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【私塾界5月号】早慶の最新大学入試問題を読み解く重要なカギとは?

学習塾や予備校の経営者をメインターゲットとした情報誌『月刊私塾界』。
『月刊私塾界』では、全国の学習塾にとって有益になる情報を、「塾・企業」「教育ICT」「地域教育」「受験」といったテーマにて、数多く紹介しています。

『月刊私塾界』で紹介される情報は多岐にわたり、それらは学習塾や予備校の経営者だけに限らず、教員、EdTech企業、教育委員会など、教育業界に携わる者なら誰にとっても役立つものです。
EducationTomorrowでは、今回から月刊私塾界に掲載された注目すべきニュース・トピックを、転載します。


【私塾界5月号】早慶の最新大学入試問題を読み解く

日本を代表する私学の雄である「早稲田大学」と「慶應義塾大学」。これら二大学の共通点として挙げられるのは、何と言っても、大学入試改革のスピードの速さだと言えるだろう。毎年、さまざまな新傾向問題で教育界を騒がせているが、それらの「新傾向問題」を受験生に仕掛ける大学の真の意図とは、果たして何なのだろうか。本稿では、これまで、のべ十万人を超える人財開発研修実績と非認知スキル研究実績を持つサマデイグループ(本社:東京都千代田区・相川秀希CEO[日本アクティブラーニング協会理事長])による、独自の分析を掲載する。(文責:日本アクティブラーニング協会)

大隈重信の精神を受け継ぐ早稲田大学の入試改革

本年1月10日(月)、早稲田大学が「大隈重信没後100年記念式典」を催した。この式典の第2部で、第17代総長の田中愛治氏は「Waseda Vision 150 and Beyond」と題した講演を通じて、大隈重信の理念を継承した大学経営について、具体的な提言を行った。それは、大隈重信が遺した建学の精神=「早稲田大学教旨(以下、教旨)【図1】」に基づいた教育を徹底して実現するという内容だった。

【図1】 早稲田大学教旨

この「教旨」は、1913(大正2)年「創立30周年記念祝典」の折に、大隈重信によって直々に宣言されたもので、現在の早稲田大学の根本理念を示す文書として大切に受け継がれている。サマデイグループではこれまで、大学入試問題を、「大学の基本理念の分身」と定義し、長年独自の分析を行なってきたが、早稲田大学においては、この「教旨」こそが、入試問題の根底に流れる重要なメッセージだと仮説を立て、論考を繰り返してきた。そんな「仮説」が、今回の田中総長のメッセージによって、鮮やかに立証されることとなった。田中総長のメッセージは下記のようなものだ。

―――「学問の独立」を継承・発展し、「研究の早稲田」を実現する。
―――「学問の活用」を進化・体系化し、「教育の早稲田」を実現する。
―――「模範国民の造就」による人類社会への貢献を目指し、「貢献の早稲田」を実現する。

これらの達成のために、「たくましい知性:答えのない問題に挑戦する力」と「しなやかな感性:敬意を持って他者と接し理解する感性」を育んでもらいたい。

この、大隈重信初代総長×田中愛治現総長のメッセージをベースに、今年実施された最新の早稲田の入試問題を見てみると、早稲田大学が入試問題を通じて何を実現したいのか、はっきりと分かるだろう。

【図2】 政治経済学部(総合問題)における[英語]の自由英作文

図2に示しているのは、政治経済学部(総合問題)における[英語]の自由英作文だ。「オンラインミーティングの参加者は、実名でなければならないか?」というテーマに対し、賛否どちらかの立場で論じる問題だ。一見すると通常の自由英作文のように見えるが、「オンラインミーティング」という設定が極めて新しい。コロナ禍で加速したこの状況設定には、まだ世の中の秩序が追いついていない。題意をどう掴み、思考し、自分独自の答えを導くのか。まさに「学問の活用」によって正解のない問いに向かわせる典型的な出題例と言える。

左図はネットリテラシーをベースにした問題として類似(2020年度実施)。右図は初見のグラフを読解する問題として類似している(2021年度実施)

また、スポーツ科学部の小論文では、ヒトの二足歩行と四足歩行による、それぞれの100m走の世界記録の推移(グラフ)を見て、考えられることを論述する問題が出題された。ここで着眼すべきは、横軸がなんと西暦2100年まで取られているという点だ。このことから、本グラフが、過去のデータを示すものとしてだけではなく、ここから先の未来の研究に大きく期待するものとして提示されていることが読み取れる。まさに、「研究の早稲田」をそのまま表現したような問題だ。

大学入試の真の意義は、受験生との健全な出会いを実現することだ。そのために創意工夫を凝らして用意される最新の大学入試問題には、これからも間違いなく大学の究極の理念が詰め込まれると言えそうだ。

【ポイント】最新の大学入試問題には、大学の根源的な理念が詰め込まれている!

