視覚障害のある方へのオンライン講習レポート その6(地図アプリ)~ICT活用の現場から㉗

視覚障害のある方へのオンライン講習レポート その6(地図アプリ)~ICT活用の現場から㉗

視覚障害(弱視)の方へのオンライン講習。物体認識アプリ「Seeing AI」の他に先方からの希望で説明したのが、地図アプリだ。

多くの地図アプリがあり、どれを紹介するか考えたが、この時はGoogleがリリースしている「Googleマップ」を紹介した。

iPhoneには標準のマップアプリ(以下標準アプリ)が最初からインストールされている。にも関わらずなぜGoogleマップなのか。理由はいくつかあるものの「標準アプリよりGoogleマップが100%優れているから」というほどのものではない。

近年は標準アプリも改良が進められ、Googleストリートビューのように地図を3D表示できるFlyover機能なども実装され始めている。当然音声読み上げ機能「VoiceOver」での読み上げも悪くはない。ではなぜ今回のオンライン講習では標準アプリではなくGoogleマップを紹介したのか。

Googleマップを紹介した5つの理由

1つ目の理由は、私がふだん日常的に使っているからだ。その昔マップアプリで仕事の打ち合わせ場所を相手先の会社名で検索したことがあった。その時は標準アプリでは表示されなかった一方で、Googleマップでは正確に表示された。元々検索サービスが主業であり、あらゆる目的地をスムーズに検索できる精度の高さに魅力を感じたことから、Googleマップを日常的に使うようになった。

教わる側が使いやすいアプリを紹介することも大切だが、教える側が教えやすいアプリを扱うことも大切だ。教える側が使い慣れていなかったり、機能を十分に把握できていないまま教えても、そうした不安は教わる側にも伝わるし、良い講習には繋がらない可能性が高い。

2つ目の理由は、検索履歴の共有が容易なこと。たとえばPCで目的地を検索しておくと、出先でスマホのGoogleマップを起動すればPCで検索した履歴をそのまま参照できる。それぞれのデバイスで一から住所を入力する必要がないためとても便利だ(履歴の共有にはGoogleアカウントでのログインが必要)。

とくにスマホでの文字入力が困難な視覚障害のある方にとって、こうした機能は便利に使えるはずだ。「PCでの文字入力は問題ないが、スマホでの文字入力は難しい」と感じる当事者は多い。楽に行える操作(目的地の検索など)をPCで行っておき、出先ではスマホで履歴を参照するだけにしておけば、マップアプリがより使いやすくなるだろう。

3つ目の理由は、GoogleマップがVoiceOverの操作にも問題なかったからだ。講習の前にVoiceOverを起動した状態でGoogleマップの機能をひと通り試したが、目的地の検索からナビの開始までに大きな障壁となる点はなかった。

VoiceOverで快適に操作できるアプリかは、実際に使ってみないとわからない。一見すると問題なさそうに見えても、いざVoiceOverで音声を読み上げながら使ってみたらうまく操作できなかったというアプリは少なくない。

この問題の多くはVoiceOverに起因するというよりは、アプリの作り方が原因の場合が多いと感じる。中には「VoiceOverオフの状態だと普通に操作できるのに、VoiceOverオンにすると操作できないナビゲーション」といったアプリもある。アプリやサービス開発者の方々には、ぜひアクセシビリティに配慮した開発を心がけていただきたい。

4つ目の理由は、Googleマップは視覚障害ユーザに配慮した機能が実装されていることだ。

Googleマップアプリの「設定」→「ナビ」→「徒歩のオプション」→「詳しい音声案内」を有効にすると、徒歩でのナビ機能利用中に音声での案内がより詳しくなる。

Googleでは視覚に障害がある社内メンバー協力の元、こうしたアクセシブルな機能の研究開発を進めているそうだ(詳しくは視覚に障害を持つ方のために開発、Google マップの詳しい音声案内を参照)。

5つ目の理由は、相談者の方がアプリのインストールを行う操作に問題がなかったからだ。

標準アプリと異なり、Googleマップアプリは使用者がアプリをインストールする必要がある。一見簡単に思われるかもしれないが、視覚に障害のある方がアプリをインストールするための操作は、予想以上に困難な場合がある。今回講習を受けている方はインストール操作に問題がなかったが、自身でアプリを新規にインストールできず、(オンラインで遠く離れているため)インストールの操作を代行することが困難だったとしたら、Googleマップではなく標準アプリを紹介したかもしれない。

説明するアプリの選択は多角的な観点から考えることが大切

上で述べたように、説明で使用するアプリを選択するには、多角的な観点から考えることが大切だ。それは相手のこと(知識やスキル、要望など)はもちろん、教える側の自分自身にとっても「教えられるか、使えるか、相手の役に立ててもらえるか」などさまざまな点を考慮しておく必要がある。

時には会話の中で不意にアプリや機能を提示する必要に迫られることもある。そうした時スムーズに提案を出せるかどうかは、普段の情報収集や準備に拠るところが大きいだろう。

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