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【私塾界8月号】SDGsカリキュラムが次々と入試に「的中」する理由

学習塾や予備校の経営者をメインターゲットとした情報誌『月刊私塾界』。
『月刊私塾界』では、全国の学習塾にとって有益になる情報を、「塾・企業」「教育ICT」「地域教育」「受験」といったテーマにて、数多く紹介しています。

『月刊私塾界』で紹介される情報は多岐にわたり、それらは学習塾や予備校の経営者だけに限らず、教員、EdTech企業、教育委員会など、教育業界に携わる者なら誰にとっても役立つものです。
EducationTomorrowでは、今回から月刊私塾界に掲載された注目すべきニュース・トピックを、転載します。


【私塾界8月号】SDGsカリキュラムが次々と入試に「的中」する理由

先月号の裏表紙に掲載した、某医療系大学の最終面接で使用されたSDGsカリキュラム〈円盤型教材〉をご覧いただいた読者の皆さまより、大変多くの反響をいただき、どうもありがとうございました。メッセージの中に「実際の大学入試で出題された他の事例も教えてほしい」「SDGsカリキュラムと新傾向の大学入試の関連性をもっと知りたい」といった声が多数含まれていたことを受け、本稿では、「SDGsカリキュラム」が実際の入試で的中した事例を、誌面の許す限りご紹介することにしました。なお、それぞれの的中問題に対して、サマデイグループ(本社:東京都千代田区・相川秀希CEO[日本アクティブラーニング協会理事長])による、独自の分析を添えています。(文責:日本アクティブラーニング協会)

未知の新領域に立ち向かう「初見問題対応力」の鍛錬

第28代東大総長を務めた小宮山宏氏は、国際的に先例のない課題を数多く抱える日本のことを「課題先進国」と表現した。この言葉は、山積みの課題をリアルに捉える重要性を指摘していると同時に、「課題先進国」である日本こそ「課題解決先進国」であるべきだというメッセージを含んでいる。ここで言う「課題解決」を担うのは、紛れもない、私たち一人ひとりだ。

このような課題意識をベースにすれば、社会に人財を送り出す大学が、入試を「課題解決型の人財採用」にシフトさせることにも合点がいく。直面する社会課題には模範解答などないのだから、過去問と睨めっこして、解法パターンを刷り込んでいるだけの学生は、決して求められていない。それでは、昨今めまぐるしく変化する新傾向入試に立ち向かうには、どのような力を身に着けることが必要なのだろうか。その答えを一言で表すならば「問いに内在する真のメッセージ」を掴む力ということに尽きるだろう。目の前の課題に対して単なる一般論をあてがうのではなく、その課題が投げかけられていること自体に意味を見出し、問いが持つ奥深い〈メッセージ〉を見抜く力。私たちはこのような洞察力のことを、端的に「初見問題対応力」と呼んでいる。

それではここから、実際の進化する大学入試問題と「SDGsカリキュラム」の的中をご紹介しながら、どのような「初見問題対応力」が必要とされているのかを考察していこう。

的中情報①受験生の声を「文章」で表現させる入試問題の数々

まずは、【図1】の問題を見てほしい。これは東大の前期試験〈英語〉における、2[A]の有名な英作文だ。2019年の問題だが、受験生の創造的思考を掻き立てる、とても面白い設問だ。本問題が出題された前年である2018年が、「北海道胆振(いぶり)東部地震」「大阪府北部地震」「西日本豪雨」「北陸豪雪」「大型台風」「記録的猛暑」など、様々な天災に見舞われた一年だったことを振り返ると、祝日という「新しい休息を求める国策」がテーマになることにも意味を感じる。

【図1】東大2019 2A [祝日の問題]

また、本問題の最後の一文にある「〜国内外の特定の地域、もしくは全世界を祝うようなものでもかまわない。」というメッセージに、意味を感じずにはいられない。まさにこれは、受験生が持つ「SDGs思考」を引き出すトリガーになっているわけだが、受験生の持っている潜在的なグローバル意識を把握したいという東大のメッセージに他ならない。

実は、この年、東大受験後の学生から「今年の英語、SDGsカリキュラムが大的中でした!」との報告が絶えなかった。というのも、学生は2018年に、次の【図2】に示した課題に挑戦していたからだ。新たな祝日を制定するという、全く同じ問いの設定だ。また、このSDGsカリキュラムは、表裏で日英両言語のデザインとなっているため、英語面に取り組んでいた学生は、特に的中度が増したと言えるだろう。

【図2】円盤型教材(祝日の問題)

この東大の問題に限らず、入試問題を通じて、受験生に文章表現を求める入試問題が、近年極めて増えている。選択式の問題だけではわからない、受験生の本心を少しでも聴きたいという大学の願いの表れだ。

例えば、例年論述の多い「北海道大学」の今年の入試問題〈世界史〉では、全19問の設問のうち、13問が「説明しなさい」という記述式の問題だった。割合にすれば、68・4%と記述量となり、試験時間が90分ということを考えると、単純計算、一つの記述解答を仕上げるのにかけられる時間は、わずか、4・7分だ。(図3参照)

【図3】北海道大学 世界史分析の図表

ちなみに、この北海道大学の問題に直面した受験生からも喜びの声が届いた。それは次のようなものだ。

―――SDGsカリキュラムで、「5分間でひとつの解答を作り上げるトレーニング」をしていたので、世界史の短答記述も全く怖くありませんでした。SDGsカリキュラムを通じて、「思考力」に加え、「受験本番のタイムマネジメント力」も身に付いていたのだなぁと実感しました。

【ポイント】記述式の問題には、受験生の真の声を聴きたいという大学の願いが表れている!