福澤思想を貫く慶應義塾大学SFCの入試問題

一方、ビジョナリーな入試を実施する代表格として、慶應義塾大学の名を挙げることに異を唱える人はいないだろう。SFCが1990年に日本で初めてAO入試を実施し、今もなお本質的な人財採用を極めて高いレベルで行い続けていることからも説明がつく。SFC公式サイトの人気コンテンツである学部長ブログ「おかしら日記」の中で、現学部長の一ノ瀬友博氏はこう述べている。

―――大学の「最重要業務」とは何だろうか。大学は教育機関であり、最も重要な仕事は教育であることは間違いない。しかし、入試も大学にとって極めて重要で、SFCでは(たぶん慶應義塾大学の他の学部でも)入試が最重要業務であるとされる。(2022年2月22日 掲載)

ここでは、「最重要業務」とまで表現されるSFCの「一般入試」の問題に光を当ててみよう。SFCの一般入試の顔とも言えるのは「小論文」だ。まずは【図3】に目を通していただきたい。

【図3】 慶應義塾大学SFC【環境情報学部】の小論文問題の〈第1文〉比較

この資料は、2018年から本年までの実際の小論文問題における、冒頭の文章を比較したものだ。何を隠そう、これらの文章には、SFC〈環境情報学部〉の人財育成観が、極めてストレートに表現されている。これはひとえに、「ひとつの学問分野にとらわれることなく幅広い視野を持ち、地球規模で問題発見・解決できる創造者でありリーダーを目指そうとする学生を歓迎します。」という本学部のアドミッションポリシーをそのまま受験生に問うていると分析できるが、もっと原点的には、福澤諭吉が自ら記した「慶應義塾の目的(図4)」を現代に受け継ぐメッセージであると解釈できる。

【図4】 慶應義塾の目的「慶應義塾図書館」所蔵資料より

しばしば、大学のポリシーを重要視するのは総合型選抜(旧AO入試)であって、一般選抜においてはその必要はないという見解を耳にするが、それは大きな誤りだ。大学入試が健全な人財獲得装置である以上、思いをかけて人と巡り会うのは当然のことだ。事実、本年の慶應義塾大学〈医学部〉の英語の問題では、「あなたが慶應義塾大学医学部の学生として相応しい理由」を英語で記述させる問題が出題されている。本来AO入試や面接試験の枠組みで「志望理由書」として問われるような設問が、一般選抜の中で問われているのだ。入試方式を分断して考えるのではなく、入試本来の目的と向き合うことが必要だ。

自己アピールを明文化する問題として類似(2017年度実施)

ビジョンと向き合うサマデイグループ人財開発研修

ちなみに、サマデイグループでは、企業の人財開発研修にて、「創業の理念」と向き合うプログラムをこれまで数多く開発し実践してきた。特に近年では、事業継承における理念の風化を防止したり、M&A後の理念継承を実現したりといった経営者の願いをプログラム化する機会が多い。ここでは、そんなプログラムで実際に使用したSDGsカリキュラム[円盤型教材]の一例をご紹介しよう。

サマデイグループの人財開発メソッド(2021年度実施)

次代を担う、未来の早稲田大学生・慶應義塾生へ

最後に、早慶大をめぐる一つの奇跡について触れておこう。本稿の冒頭で「大隈重信没後100年記念式典」について書いたが、開催日である「1月10日」は、大隈重信の命日でありながら、なんと福澤諭吉の誕生日でもある。三歳違いの二人の傑物は、同時代を生きた同志だったが、この天道的な日付の一致をみると、なんとなく、両翁が命を懸けて思いのバトンを繋いでくれたかのようにも見える。さて、早稲田大学・慶應義塾大学は、このバトンを次に誰に託そうとしているのか。最新の入試問題を通じて、バトンの受け取り手を探そうとしているのかもしれない。

※本記事は『月刊私塾界』2022年5月号からの転載です。

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