価格の高低だけで判断しない、ICT端末の価値~ICT活用の現場から㉙

価格の高低だけで判断しない、ICT端末の価値~ICT活用の現場から㉙

文部科学省が2019年に発表したGIGAスクール構想では、全国の小中高校などで高速大容量の通信ネットワークを整備し、児童生徒1人1台の端末の普及を目指すとしている。

新型コロナウィルス感染症の流行を受け、端末の配備は2020年度末へ前倒しされるなど、日本の教育現場においてもICT環境の整備が進みつつある。

筆者も2020年度途中から地元教育委員会の委託を受け、GIGAスクールサポーターとして小中学校に週1回ずつ常駐し、学校現場におけるICT利活用の下地作りをサポート中だ。

今回はGIGAスクール構想の要の1つでもある、端末のスペック(性能)について触れたい。

導入対象のiPadはいわゆる廉価版が大多数

冒頭で述べたようにGIGAスクール構想では、児童生徒1人1台の端末の普及が義務付けられている。

導入する端末は各自治体または教育委員会ごとの判断によって異なり、Google社のChromebook、Apple社のiPad、Microsoft社をはじめとするWindowsタブレットなどが多いようだ。私が関わっている小中学校ではiPadが導入された。

導入する端末については1台あたり最大4万5,000円の補助金が各地方自治体に支給されている。そのためこの予算内で端末を確保することになる。

iPadの場合、一言にiPadと言っても現在は数種類の機種が存在する。

学校現場で導入されることが多いのは、価格的に最も安い、いわゆる標準のiPadだ。

iPadよりも一回り小さいiPad miniや、大きさは同じくらいだがスペックで上回るiPad Air。そのAirよりもさらに高スペックを備えたiPad Proなどもあるが、これらはいずれも標準のiPadより値段が高い。

補助金を含めた予算に余裕があるならこうした上位機種の導入も検討の余地がある。とはいえ実際には端末自体の値段以外にもかかる経費がある。たとえばiPadを収納しておくケースや端末の初期設定費などだ。

こうした費用を諸々含めた場合、補助金の範囲内でかつ導入端末をiPadとするならば、標準のiPadがほぼ一択と言えるかもしれない。

ここまで読んでいただいた方には、なぜ今回のタイトルを「価格の高低だけで判断しない、ICT端末の価値」としたのか少しご理解いただけたのではないだろうか。

廉価版より高スペック機種の方が有用であるのは至極あたりまえだが、GIGAスクール構想においては1台あたりの予算が決まっているため、高スペック機種の導入が難しいという事情がある。つまりは高スペック機種の有用性云々を語る前に、そもそも高スペック機種の1人1台導入は(予算の関係で)できないという話なのだ。

高スペックの端末が有用なケースとは

では、こうした補助を利用する教育現場において、高スペック機種は無用の長物と考えるべきなのか。筆者はそうとは思わない。

それは「高スペック機種ならではの」または「高スペック機種でなければ使用できない」使い方は、ときにさまざまなハンデを補う利便性をもたらす可能性があるからだ。

たとえばペン型端末のApple Pencil。標準のiPadではApple Pencil第1世代が使用できるが、iPad Air(第4世代以降)やiPad Pro(11インチは第1世代以降、12.9インチは第3世代以降)の上位機種ではApple Pencil第2世代が使用できる。

左:Apple Pencil第2世代、右:Apple Pencil第1世代

Apple Pencilの第1世代と第2世代とでは機能が大きく異なる。Apple Pencil第2世代では、iPad自体にPencilをマグネット装着できたり、ペンを指で2回タップすることで筆記と消しゴムを素早く切り替えらる機能などがある。

またiPad Proはリフレッシュレートが他の機種の倍(120Hz)あるため、Pencilの筆記感もより滑らかだ。

こうした機能の違いは一見すると些細なものに思えるかもしれない。しかしたとえば四肢に障害がある児童生徒にとっては、PencilがiPadについていて簡単に取り外しができることや、ツールを筆記から消しゴムに切り替える動作が指先で行えることが、想像以上に便利と感じる場合もある。

わずかな違いに思えても、教育の現場で筆記と消しゴムの切り替えを数限りなく繰り返すシーンを想像すれば、将来的に大きなメリットになるのではないだろうか。これは廉価版だけを使っていては気づかないことかもしれない。

高スペック機種の1人1台導入が難しいことは承知している。ただサンプルとして1台でも高スペック機種があれば、教育者も当事者となる児童生徒も「こうした使い方できる場合もある」「こういう使い方でハンデを補える可能性がある」という体験と知識を得られるきっかけになるはずだ。

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