三世代家族と子供の学力の不思議

三世代家族と子供の学力の不思議

こんにちは。青木唯有(あおき ゆう)です。日本アクティブラーニング協会理事および人財教育プロデューサーを務めています。

これまで、総合型選抜・学校推薦型選抜(旧AO・推薦入試)の指導に多く携わってきた経験から、教育界の変化や課題、実社会の影響、親子のあり方など、筆者のブログにて定期的に発信しています。

今回のテーマは「三世代家族と子供の学力」についてです。

さて、唐突な話題になりますが、県別の幸福度ランキングのトップ常連県の一つが福井県であることは、割とご存知の方も多いのではないでしょうか。地域別の幸福度を測る指標は現在様々あるようですが、その中で2018年から示されるようになった「ライフステージ別の幸福度」があります。実は、福井県はこの指標で、「就学から20代までの青少年」と「現役のシルバー世代」の幸福度が共に1位とのこと。

つまり、福島県全体の幸福度を押し上げているのは、若い世代および年配世代の幸福度の高さであることが伺えます。実際にある専門家は、福井県の幸福度の高さは、祖父母とその子供夫婦、さらに孫といった、三世代同居率が圧倒的に高いことに相関していると示唆しています。

たしかに、夫婦だけの育児ではおぼつかない状況があった時、同居する祖父母がいることで安心できるはずです。核家族世帯では、子育てのために特に女性の労働が制限されてしまう傾向があります。しかし、三世代同居であれば、家にはおじいちゃんやおばあちゃんがいて孫の食事や宿題の面倒を見てくれるという環境が生まれ、母親が安心して外で働くことができます。

昨今のコロナ禍では、保育園・幼稚園に預けられなくなったり休校措置のため学校に通えなかったりする子を持つ母親の「働きたいのに働けない」という悩みが浮き彫りになりましたが、三世代同居という生活環境であれば、子育てへの支援を受けやすいためそうしたジレンマに陥るリスクも軽減されることでしょう。

また、祖父母世代の年配の方にとっても、孫の成長に関われたり家族の役に立っているという充足感を得たり、「生きがい」を実感することになり、それが心身の健康を良好に保つ秘訣になるはずです。

ちなみに、共働き世帯のランキングでも福井県は全国トップクラス。さらに言うと、文科省による全国学力テスト(小・中学生対象)でも、福井県はトップクラスです。

三世代家族という環境を得ることは、子供にとっても、両親にとっても、祖父母にとっても、まさに三方良しですね。

ですが、日本全国を見渡すと、そのような三世代同居型の家族形態は減少していると言われています。一人暮らし世帯(単身世帯)の増加がその要因であって、実際に両親と子供がいる世帯だけを分母にしたデータを見ないと正確なことはわからないと言う専門家もいますが、福井県の三世代家族と幸福度の相関や子供の学力などの影響について、核家族には無いメリットが三世代家族にはあるのだと知ると、親と子供だけという世帯の保護者の方にとってはちょっと不安になってしまうかもしれません。

ですが、私は、三世代家族が子供の成長にもたらす本当の効果についての視点を持つことで、核家族世帯の子育てについて新しい可能性が見えてくるのではないかと感じています。

そのためには、祖父母が同居するメリットについて、両親の働く環境や子育てなどのバックアップが得られるという点以外の、目には見えない効果について考える必要があります。

それは、「多様なライフステージ」が織りなす人的ネットワークこそが、子供の成長にとって非常に効果的なのではないかという視点です。具体的には、シルバー世代が有する特別な知恵のようなものが、子供世代に伝播する効果のことです。

核世帯家族の子供たちにとって、家と学校の往復を繰り返す生活だけでは、ほぼ同じ世代との関わりに止まってしまいがちです。塾や予備校に通っていたとしても、そこで出会う講師やスタッフが祖父母以上の世代というケースはあまりないはずです。

このような年配世代との接触の少なさは、人生の中でより豊かな学びを得る機会を失っていることに他なりません。

話は飛びますが、「姥捨山(うばすてやま)」の物語をご存知でしょうか?子供の頃に、アニメ「にほん昔話」のテレビ放映でご覧になった方もいらっしゃるかもしれませんが、物語のあらすじはだいたい次のような内容です。

昔々、ある国に、高齢になった年寄りを、口減らしのために山に捨てなければならないという決まりがありました。

年老いた母親を山に捨てるため、息子が背中におぶって山を登る途中、母親は息子が帰り道に迷わぬようにと、木の枝を折っておきます。息子はそんな母親を捨てきれず、家に連れて帰り、母親をそっと床下の隠し部屋にかくまいます。

そんなある時、この国が隣国から次々と無理難題をしいられ、「解けなければ攻め込むぞ」と脅されてしまいます。困ったお殿様は、国中に「良い知恵がないか」とおふれを出すのですが……。

