芸術鑑賞の“常識”を変える「オンライン芸術鑑賞」とは?

芸術鑑賞の“常識”を変える「オンライン芸術鑑賞」とは?

2020年2月末、国内での新型コロナウイルス感染症の広がりを受けて、政府が全国の学校に対して一斉休校を要請した。ここから5月末まで、最長で約3カ月にわたって休校期間は続き、学校現場はオンライン授業実施のための環境整備や、学習の遅れを解決するための授業計画の見直しなど、かつて経験したことのない対応に追われることとなり、混乱を極めたのは周知の事実だ。

休校要請が解けた6月以降も、コロナ禍における学校運営においては、分散登校や授業時間の短縮など、例年のモデルが一切通用しない状況が続いた。今年に入ってからは、昨年の経験を活かし、「想定外」を前提とした計画策定を行う学校が増えてはいるものの、いまだに新型コロナの影響は後を引いている。

その影響は、教科学習の進度や定着度合いの問題だけではない。たとえば、修学旅行や芸術鑑賞のような学外活動や学校行事の中止によって、児童・生徒の学びの多様性が失われていることに対する懸念の声もあがっている。

コロナ禍で「オンライン芸術鑑賞」を実施

そのような中、これらをオンラインで実施しようという動きが出始めている。京都先端科学大学附属中学校高等学校では、2021年6月9日に全生徒約1500人を対象として「オンライン芸術鑑賞」を実施した。

一般的に、芸術鑑賞のような「体験」重視の活動は、オンラインでの実施は適さないと考えられがちだ。しかし、同校が実施したオンライン芸術鑑賞は、オフラインでは実現しにくい要素が積極的に取り入れられている。また、舞台がデジタル化された際の取り回しのしやすさ、自由度の高さを活かし、アートを教材に探究するプログラムとして開発されており、生徒は観るだけの芸術鑑賞とは異なる学びを得ることができる。

実際に行われたのは、ミュージカル鑑賞と探究を組み合わせたプログラムだ。生徒はまず、事前学習用に配信された動画を視聴する。この動画では、衣裳、舞台装置、照明、音響といった、作品全体を成立させている各要素がどのようにして組み立てられていくのか、舞台創作のプロセスを学ぶことができる。

今回題材となったのは、音楽座ミュージカルの作品。音楽座ミュージカルは令和2年度に「SUNDAY(サンデイ)」で、文化庁芸術祭賞新人賞を受賞している。過去35年間オリジナルミュージカルを作り続けているため、作品創造の過程を教材化することができる。

音楽座ミュージカルの俳優がファシリテーションを行いながら進行。

オンライン化する利点と学びの効果

作品本編の映像は、生徒が教室、視聴覚室、体育館にわかれて視聴した。劇場での公演の場合、収容人数や実施時間帯の制限の関係から、全校生徒を対象とするのが難しいことが多い。今回はオンライン版のためその制約はなく、1500人が同じ日に同じ体験を得ることができた。同校では会場を設定して放映を行ったが、状況によっては、個別の端末で一人ひとりが視聴するといったことも可能だ。この点もオンラインの強みのひとつと言えるだろう。また、オンライン配信用に撮影されている映像なので、通常はあり得ない視点から舞台を鑑賞できるようにもなっている。

ミュージカル作品を鑑賞し終えた後は、探究の時間となる。ここで使われたのは、日本アクティブラーニング協会の「SDGsカリキュラム」だ。今回は「SDGsカリキュラム」は円盤型の教材で、絶対的な正解のない問題に対して、インプロ(即興)で挑み、一人ひとりの個性が発揮される場をつくる。

生徒たちに出された問題は「作品の中に登場する舞台装置について、その舞台装置を使った印象的なシーンを取り上げ、その効果を独自の視点で解説する」というもの。個別に解答を作成した後は、グループを組んで解答を共有したり、個性的な解答を発表したりする。これによって、自らのものの見方や考え方を深める、他の生徒の視点から学ぶといったことができるようになっている。

観劇の後、生徒たちはSDGsカリキュラム(円盤型教材)で探究学習を行った。

生徒・教員のアンケート結果は?

このプログラムに参加した生徒・教員にアンケート調査を行った(有効回答は生徒1080人、教員20人)。

「このような学びは自分にとって(生徒にとって)必要だと思ったか?」という質問に対しては、生徒の85.1%、教員の95.0%が「大いに必要」または「必要」と回答している。また、「このような学びを今後も続けたいか?」という質問については、生徒の84.5%、教員の95.0%が「ぜひ続けたい」または「続けたい」を選択している。

このアンケート結果を見ても、アートを通じた学びの重要性を、教員だけでなく学び手の多くが感じていることがわかる。生徒の感想には下記のようなコメントが多く見られた。

「コロナ禍でもミュージカルを観られる機会があってよかった」

「オンラインは初めてだったが、その場で観ているような臨場感があった」

「ここまで様々なことを考えながら舞台を観るのは初めてで楽しかった」

オンライン版の実施に際しては、ネット環境や機材関連のトラブルをどのように回避するか、といった課題はつきものだ。一方で、どのような状況においても、今回の京都先端科学大学附属中学校高等学校で行われたような体験と学びの機会が求められている。音楽座ミュージカルと日本アクティブラーニング協会による「オンライン芸術鑑賞」を実施しようとする学校も増えている。課題をクリアしつつ、従来の常識にとらわれない発想によってオンラインプログラムが開発されることで、多様な学びが生まれていくことに期待したい。

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