先例から学ぶ「探究」の時間を活性化する方法

先例から学ぶ「探究」の時間を活性化する方法

いよいよ次年度から高等学校のカリキュラムにおいても新学習指導要領が適用される。今回の学習指導要領の改訂の目玉とされているのが「総合的な探究の時間」の正式科目化だ。

「探究」は新学習指導要領の施行前からその教育効果や価値が認められており、すでに先行して取り組んでいる学校があることも知られている。その状況や実際の効果については以前に甲南高等学校・中学校を取材し、記事としてまとめている(過去記事 )。

今回はそこからもう一歩踏み込んで、他校の実施例から「探究」をより充実させるための方策を考えてみたい。取材したのは東京都世田谷区にある駒場学園高等学校だ。

「探究」を進める上での難関は?

簡単に言うと、「探究」は生徒が自分自身で研究テーマを設定し学び進めていく活動になるが、実はこの「研究テーマの設定」こそが最大の難題とも言える。「探究」において、生徒が自ら課題を立てる環境をつくることの難しさは、多くの学校が感じているところではないだろうか。

答えのない課題に挑むプロセスである「探究」は、教科書と呼べるようなものがなく、ページを追いかければ生徒が何かをつかめるかといえばそうではない。「課題発見」の方法論があるわけでもないので誰かに教わることはできず、生徒は自力で「やりたいこと」を見つけるしかない。

ところが、この「やりたいことを発見する」のはそう簡単ではない。このことは、たとえば就職活動等で自分を振り返る経験をしたことのある人であれば容易に想像できるだろう。

そのため、テーマ設定については学校側で選択肢を提示してその中から選ばせたりするようなケースもあるが、それはそれで、生徒は自分の興味と無関係の課題に取り組むことになる場合もあり、自分ごとになりにくい。

こうなると、生徒がキャリア形成などの自身の生き方やあり方を見据えながら自律的に学んでいく場をつくるという「探究」設置の本来の目的からは遠ざかってしまう。先生に言われたからやる「やらされる活動」になっては、「探究」の時間を活性化することは困難だ。

駒場学園高等学校の探究カリキュラム

その点、駒場学園高等学校はどのような施策をとっているのだろうか。教育推進部長の長田一郎教諭、高2学年主任の柴祥子教諭に話を聞いた。

駒場学園高等学校は1947年に日本装蹄学校として開校し、1956年に現在の校名に改称した学校で、普通科(特別進学コース・国際コース・進学コース)と食物調理科があり、1000名以上の生徒が学んでいる。

普通科では5年ほど前から修学旅行の機会を活用した「探究」をカリキュラム化している。高校3年間を通じた「探究」の流れは次の通りだ。

枠組みとしては各学年同様に土曜日に2コマ分を割いて「探究」の授業時間を置いている。まず1年生では「探究」の基盤づくりを行う。2年生は修学旅行がある学年で、複数の旅行先から生徒が希望する行先を選択でき、生徒は選んだ地域の状況を調べて課題を発見し、その解決策を考え、まとめていく。3年生は集大成として論文を執筆する。

上記が大きな流れだが、どんな学校でも必ず実施する「修学旅行」を軸としてカリキュラムを設計しているところが特徴的だ。今年の旅行先は、北海道、中国地方、九州などが用意されており、生徒が旅行前の事前学習でまとめたプレゼンテーションは、各地域の企業や行政に実際に提案するところまで計画している。

現地に赴くまでの期間においても、地域の人々とオンラインで会話をしたり、現状をヒアリングしたりといったことを行う。

旅行先の行政・企業とオンラインでつながって学ぶ。

(長田教諭)一年中、修学旅行の話をしている学校は珍しいのではないでしょうか。毎週、全教員が話し合って授業の組み立てを行うので正直大変ですが、生徒たちはいきいきと取り組んでくれていますし、この経験を一生ものの財産にしてほしいという思いでいます。

3年生ではこのような経験をふまえて、各自のテーマで論文を執筆する。8,000字の論文を書くことを目標としているそうで、相当なボリュームということもあり、まとめきれずに苦労する生徒もいるが、「探究」の経験を作品として完成させることで、生徒にとってのかけがえのないポートフォリオになるという。

