自治体・学校がEdTech教材導入時に意識すべき課題とは?「すららネット」による課題検証レポート

自治体・学校がEdTech教材導入時に意識すべき課題とは?「すららネット」による課題検証レポート

2020年度に急ピッチで推進されたGIGAスクール構想により、教育機関におけるICT環境が劇的に改善されている。

文部科学省が実施した「GIGAスクール構想の実現に向けたICT環境整備の進捗状況について(速報値)」という調査によると、本調査に回答した1,812自治体等のうち1,769自治体等(回答自治体の内、97.6%)が、令和2年度(2020年度)中に、児童生徒の手元にデジタル端末納品(※)を完了させるという。

※「納品完了」とは児童生徒の手元に端末が渡り、インターネットの整備を含めて学校での利用が可能となる状態を指す。

端末の普及は進んでいるが、支給された端末をどうやって教育現場でうまく活用していくのか?今後のICT環境整備においては、端末で利用できるEdTech教材・サービスの選定や運用について検討する段階になっている。

ただ、端末を使用したEdTech教材・サービスの効果的な使用方法に関しては、多くの自治体・学校においてまだまだ検討や模索を続けている段階で、悩みや課題感を覚えている人も多いのではないだろうか。

3月30日、オンラインのEdTechサービス・教材「すらら」「すららドリル」を運営する、株式会社すららネット(以下、すららネット)が、「EdTech導入実証事業で見えた!学校におけるAIドリル活用指針」と題したオンラインセミナーを実施した。

当セミナーでは、経済産業省の「学びと社会の連携促進事業(先端的教育用ソフトウェア導入実証事業)費補助金」(通称:EdTech導入実証事業)を通して、すららドリルが自治体・学校で実証導入されていく際、教育現場においてどんな課題が起きていたのかをレポートし、その課題が発生した原因や詳細について分析していた。

今後ICT環境を充実させようと検討する教育従事者にとって、当セミナーで紹介された課題は参考になると思われるので、セミナー内容の一部をレポートしたい。

すららネット、すららドリルとは

すららネットは2010年からEdTech分野に参入しており、昨今はコロナショックとGIGAスクール構想の影響もあって、すららドリル(英・国・数・理・社5科目対応のアダプティブラーニング教材)の導入実績を大きく伸ばしている。

すららネットの事業沿革。2020年時点では国内学習塾1,016校、国内学校1,026校、海外55校、約33万人の児童生徒がすららドリルを利用している。

そして、2020年9月から開始したEdTech導入実証事業では、29自治体、610校にすららドリルが実証として導入された。

すららネットは、自治体・学校への導入サポートを行うのと同時に、すららドリルが学校現場でより有効に使われるようにするため、その効果や課題に関する詳細を検証した。

すららドリルを導入して得られる効果・メリット

まず、すららドリルを導入することで見込まれる効果・メリットとしては、問題作成、テスト・教材の印刷や採点、といったこれまで教員が多くの時間・負荷を費やしていた作業コストの軽減が挙げられる。
そして作業コスト軽減は、児童生徒の個別指導に多くの時間を割けることにつながる。

従来の、紙のプリントや問題集を使用した学習では、どうしても作問や採点には時間がかかってしまうが、デジタル教材であれば、それらの作業は教材内の機能で代替できる。

すららドリルのようなデジタル教材では、作問や教材印刷の手間を、教材内の機能で代替できるので、大幅な作業コスト軽減につなげられる。

また、学習履歴(スタディログ)を活用して、児童生徒個人の苦手分野の指摘、復習問題のレコメンドを自動的に行う機能があるので、児童生徒が自走式で、個別最適化された学習を進められる。

学習履歴を活用した機能では、児童生徒の学習進捗、得意分野・苦手分野が数値として明記されるので、教員も個別指導を客観的かつ効率的にできる。
今回のEdTech導入実証事業の申請校でも、学習履歴の活用機能は、現場教員の多くから期待する声が上がっていたそうだ。

学習履歴を活用して、児童生徒個人の苦手分野の指摘、復習問題のレコメンドを自動的に行える。

作問や採点の自動化、学習履歴を活用した個別最適化された学習内容の提示などは、すららドリルにも限らず、他のEdTech教材(下記参照)でも同様の機能は用意されている。

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すららドリル導入時、浮き彫りになった課題とは

そして、すららドリルが自治体・学校で導入されていく中で浮き彫りになった課題、そしてそれら課題が発生した理由の分析内容をお伝えしたい。

作業コスト軽減などさまざまな効果が見込まれるすららドリルだが、EdTech教材導入への意識がある程度高いと思われる実証事業申請校でさえ、すららドリル導入初期は、なかなか申請校内の利用率(※)が高まらなかったらしい。

※:「利用」とは申請校内で1名以上の児童生徒がすららドリルを使用している状況を指す。

すららネットとしては、申請校内での利用率の目標を「50%」と定めていた。
しかし、EdTech導入実証事業を開始した2020年9月時点では、利用率が「19%」と、目標を大きく下回ってしまった。

