動画やゲームが持つユニバーサルがゆえの問題~ICT活用の現場から㉜

動画やゲームが持つユニバーサルがゆえの問題~ICT活用の現場から㉜

2021年10月、青森県立森田養護学校様(以下森田養護学校)から依頼をいただき「実演で学ぶ 障害のある方のためのICT活用」と題し講演を行った。

森田養護学校は青森県つがる市に位置し、知的障害や知的障害を伴う肢体不自由のある児童生徒が学ぶ特別支援学校。

今回の講演は青森県特別支援学校PTA連合会関係の地区研修会として、また森田養護学校のPTA研修会を兼ねた実施となった。

私がふだん関わることが多いのは視覚・聴覚障害に関するものだが、今回は知的障害や肢体不自由に関係したICT利活用の事例を盛り込む必要があった。

保護者は研修会に何を求めているのか

今回の研修に限らず講師を担当する側としては、できるだけ「受講者が求める情報」をたくさん盛り込みたいと思うのが心情だろう。それを正確に知るには「どんな内容が聞きたいか」を前もって受講者にヒアリングするのが一番良い。

教える側が「こういう内容を求めているだろう」と漠然とイメージしても、研修の受講予定者と直接会ったことでもない限り正確なニーズを知るのは難しい。

ありがたいことに森田養護学校側で、受講予定の保護者へ「どういった内容が聞きたいか」を事前にアンケートしてくれることになった。

アンケートの集計結果が出る前に私がイメージしていた「受講者の聞きたいこと」といえば、「特別支援学校の授業で活用できるアプリ名や機能の紹介」くらいだったが、後日アンケートの集計結果を見て「なるほどそうか」と、目からうろこが落ちる思いをすることになる。

アンケートでわかった多様で意外なニーズ

研修会の受講予定者である、森田養護学校に通う子どもたちの保護者アンケートで「講師に聞きたい(話してほしい)ことはなんですか」という設問のうち回答の多かった順から一部を以下に挙げる。

  • 同率1位「障害のある方向けの活用方法」
  • 同率1位「家庭での使い方(動画・ゲーム以外)」
  • 同率3位「ICT教育のメリット・デメリット」
  • 同率3位「養護学校ならではの使い方」
  • 5位「iPadの基本操作」(森田養護学校では1人1台iPadが支給されている)
  • 6位「Androidやスマホ用の障害のある人に便利なアプリ・使用方法」

1位の「障害のある方向けの活用方法」は予想通りだったが、「家庭での使い方(動画・ゲーム以外)」が同率1位という結果は予想外だった。

とはいえ子どもをもつ親や保護者であれば、多くの子どもたちが熱中する動画やスマホゲームへの対応は誰もが抱える悩ましい問題。これは通常学級であろうが特別支援学校であろうが変わりない共通のテーマなのだと、アンケートから見たニーズの高さから実感した。

動画やゲームが持つユニバーサル要素

逆に言えば通常学級に通う子どもも、知的障害や肢体不自由のある子どもも等しく動画やゲームを楽しんでいる(使えている)という見方もできる。

皮肉なことに動画やゲームには(程度の差はあるだろうが)障害のあるなしに関わらず子どもたちにエンタテインメントを提供できるというユニバーサルな要素があるとも言えるだろう。実際に海外発のゲームを楽しんでいる子どもたちは多いし、チャットやボイスチャットなどで海外ユーザとコミュニケーションをとりながらプレイを楽しむケースも多い。

昨今ではeスポーツの話題もメディアで多く取り上げられ、中には障害者プレイヤーや障害者によるeスポーツチームの活動も目にするようになった。そしてこうしたeスポーツの広がりを支えてきたのがYouTubeなどゲーム実況動画が多数見られる動画共有サイトだ。つまりゲームと動画はそれぞれ別の分野に見えて両者は密接なつながりがある。

ちなみに「目の見えない人はYouTubeなど利用しないだろう」と考えるのは晴眼者によくあることで、実際のところ視覚障害のある人たちはYouTubeをよく利用している場合が多い。YouTubeの画面は音声読み上げ機能などを頼りに操作できるし、動画は見えなくてもその音を楽しむ視覚障害ユーザは多いのだ。

中には視覚障害があってもいわゆるコンピュータゲームを楽しむパワーユーザも存在する。以前視覚に障害のある方同士による格闘ゲーム「ストリートファイター2」の対戦を見せてもらったことがあるが、言われなければ目が見えないとは気づかないようなプレイぶりに驚かされたことがある。このときほど「ゲームのアクセシブル」を感じたことはないかもしれない。

ユニバーサルだからこその不安

さまざまな障害があっても楽しめる動画やゲーム。だからこそ障害のある子どもを持つ親や保護者にとって、動画やゲームに熱中する子どもたちの様子を不安に感じてしまうだろう。

ある学校の先生からこんな話を聞いたことがある。「特別支援学級の子たちも通常学級の子たちと一緒によくゲームをしているようです。ただ障害がハンデになっている部分もあるのか、同い年の子と一緒にプレイしてもたいていは負けてしまい、バカにされてしまうこともある。それによって子どもたちのストレスが溜まってしまうことが気がかりです」。

ユニバーサルだからこそ誰とでも楽しめる動画やゲーム。しかしそのユニバーサルがゆえに起こりやすい問題は、ICTの活用と並行して考えていくべき事案と言える。

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