的中情報②筆記試験で「対話」を実現しようとする大学入試問題

次にご紹介する的中問題は、「大学入学共通テスト」からだ。政治経済の問題(第6問)に、次のような問題が出題された(図4参照)。これは、外国為替レートを理論的に求める購買力平価説の問題なのだが、架空のハンバーガーの価格が、為替レートや物価水準によって各国で変動することをテーマにしている。

【図4】大学入学共通テスト〈政治経済のハンバーガー問題〉

実は、昨年SDGsカリキュラムで学んでいた学生は、この問題を見た時に、またしても大的中を実感することとなった。それは、【図5】の円盤型教材でトレーニングを積んでいたからだ。

【図5】円盤型教材(ビッグマック指数)

設問が細かいので少々解説を加えるが、このSDGsカリキュラムは、前段で「ビッグマック指数(各国におけるビッグマックの販売単価をもとに、各国間の購買力を比較し、指数と為替レートの乖離から為替レートの適正値や物価動向を推察する試みのこと)」について図表を交えて解説した上で、ビッグマックの価格に関する母と娘の対話文が掲載されている。その上で、30年後の日本について考察するという設問だ。単にビッグマック指数についての知識を理解するだけでなく、そういった背景知識をもとに未来を見据えるという問いになっている。

重要なポイントは、このSDGsカリキュラムが「対話文」からメッセージを読み解く立て付けになっているということだ。本誌の3月号にて「大学入学共通テスト」を分析したときに、本年の共通テストにおける対話文の大問出題率が47・9%にもおよんだことを示したが、近年、筆記試験の中に「対話」の要素を盛り込む問いが激増している。実は、前述の政治経済の実際の問題も例外ではなく、学生たちが議論を繰り広げるという対話のシチュエーションの中で、ハンバーガーの問題が出題されているのだ。

企業の人財採用の現場はもちろん、現在定員の占有率が増す「総合型選抜」や「学校推薦型選抜」などで、ますます面接試験やディスカッションなどが増えているが、こういった対話型の問題が筆記試験でも増えているのは、受験生のコミュニケーション能力を問いたいという出題者の意図が強く入試問題に反映された結果と言えるだろう。

【ポイント】対話形式の問題を通じて、受験生のコミュニケーション能力を問うている!

的中情報③口頭試問でも的中する「SDGsカリキュラム」

ここまで、一般選抜の問題を中心に的中情報をお伝えしてきたが、最後に、総合型選抜の的中事例を紹介しよう。慶應義塾大学法学部FIT入試(法律学科A方式)の事例だ。本入試では、2次選考において「模擬講義×論述試験」に加え、「口頭試問」という面接形式の試験を用意しているが、この口頭試問の共通テーマは下記のようなものだった(大学公式HPより)。

自殺幇助をテーマとする重大課題だが、実は、【図6】のSDGsカリキュラムでトレーニングを積んでいた学生にとっては、たやすいものだったに違いない。

【図6】円盤型教材(夫婦同時安楽死の問題)

このSDGsカリキュラムでは、自殺ではなく「夫婦同時安楽死」というテーマを扱っているが、医師による自殺幇助という観点では、完全的中と言える問題だ。

ちなみに、このFIT入試の2次選考では、この口頭試問の開始前に、自己アピールを兼ねた2分間の自己紹介を行い、そのことをきっかけに教授とのやりとりがスタートするのだが、この2分間で最も重要なのは、これまでの自身のポートフォリオを俯瞰して、自分にしか語れないマイストーリーを伝えられるかどうかという点だ。この点に関連する、ある受験生の喜びの声を、最後にご紹介したい。

―――FIT入試の口頭試問の日の朝に見返していた1枚のSDGsカリキュラムが、私の口頭試問を支えてくれました。それは、昨年取り組んだ「イパネマの娘」に関連する問題です(図7参照)。あの円盤問題は、これまでの人生の中で、瞬間的な出会いによって生まれた産物を解答する問題でしたが、あの5分間の解答の中で、とにかく自分の人生を一気に振り返ったんです。あの時以来、それまで軽視していたちょっとした出来事に大きな価値があることに気がつき、自分のことを話すことに、抵抗がなくなりました。口頭試問の自己アピールは、ほとんど、あの円盤に解答したときのことを思い出して、乗り切ることができました!

【図7】円盤型教材(イパネマの娘)

【ポイント】一人ひとりの可能性に光が当たる新傾向入試では、マイストーリーに価値を見出す力が重要!

※本記事は『月刊私塾界』2022年8月号からの転載です。

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