(長田教諭)もちろん、大学に入る際の武器になるでしょうし、それだけではなくて、その後のキャリアを考えても、きっと自分自身の原点に立ち返るきっかけを与えてくれるものになると思います。

「探究」の基盤づくりの方法と効果

1年次での基盤づくりを本格的に始めたのは昨年からだが、そこから生徒たちの様子は明らかに変化したという。1年生が取り組んでいるのは「SDGsカリキュラム」だ。

「SDGsカリキュラム」は円盤型の教材を使って教員が運営するワークショップ型の授業。円盤型の教材には正解のない問題が書かれており、生徒たちはその場で自分なりの答えを書き、グループで解答し、発表するという流れで進行する。

SDGsカリキュラムでは円盤型教材を使ったワークを実施する。

出される問題はたとえば次のようなものだ。

  • 虫嫌いの友人に昆虫食を食べてもらうための説得方法は?
  • 江戸時代の鎖国政策がなかったとしたら日本はどう変わっていたと思うか?
  • 「歴史は虹である。」あなたが考えるこの言葉の真意を絵と言葉で説明してください。

これまで受けたことがないような想定外の質問にその場で答えるため、生徒間で解答内容が同じになることはない。解答には一人ひとりのものの見方や考え方が反映される。

(柴教諭)予想外の問題が出されるので、最初はとまどっている様子でしたが、続けていくことで生徒たちは確実に書けるようになっていきました。正直、書けないのではないかと思うような問題もあったのですが、そんなことはなくて、生徒たちは教員が思っているよりもずっと柔軟です。

この授業を経験することで、生徒たちの「探究」への取り組み方が変わってきたという。

(長田教諭)いわゆる「非認知領域」の力なので、数値で表すことは難しいのですが、SDGsカリキュラムを導入した学年は、ディスカッションや発表に向かう姿勢がとても積極的になっています。高校生のうちに起業しようという「起業ラボ」や、制服をデザインしようという「制服向上委員会」といったエントリー制のプログラムも用意しているのですが、この学年からのエントリーが一番多く、定員を超える応募がありました。

誰も答えを持っていない課題と向き合うことで、自分の中にある個性や考えが表に出るきっかけになる。正解を求めることもないので、表現したり話し合ったりすることに対する抵抗感もなくなる。他の生徒の解答から様々な気づきを得ることもでき、知らず知らずのうちに多様性を認める心も育つ。同時にそれが楽しいと感じているからではないかと長田教諭は分析している。

個人個人の解答を発表し視点や考え方を共有する。

生徒が自ら「やりたいこと」を発見する

このプログラムを受講している生徒にも話を聞いた。

(2年生)SDGsカリキュラムを通じてジェンダーに関心を持つようになって、気になることを調べてみたりもしました。探究はジェンダーに関する研究テーマでと考えています。

(1年生)これまで聞かれたことがない問題が書かれていて、難しいと思うこともあったのですが、あれこれ考えているうちに自分の興味に気づくこともできました。福祉に関する問題が出たことがあって、それをきっかけに「起業ラボ」に参加して、今は福祉系の企業をつくりたいと思ってがんばっています。

SDGsカリキュラムでは、突拍子もない質問に対して自分ならではの答えを出すところから始まり、その答えをきっかけにして実社会とのつながりを考える構成になっている。SDGsの概要をレクチャーするのではなく「自分自身」がスタートになっていることも、生徒たちがこのようにそれぞれの進路を発見できる要因となっているのではないだろうか。

長田教諭、柴教諭は、このような教育活動を通じて、生徒たちの中に創造性が身についているとも語った。この創造性をさらに伸ばすために、舞台芸術に触れながら学ぶプログラムも実施していく予定だという。

駒場学園高等学校の実践例から、授業と学校行事をそれぞれ単体でとらえず、一体のカリキュラムとして展開することの価値が感じられた。また、生徒たちが「探究」を進める上での基本的なマインドセットをどのように育んでいくかも非常に重要なポイントだとわかる。

「探究」のカリキュラム化は、学校にとっても大きな課題のひとつと言われているが、駒場学園高等学校のような教育が全国の高校で行われるようになれば、これまでにない変化が生徒の学びにもたらされることは間違いないだろう。

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