【私塾界3月号】大学入学共通テスト〈2022〉にみる 3つの新傾向化と 来年度予想問題 大公開!

【私塾界3月号】大学入学共通テスト〈2022〉にみる 3つの新傾向化と 来年度予想問題 大公開!

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【私塾界3月号】大学入学共通テスト〈2022〉3つの新傾向!

2022年1月15日(土)16日(日)に、2年目となる「大学入学共通テスト」が実施されたことは記憶に新しい。問題の質的転換が目立ったことや、多くの科目で前年よりも平均点がダウンしたことなどから、総評として「難化した」と言われているが、その「難化」の本質とは、果たしてどのようなことなのだろうか。のべ十万人を超える人財開発研修実績と非認知スキルの研究実績を持つ日本アクティブラーニング協会(株式会社サマデイ)が、独自の傾向分析を公開した。

あなたは豚肉の視点から物事を考えたことがあるか?

国語の「第1問」には、早速受験生を翻弄する問題が出題された。食べることについて考察した2つの文章を読解して答える問題だが、2つ目の文章として提示された、藤原辰史氏の『食べるとはどういうことか』からの引用文で、衝撃が走った。

大学入学共通テスト2022より 国語【第1問】(朱枠は編集注)

その書き出しは「長い旅のすえ、あなたは、いよいよ、人間の口の中に入る準備を整えます」という一文から始まる。この読解文は「人間に食べられた豚肉(あなた)の視点」から「食べる」ことについて考えるものだったのだ。豚肉の視点に立つという、対策したことのない視点転換が求められたことを鑑みれば、多くの受験生の困惑の声も理解できる。しかし、現実の社会に照らし合わせれば、この問題の新傾向化としての本質的な意味が、くっきりと浮き彫りになる。私たちの生きる激動の現代は、まさしく未曾有の出来事の連続だ。この時代をたくましく生き、たとえ未体験の現場であってもどっしりと構えることができる力というのは、極めてリアルで、重要な力だ。入試が単なる合否の判定装置としてではなく、人財の育成装置として機能するものであるとしたら、本問題のような新傾向は、ますます加速することが予想されるだろう。

【新傾向①】「未体験の立場から物事を思考する力」を問う問題

ちなみに、日本アクティブラーニング協会が主催する人財開発研修の現場では、こういった力を全面的に鍛えるために、想定外の問いに制限時間内に向き合い、自ら考え表現する「SDGsカリキュラム〈非認知スキルトレーニング〉」という円盤型の教材が使われている。図1として掲載したのは、2019年に某メガバンクの研修で実施した問題。「豚肉の視点」という今回の共通テストのテーマ設定まで酷似している。

【図1】2019年に実施した実際の問題。今年度の共通テストの「豚肉の視点」と内容が的中している。

対話に参加する当事者意識を問う入試問題

近年、ある就職試験で次のような面接があった。就活生が面接会場に入ると、そこでは12人の大人たちが日常の延長のように会議をしている。就活生には何の状況説明もなく、会議はそのまま進行し、いかに就活生が自然にその会議に溶け込むことができるかを見るというものだ。与えられた問い通りに正確に行動する力ではなく、自ら問いを設定する力が求められている。このように、対話の意図を汲み取り、情報を正しくキャッチし、整理・考察する力が、大学入学共通テストでも求められるようになった。

12名の会議に突然あなたが加わって進行していく実際の就職試験(イメージ)

まずは、日本史Bより「第1問」を紹介する。この問題は「人名から見た日本の歴史」というテーマで、ひたすら陽菜さんと大輝さんとの対話が展開される。対話内容は「子供の名付け方と生まれ年別名前ベスト10」というトピックにまでおよび、その対話内容と、嵯峨天皇の子供の名前に関する知識とを重ね合わせる判断力が求められた。

大学入学共通テスト2022より 日本史B【第1問】

一方こちらは、数学ⅠAより「第1問」[2]の問題だ。キャンプ場のガイドブックにある地図を見ながら、地形について対話するという日常的なシーンの中で、三角比を利活用する問題だ。知識を知識として引き出す問いのつくりではなく、それらを実用的なシーンで活用できるかを問う「実学思考」に転換したという見方もできるだろう。

大学入学共通テスト2022より 数学ⅠA【第1問】[2]

これらの問題に代表されるように、今回の「大学入学共通テスト」では、対話文をベースとした問いが科目を問わず数多く出題された。日本アクティブラーニング協会の独自調査によれば、全体を通した対話文の大問出題率は、なんと47・9%にもおよんだ(表1)。 (国語・英語を除く主要科目で算出・掲載)

【表1】大門ごとに1題として、設問が細分化されている場合は、それぞれをカウントして算出。

企業の人財採用の現場はもちろん、現在定員の占有率が増す「総合型選抜」や「学校推薦型選抜」などで、ますます面接試験やディスカッションなどが増えていることも同様の理由によるものだが、こういったダイアログ型の問題が筆記試験でも増えているのは、受験生のコミュニケーション能力を問いたいという出題者の意図が強く入試問題に反映された結果と言えるだろう。

【新傾向②】対話文から文脈の本質を見抜くダイアログ型の問題

受験生の「SDGsアンテナ」が正答率を左右する

「プラスチックリサイクル」「ギグワーク」「エコツーリズム」「世界の自然災害」「共同体の意味」「世界の日本語教員数の変化」「持続可能な社会の形成」…これらは、本年の大学入学共通テストで出題されたテーマの一部だ。明らかに、SDGsの17のゴールを想起させる「社会課題」がテーマとして選ばれていることがわかる(図2)。

【図2】

この手の問題の正答率を上げるには、SDGsに関する思考を日常から巡らせているかどうかが鍵を握る。イシューをただ外側から傍観しているだけではなく、自分ごととして課題を捉え探究する姿勢が、その問いの本質を見抜く唯一の方策と言っても過言ではない。人が一つの課題に向き合い解決を図るフレームワークのひとつとして「デザイン思考」があるが、この思考プロセスの第一段階は「Empathize(感情移入)」から始まる。大学入学共通テストのような問題に向かう時にもこの思考プロセスは極めて有効だ。学校現場でも「探究学習」本格化してきているが、SDGsに示された社会課題に日常的に感情移入する経験が、より重要になってくるだろう。

【新傾向③】 社会課題への意識を問う「SDGs」の関連問題

企業研修の現場から来年度の入試を大予想!

これまで挙げてきた3つの新傾向は、どれをとっても、受験の枠組みだけに収まることではない。実際に日本アクティブラーニング協会が年間200社ほど実施する企業の人財開発研修でも、同様の課題を研修テーマとして希望される研修担当者は多い。本記事では、研修の現場で実際に使用している「SDGsカリキュラム〈非認知スキルトレーニング〉」の一例を、来年度の入試予想問題として公開する。

今後の社会情勢からも、企業が求める人財開発研修と入試のテーマは一致していく。

本記事が掲載される頃には、多くの中学入試に加え、私立大学・国公立大学の本試が行われており、きっとまた多くの新傾向の入試が世の中を騒がせていることだろう。傾向性の波に左右されることなく、毅然と構えて、自らの思いや考えを解答用紙に表現できる力が必要だ。

速報&予想問題動画QRコード( https://youtu.be/P7m4uH7TeWA

※本記事は『月刊私塾界』2022年3月号からの転載です。

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