EdTech教材導入の取り組みに対する熱量、意識の高低には、どうしても自治体・教員によってバラつきが見受けられ、すららドリルを導入するそもそもの利用目的を学校内で統一できていない、といった状況に陥る申請校が散見された。

すららネットは、この学校内での意思統一の不十分さが、すららドリルの利用率向上につながらない大きな理由であると考えた。

すららネットが今回のEdTech導入実証事業で得られた課題の分析レポート

すららネットでは、すららドリルの校内利用率がなかなか高まらない課題が、教員の日常業務の忙しさ、教員や児童生徒のITリテラシーに因るものだけとは考えず、「教育委員会」(自治体)、「教員」、「児童・生徒」、「環境」と課題起因を4つの対象に細分化して、詳細を分析した。

上表の「環境に起因すること」は、学校のICT環境やセキュリティ面、家庭でのICT環境などに因るもので、これらの課題解消は時間の問題といえる。
国・自治体・学校も現在、ICT環境整備には取り組んでいる最中であり、冒頭の文科省「GIGAスクール構想の実現に向けたICT環境整備の進捗状況について(速報値)」でも発表されたように、ICT環境は着実に整備が進んでいる。

すららネットとしては、おもに「教員」と「教育委員会」(自治体)に、課題改善の手掛かりがあると考え、積極的に自治体・申請校との打ち合わせを重ねながらサポートに取り組んだそうだ。

上表の「教員」と「教育委員会」(自治体)の対象から、すららドリル活用が進まないことの影響が強いと思われる理由を抜粋する。

教員に起因すること
・〈意識〉従来の指導方法が最適であるという認識のもと、Edtech教材を積極的に活用しようとしない。
・〈前例主義〉事例がないため、児童生徒に対する学習の効果性が分からない、あるいは自身の業務負荷の軽減への有効性が見いだせない。

現場教員の中には、EdTech教材を使用しない従来の授業スタイルでもとくに支障がなく、「わざわざすららドリルを取り入れる必要性を見出せない」と感じる人が少なくなかったそうで、積極的利用につながらない課題が生じたと考えられる。

教育委員会に起因すること
・各教育委員会により、本事業に対する捉え方が異なるため、設置する学校に対する強制力が働かない。教育委員会は紹介するだけ、学校任せ。

EdTech導入実証事業は、教育委員会(自治体)からのトップダウンによって、参画を決定した申請校もあった。
そのような自治体では、学校との間で、何のために今回の取り組みを実施するのか?その目的や意義の共有・統一が十分にできていない、そんな課題に直面する自治体・学校も一部見受けられたそうだ。

すららネットは、分析した得られた課題改善のため、自治体・学校に向けて、あらためて、すららドリルで得られる効果や目的を重点的に説明した。

自治体・学校との打ち合わせ・研修に加えて、申請校の活用事例をメルマガで周知したり、「成果事例共有会」を開催したりなど、すららドリルの利用シーンが現場教員にもイメージしやすくなるような施策を行い、学校内、そして自治体・学校間のEdTech教材導入の目的や意義の共有・統一を促した。

結果的に、申請校の利用率は、2020年9月時点で19%に留まっていたのが、2021年1月には「80%」と、当初の目標としていた50%を大きく超える利用状況にまで達した。

EdTech教材導入時にはプロセス課題を意識することが重要

以上、すららネットが分析したEdTech教材が自治体・学校で導入されたときに起きる課題について、セミナーの一部とともに、お送りした。

自治体・学校との間、また同じ学校の教員の間でも、EdTech教材導入時に目的・意義統一の不十分さがあれば利用率停滞につながる、といった指摘は、今後ICT環境整備を考える自治体・学校にとって、強く意識すべきプロセス課題といえるのではないだろうか。

現場教員も、従来の教育手法で支障がなく授業を進められるなら、日常業務も忙しいので、どうしてもEdTech教材利用は先送りにしてしまうだろう。

しかし、従来の教育手法を変更させないことは、EdTech教材を活用して本来得られるはずの作業コスト軽減効果を得られないことにつながる。

限りある業務時間において、EdTech教材で代替可能な作業は積極的にその教材の機能に頼り、EdTech教材でも代替ができない児童生徒への個別指導に多くの時間を割くことが、理想的なEdTech教材の利用方法なのではないか。

当セミナーで指摘されたプロセス課題には、すららネットが取り組んだ、EdTech教材導入事例・効果の周知を促す啓蒙活動が、効果的な改善方法だろう。

すららネットでは、今回紹介したような自治体・学校向けのICT活用セミナーを定期的に開催しており、気になる方はチェックしてみてほしい。

当メディアでもEdTech教材を活用することによって得られる効果やその事例については、今後も積極的に情報を発信していきたい。

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