それらの難題を全て解決に導いたのは、なんと床下に隠された年老いた母親の知恵でした。

それ以降、この国は、お年寄りを捨てることをやめ、家族みんなが幸せに暮らせるようになりました。

「姥捨山(うばすてやま)」の物語が示す、年長者が有している英知を継承する環境を守ることこそがまさにそのコミュニティ全体の命運を決めるという教訓は、現代にも通ずるものがあると感じますが、私は、ここに三世代家族が次世代に与える影響の本質があると思います。

総合型選抜・学校推薦型選抜などの指導の中で、私は、受験生に対して「自身の祖父母からどんな影響を受けているのか」について考えさせる機会を設けるようにしています。たとえ祖父母と一緒に暮らしていなくても、あるいは既に他界されていて直接話を聞けなくても、祖父母がどんな時代を生き誰と出会い何をしてきたのかについて、自分なりに思いや考えを巡らせることはとても重要なプロセスなのです。

なぜならば、一世代の間があるだけで社会の構造も価値観もびっくりするほど違いがあり、そのような変化の中を生き抜いている方々の知恵から学べることは、参考書やインターネットからでは決して得ることのできない生きるための知恵があるからです。また、信頼を寄せている家族を通して色々な知見を得られることは、自分のルーツや新たな側面から自己理解を深めることにも効果的です。何よりも、社会の変化や構造について世代を超え長期的な視点で考察することは、先の行方が見えにくい現代社会を生き抜くための「未来を見通す力」を育成することにもつながります。

「愚者は経験から学び、賢者は歴史に学ぶ」

これは、ビスマルクによる格言です。

世の中には、「まずは自分でやってみないと、分からない。」「今までの自分の実体験とフィットしないから、判断できない。」などと言って、全ての基準を自分の実感ベースに落とし込んで考えるタイプの人がいます。たしかに、自分の実体験の中にはたくさんの学びがありますが、得られる学びの拠り所を自らの実感や経験のみに固執しすぎてしまうと、視野の狭い表面的な見解しか持てなくなる可能性があるということは、ビスマルクの格言が示す通りでしょう。

当然ですが、祖父母の世代と子供の世代には優に半世紀の開きがあります。祖父母を通じて自分が生きている時系列を超えた社会の流れを感じることは、自分一人の経験だけでは掴むことのできない歴史の潮流を理解することに通じます。そうした歴史観から生まれる学びの中には、未来に残すべき教訓や知見が必ずあります。これは、単に自身の経験のみで得られる学習とは全く違う性質のものです。

私は、経験から得られる学びも歴史から得られる学びも、両方をバランスよく伸ばすことが重要だと考えます。特に、総合型選抜・学校推薦型選抜は、その受験をきっかけにまだ見ぬ将来や未来について自分なりのビジョンを描いていくことが必然です。そのためにも、歴史観を持つことで得られる「未来を見通す力」の育成を、まずは、自分の最も身近なファミリーである祖父母からスタートすることは、非常に効果的なのだろうと思うのです。

とはいえ、核家族世帯の親と子が、世代を超えた強い繋がりを自分たちの暮らしの中に取り入れるには、どのようにしたら良いのでしょうか?

いざという時に頼れる人間関係について、「遠くの親戚より近くの他人」という言葉で表すことがあります。疎遠になってしまっている血縁よりも、日常で信頼関係を形成している、すぐ近くにいる他人の方が、よほど当てになるということです。

実は私はこれまで、総合型選抜や学校推薦型選抜を受験する中高生たちがその対策を進めるなかで、この諺が示すような何らかの損得や利害関係に依拠しない新しい信頼関係をどんどんと形成している事例をたくさん見てきました。例えば、自分が知りたい専門分野の一線級の方々にメールやSNSなどでアポイントを取りすぐに会いに行き、大人ではとても入り込めないような場所まで案内してもらうなど、受験をきっかけに親よりも上の世代のプロフェッショナルたちとの信頼の絆を着々と築いている事例は枚挙に暇がありません。

そうした姿を見るたびに、世代を超えて様々な専門家や実業家をの人脈を築けるのは10代の今だからこそ使える特権だと感じてきました。大人同士のような実社会での仕事や立場などによるしがらみがないからこそ生まれる純粋な信頼関係を築けることに、羨ましさすら覚えることもありました。

今は、インターネットのおかげで、距離的なハンデが差にならない時代です。また、コロナ禍によって、いよいよ教育の中にもオンラインによるテクノロジーが一気に入り込んでいます。

そうしたネットワークを上手に活用できれば、これまでは、なかなか難しかった若い世代と年配世代による交流もさらに可能になるでしょう。

総合型選抜・学校推薦型選抜をきっかけに、損得勘定ありきではない、擬似的な家族のような多世代交流がより盛んになれば、それはとても素敵なことだと思います。

ぜひ、子育ての際の一つの参考としていただければ嬉しく思います。

次回は、「誰も知らない“オンライン面接試験”のリアル」をテーマにお伝えします。お楽しみに。

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