の了解事項があれば、そうした思考を発揮する必要すらないでしょう。もちろん、国が定めた教育の基準や設計が非常にしっかりとし、全国で徹底されていることから生じているメリットは計り知れません。これだけの人口を有する国で、全国どこにいても一定以上の教育が受けられる環境は、紛れもなく世界トップの水準だと思います。

ですが、裏を返すと、日本人の多くが、目的や目標、その達成手段について自らで構築するという前提のないまま学びが進行することに慣れ切っている状況であるということです。繰り返しになりますが、総合型・学校推薦型選抜において一番初めに立ちはだかる「志望理由書」を執筆するためには、何を知りたいのか?どんなことを解決したいのか?といった学ぶテーマも、それらを深く知り解決するためにどこから着手してどんな方法や切り口で取り組んでいくのか?といった学ぶプランも、自分自身で設計・立案する必要があります。自分が学ぶための目標やプランを、国や学校に決めてもらうことはできません。

つまり、「研究テーマ」や「研究計画」の設定には、仮説思考と共に「自己決定力」が、非常に重要なのです。自動車に例えると、「情報」はガソリン、「自己決定力」はギア、「仮説思考」はアクセルのようなものだと思います。

いくら大量の「情報」を手にしたとしても、ガソリンを自動車に注いだだけでは、発進できません。また、「自己決定力」というギアが入らなければ、動力をうまく伝達するとができません。
さらに、自分が求める世界観の構築スピードを加速させるアクセルの役割を果たす力が「仮説思考」です。もちろん、自動車の運転手は自分自身です。

多少飛びのある考えかもしれませんが、私が定義する本当の意味の「リサーチ力」とは、単に情報を調べる力ではなく、得た情報の断片と断片を、自らの意志と決定において、周囲にも納得、共感し得る独自のストーリーとして構築する力のトータルを指すものだと思います。

そして、私は、こうした資質の養成こそ、家庭における「親子軸」が、とても重要な役割を果たすのではないかと考えます。とりわけ、リサーチ力を発揮するための「自己決定力」を育むベースは、実は、ご家庭の力が非常に大きいのではないかと感じています。

よく言われている理論ですが、人は、自分が決めた割合が大きければ大きいほど、その決定に対するモチベーションが強くなります。つまり、自分自身で最後までやり抜く力が増すのです。ところが、そのような自らの意志による内発的な動機から生じた行動に対して、金銭などの報酬や、逆に、達成できなかった時の懲罰など、外発的な動機を与えてしまうと、かえってモチベーションが低下してしまいます。これは、アンダーマイニング効果と呼ばれ、心理学者であるエドワード・L・デシらによる心理実験によって明らかにされました。

一方で、この検証では、親しい人や、信頼している人からの期待や賞賛によって、内発的な動機付けがさらに高まるという効果が確認されています。

私も、教育に携わる身として、モチベーションにおけるこうしたメカニズムについては認識していたのですが、あるご家庭の事例に触れて、よりその確信が深まった経験があります。そのご家庭は、子供が、自分の欲しいものなどがある時は、必ず両親にその理由や意味をプレゼンテーションするのだそうです。そのプレゼンテーションによって、ご両親が子供の欲しいものや希望をどのようにバックアップするか、判断するのです。

このお子さん(男子高校生です)が、志望大学の総合型選抜に向けて準備を進めていた際、どうしても海外の知見に触れたいと、短期の海外研修プログラムに参加することを強く希望したことがあります。彼は、両親を説得するために、この海外研修プログラムに参加することが、いかに自分の成長につながり、総合型選抜における自分の研究テーマを深める効果があるかについて、パワーポイントでスライド資料を作り、両親に熱くプレゼンしました。

彼の最後の決めゼリフは、「お父さんとお母さんの老後の面倒は自分が見るから、留学費用は確実な投資です!」だったそうです(笑)。

見事、両親の理解を得て、海外研修プログラムに参加した彼は、総合型選抜での合格と共に、なんとその留学で得た人脈が、今の仕事に生かされているとのこと。本人曰く、自分が欲しいものについて親の力を借りなくてはならない時、両親の説得に成功し、自分の考えが認められること自体が、非常に大きなモチベーションになるそうです。

もちろん、すべての要求が通るわけではありませんが、そんな時も、自分を見直したり、次のチャンスに向けて新たな作戦を練り直したりするための機会になるのでしょう。

日本を代表する経済学者である竹中平蔵氏は、「子供にとって、両親は人生で最初のライバル」だと言っています。

ライバルという言葉は「好敵手」と言い換えることもできますが、辞書などを引くと、『互いにとって好ましい状況変化を促す存在』だと定義されています。総合型選抜・学校推薦型選抜おいては、正解や確定事項のない中で、自分自身でストーリーを構築する力が必要です。そうした、道無きところに道を作っていくための掘削機のようなものが、「リサーチ力」だとすれば、単なる「飴」と「鞭」ではない、特別なパワーを我が子に与えられる力が、保護者の方にあるのではないかと思います。

次回は、「総合型選抜のための“活動実績づくり”の罠」をテーマにお伝えします。お楽しみに。

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